Maserati MC20
マセラティ MC20
マセラティ MC20に最速試乗! 最新イタリアンスーパーカーのハイレベルな完成度に渡辺慎太郎も脱帽
それでも彼らが試乗会を実施した理由
こんな時期に国際試乗会を開催するなんて、マセラティもずいぶん悩んだそうである。これがもし、既存モデルの仕様変更やエンジン追加程度だったなら行わなかっただろうと言っていた。でもしかし、今回はMC20である。車名のMC20は「マセラティ コルセ 2020」の略で、新生マセラティのオープニングドアであり象徴でもあるモデル。マセラティの歴史に必ず深く刻まれるこのクルマをやはりひとりでも多くのメディアに試して欲しいと決断したそうだ。実際、いくつもの国から辞退の連絡を受けたらしく、試乗会場に到着した際には「ほんとによく来てくれた!」といつも以上の歓待を受けた。
マセラティの名誉のために付け加えておくと、彼らの感染症対策は完璧だった。食事やカンファレンスはすべてマスク着用でソーシャルディスタンス。試乗会に関わるスタッフには全員2日に1度のPCR検査を義務づけ、試乗会参加者の我々も到着当日にPCR検査を受けた。通常はふたり一組で1台をシェアするシステムも、今回はひとり1台。降車の度に徹底した消毒を行ってくれた。「やればできるじゃん!」と内心思ったけれど口には出さず、そこまでやってくれた彼らにむしろこちらが感謝したほどだった。
白紙から作ったミッドシップスーパーカー
すでにここでも何度か紹介しているように、MC20はミッドシップレイアウトの(俗に言うところの)スーパーカーである。その構造や機構や機能から悪いはずがないというのは容易に想像がつくけれど、実際には期待や想像や予測をはるかに上回る仕上がりだった。
ボディサイズは全長4669mm、全幅1965mm、全高1221mm、ホイールベース2700mm。フェラーリ F8トリブートは全長4611m、全幅1979mm、全高1206mm、ホイールベース2655mmだから、MC20のほうが全長(とホイールベース)が若干長く、でも幅は狭く背は高い。つまりほぼ同じような大きさである。
あくまで“機能重視”のスタイリング
ドアはバタフライ式で、外側のドアハンドルを握るか室内のボタンを押すと電磁ロックが解除される仕組み。スーパーカー然としたスタイリングは実は機能優先でもある。MC20にはいわゆるスポイラーの類いがほとんど見られないが、スポイラーを用いずに前後に適度なダウンフォースを発生させるというのがデザインテーマのひとつだったという。
後方にパワートレインを積むミッドシップレイアウトの場合はフロントに荷重が乗りにくい場合もあるので、特にフロントのダウンフォースを稼ぐデザインになっていて、フロア下やフロントボディサイドの空気の流れと抜けをよくすることでそれを達成している。フロントの開口部はエンジンの冷却用、リヤフェンダー上部の開口部はターボの冷却用で、その奥にそれぞれラジエーターが置かれている。
新規に開発した純正V6エンジンを搭載
エンジンはこのクルマのために開発した3.0リッターのV6ツインターボで、“ネットゥーノ(英語ではネプチューン)”というマセラティのシンボルの名前がわざわざ付いていることからも、彼らのこのエンジンに対する思い入れが分かる。
V6のバンク角は90度で、これはエンジン高をできるだけ抑え重心を下げたかったから。バンク角が広いので当初はバンク内にふたつのターボを配置しようと考えたがそれでは重心が上がってしまうので、あえて両サイドの下部に配置したそうだ。当然のことながらドライサンプで、オイルのリザーバータンクは縦長のものをバルクヘッド側に設置している。
F1由来の「プレチャンバー」方式を採用
ネットゥーノの特徴のひとつが、F1のエンジンでも採用されているプレチャンバーを備えていること。プレチェンバーは日本語で副燃焼室。シリンダー上部にほんとうにごく小さい燃焼室があり、そこに吹き込まれる混合気にプラグで点火して火炎をシリンダーへ噴射する仕組みである。
簡単に言えば、普通のエンジンのシリンダーを「薪にマッチで火をつける」と表すなら、プレチャンバーは薪に火炎放射器で火を付けるような感じである。燃焼が早く効率もいいのがメリット。ただ常時プレチャンバーを使っているわけではなく、シリンダーにもプラグがあるので通常燃焼と状況によって使い分けている。つまりネットゥーノはV6だが、スパークプラグは12本あるわけだ。ちなみに燃料供給はポート噴射と直噴の併用なので、インジェクターも12本存在する。
構造的に複雑で制御も難しいプレチャンバーをあえて採用したのは、このエンジンがV8ではなくV6だからである。ボディサイズがほぼ同じF8トリブートはV8を積んでいるわけで、比較されるのは火を見るよりも明らかだ。それでもコンパクトで経済性もいいV6であえて勝負しようとマセラティは考えたのである。720ps/770Nmを誇るF8トリブートに対してMC20は最高出力こそ630psだが最大トルクは730Nm。最高速はF8が340km/hでMC20は325km/h、0-100km/h加速はどちらも約2.9秒なので、結果としてパワースペックではほぼ同等レベルへ達することに成功している。
いざMC20の車内へ
試乗ルートには一般道とモデナ・サーキットが用意されていた。バタフライドアはダンパーのおかげで思ったほど重くなく、スッと開く。サベルト社製のシートに収まると、目の前にはこれまでのマセラティとはまったく異なる光景が広がる。10インチの液晶モニターがふたつあってひとつはメーターパネル、もうひとつはセンターディスプレイ。こっちはタッチ式でエアコンをはじめとするほとんどの装備をコントロールする。したがって機械式スイッチの数はミニマムで、センターコンソールにはトランスミッションのボタンスイッチ(DとR)とドライブモードのダイヤル式切り替えスイッチ、パワーウインドウスイッチくらいしかない。
一般道での印象は(こんな格好をしているのに)乗りやすいのひと言に尽きる。ステアリングやペダルからの入力に対するクルマの反応は決してナーバスではなく、フツーのクルマのようなドライブが可能だ。「女性にも楽しんで欲しい」というMC20のコンセプトがきちんと成立している。一方で両手とステアリング、右足とペダルにはそれぞれ一体感のようなものがあり、どちらもコントロール性がとてもいい。
モデナ周辺の荒れた道を走る
モデナ近郊のカントリーロードは道幅が狭く路面も荒れたところが多いので、こういうクルマで車線をキープするのはなかなか難しいのだけれど、MC20はそれがいとも簡単にできてしまう。路面のアンジュレーションによって前輪が動いたりしないし、白線にぴたりとつけたまま走行することが可能だった。そして乗り心地のよさにも驚く。20インチで幅広のタイヤはまったくバタつかず突き上げもごくわずかなので、これなら助手席からも文句は言われないだろう。
乗り心地のよさの要因のひとつは、適度にばね上を動かす前後5リンク(ダンパーは電子制御式)のサスペンションのセッティングにある。動かすといっても普通のクルマと比べれば微々たるものだが、これはハンドリング面でも功を奏している。わずかなピッチとロールのつながりは見事だし、ドライバーが荷重移動をコントロールできる隙をあえて残してくれているからワインディングロードでのドライブは本当に楽しい。ボディの中心からやや後方あたりを軸に、面白いように向きを変える回頭性のよさも高く評価できる。
サーキットで豹変したV6
ネットゥーノが本領を発揮したのはサーキットだった。おそらくタウンスピードの領域ではほとんど通常燃焼だったと思われる。サーキットのようにスロットルペダルによる全開と全閉を繰り返す状況ではプレチャンバーの効果により確かにレスポンスが圧倒的によく、運転のリズムがまったく乱されない。トルクはもちろん十分だけれど出力の伸びがこの上なく気持ちよく、モデナ・サーキットのストレートがことさら短く感じられた。
一般道からサーキットまで難なくこなすMC20は想像以上に守備範囲の広いスーパーカーだった。それはもう「やればできるじゃん!」を通り越し、「お見それしました!」と頭を下げるほどの完成度だったのである。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
PHOTO/Maserati S.p.A.
【SPECIFICATIONS】
マセラティ MC20
ボディサイズ:全長4669 全幅1965 全高1221mm
ホイールベース:2700mm
トレッド:前1681mm 後1649mm
車両重量:1475kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3000cc
ボア×ストローク:88.0×82.0mm
最高出力:630ps/7500rpm
最大トルク:730Nm/3000-5500rpm
トランスミッション:8速DCT
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
駆動方式:RWD
ブレーキ:前ベンチレーテッド(6ピストン) 後ベンチレーテッド(4ピストン)
タイヤ:前245/35ZR20 後305/30ZR20
0-100km/h加速:2.88秒
0-200km/h加速:8.8秒
最高速度:326km/h
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