性能に不満の多かった初期のエコタイヤ
だいぶ昔の話になります。
【第5回】サイトウサトシのタイヤノハナシ~速度記号の歴史についてひも解いてみました~
先輩「この間エコタイヤに履き替えたんだけどさあ、燃費ちっともよくならないんだけど(怒)。いったいどういうことなの?」いやいや、そんな怖い顔して詰め寄られても、知りませんよ。そもそも、なんでボクに聞いてくるんですか。タイヤメーカーに聞いてくださいよ。…と思いましたが口には出せません。
「転がり抵抗10%低減とか言ってるけど、いったいどうやって計測しているの? ほんとに計測しているの?」この先輩、時々核心を突くような鋭い質問をしてくるので侮れません。
省燃費タイヤの日本登場は1983年、ミシュランのスタンダードグリーンタイヤ=MXGSでした。トレッドコンパウンドにシリカを配合した、低転がり抵抗のタイヤでした。当時まだ耳慣れなかったシリカが話題になりました。
国産タイヤでは、横浜ゴムが1998年にエコタイヤ=DNAシリーズを発売します。このあたりから省燃費タイヤの認知度が少しずつ広がって行きます。
それ以前にも、転がり抵抗の少ないタイヤが低燃費グレードに装着される例はあったのですが、これが泣きたくなるくらいグリップが悪かったので、低転がり抵抗タイヤのイメージは極めて悪くなっていました。
シリカの登場が解消した二律背反
タイヤのグリップ性能は、大きく分けて2つの摩擦力があります。粘着摩擦とヒステリシス摩擦です。
簡単に説明すると、粘着摩擦は、タイヤと路面が接触したときに直接的に発生する摩擦で、摩擦面にかかる垂直の荷重に比例して摩擦力は大きくななります。
タイヤが回転しながら路面に押し付けられている瞬間を切り取ってみます。
これをミクロの目で観察すると、接地面の分子とタイヤのゴム分子が互いに引っ張り合ったり圧縮されたり、あるいはちぎれたりする時の摩擦力≒ヒステリシスロスが起こります。このエネルギーロスが粘着摩擦力。主にドライ路面で発揮される摩擦力です。
一方、ヒステリシス摩擦は、タイヤのゴムが路面と接触するときに『路面の凹凸に合わせてゴムが変形し、通過すると元に戻る』過程での、ゴムの変形→回復で生じるエネルギーロスを言います。こちらはウエット路面など、タイヤが路面と強くこすれない状況で摩擦力を発生します。
この2つの摩擦力が混ざり合って発生する力が、タイヤのグリップ性能です。
では、転がり抵抗とはどんなものなのでしょうか。
タイヤで一番大きな転がり抵抗は、ゴムの変形=ヒステリシス摩擦です。これを小さくするためにはゴムの変形を小さくする、つまりゴムを硬くすれば、転がり抵抗が少なくなります。しかし、ヒステリシス摩擦が小さくなると、ウエット路面でグリップ性能が悪くなります。これが転がり抵抗を少なくするとグリップ性能が悪くなる理由です。
92年に登場したミシュランのグリーンタイヤMXGSで話題となったのは、このタイヤに配合されていたシリカでした。それまであまりなじみのなかった材料なのですが、これがコンパウンドに配合すると転がり抵抗が小さくなり、しかもウエットグリップがよくなるという魔法の材料だったのです。
シリカはポリマー(≒ゴム)に配合することでゴムを補強する役割を果たします。のちにカーボンの代替品としてサマータイヤのウエットグリップ性能を高めるのにも使われるようになりました。
冒頭の先輩の発言は、まだシリカが世に出て間もない頃の話。当時は加減速を強めにすると、省燃費のアドバンテージなど簡単になくなってしまうレベルでした。またメーカーによって、転がり抵抗が当社比10%低減とか15%低減なんて言う宣伝文句が飛び交っていましたが、そもそも当社比の比較対象になるタイヤがどのくらいの転がり抵抗なのかもはっきりしなかったり。悪意はなくてもライバルよりも優位な印象を与えるために、当社比がインフレを起こしていました。
タイヤ性能の指標となるグレーディング
そんな折、タイヤグレーディングが始まることになったのです。2010年のことでした。日本自動車タイヤ協会(JATMA)が主導で乗用車用タイヤの転がり抵抗、ウエットグリップを同一の基準で計測し、結果をラベルにしてタイヤに貼るというものです。
これはタイヤの銘柄ごとではなく、すべてのサイズを計測する全数検査で行われます。これまで比較広告ができなかったタイヤ業界なので、ライバルタイヤとの差がグレーディングで明示されるというのはかなり画期的なことでした。
表を参照してもらえるとより分かりやすいと思いますが、転がり抵抗はもっとも転がり抵抗の少ない評価がAAA、ついでAA、A、B、Cと5段階に分かれています。
またウエットグリップはaが最高評価で、以下b・c・dの4段階に分けられています。ちなみに、低燃費タイヤの要件は、転がり抵抗A以上で、ウエットグリップがdに入っていること。これを満たすと低燃費タイヤに認定されます。
じつはこのグレーディング、欧州でまとめられていた内容を、約1年前倒しで日本で運用することになったものです。
日本では、基準を満たさなくてもペナルティはありませんが、欧州ではグレーディングの範囲に入らないタイヤは販売できないなどの厳しいペナルティがあり、かなり拘束力の強いものになっています。また欧州のタイヤグレーディングは、2021年5月から小変更が行われました。
転がり抵抗を示す表に戻ると、AAA・AA・A・B・Cは、ランクが1段上がるごとに転がり抵抗は1%よくなります(表2参照)。
1%じゃあわからないのでは? と思うかもしれませんが、AAA・AAについてはほかのタイヤと比較しなくてもこれはAAかな? と判るくらいの転がり抵抗の少なさです。そっとアクセルを踏み込むと、明らかに軽々と、クルマが走り出します。
また、街中で試すと周りに迷惑をかけてしまうので控えてほしいですが、10km/hとか5km/hからの惰性走行は驚くほど距離が伸びます。かすかな路面の傾斜にも感度よく反応します。転がり抵抗が少ないと、こんなに惰性でタイヤが転がるのか、きっと驚くと思います。
ひとつ注意しておきたいのは、転がり抵抗やウエットグリップ性能は、テストするときの気温や湿度で差が出るということです。もちろん補正は入るのですが、当然タイヤメーカーはよりよい結果が期待できる天候を狙ってきます。そもそも等級ごとに幅があるので、『A寄りのB』とか『B寄りのA』とか、性能差があることは頭の隅に入れておいたほうがいいと思います。
最新の低燃費性能は、ゴムの特定のポリマー端にシリカを結び付けるなど、分子レベルの改良が行われています。タイヤグレーディングを導入した2010年当初は転がり抵抗とウエットグリップの両立が難しく、転がり抵抗/ウエットグリップ=A/Cが大半でした。それが現在では、末端変性技術を用いて分子レベルでゴムを改質できるようになった結果、AA/bクラスのタイヤも多くみられるようになりました。
グレードにある程度幅があるとはいえ、このグレーディングは客観性が保てる正確さを持っているので、単体で性能をチェックするにしても、競合タイヤとの比較にしても、とても参考になると思います。
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
【え、スイフトも売れていない!?】高評価なのに苦戦が続く2つの要因と、唯一の“生き残る道”
カーナビ受信料徴収に批判の声続々! NHKは「放送をスクランブル化すれば良い」「放送法が今の時代にそぐわない」の声も! 警察捜査車両のカーナビ38台がNHK受信料「未払い」、みんなの反響は?
大ヒット「シエンタ」対抗馬はいつ登場!? 苦戦の日産に足りないのは「コンパクトミニバン」だ! 日産「新型セレナ“ミニ”」に期待大!
狭軌新幹線ぜひ一考でしょ! 北陸新幹線の「敦賀から先」 地下水問題など回避する策はある?
若年層が移動手段としてBEVを支持するデータを日産が発表【概要、本質、期待!自動車ニュースを読む】
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!
みんなのコメント
走行中のノイズが明らかに減ったのと、転がり抵抗の低さは段違いに変わりました。
ウェット性能はほとんど変化ありませんが、乗り心地も良く満足しています。
最近の低燃費タイヤは性能高いですね。
BEV
FCEVのみ開発中タイヤだけだから!