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池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第21回:ライトウェイトスポーツ】

掲載 更新 14
池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第21回:ライトウェイトスポーツ】

「ライトウェイトスポーツ」の楽しさが『サーキットの狼』の原点!

1975年、週刊少年ジャンプでの連載開始から45年、今もなおカーマニアのバイブルとして愛され続ける『サーキットの狼』。主人公である“風吹裕矢”が「ロータス ヨーロッパ」の軽量さと俊敏さを武器にフェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェというスーパーカーたちに立ち向かう物語は日本人の矜持である「柔よく剛を制する」の精神を刺激する。その痛快なストーリーを盛り上げるロータス ヨーロッパは作者である池沢早人師先生のかつての愛車であり、1970年の後半に大きなムーブメントを巻き起こした「スーパーカーブーム」の中心的存在でもあった。

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第21回:ライトウェイトスポーツ】

フェラーリやポルシェのイメージが強い池沢先生だが、その原点は英国製のライトウェイトスポーツ・ロータス ヨーロッパであることは間違いない。このクルマに出逢わなければ『サーキットの狼』は生まれなかったといわれている。池沢先生はこれまでに80台に迫る愛車遍歴をお持ちだが、その中には軽量さを武器に快活な運動性能を披露するライトウェイトスポーツも存在するという。ここではかつて所有していた3台のライトウェイトスポーツモデルにスポットを当て、その魅力を存分に語っていただこう。

ライトウェイトスポーツの魅力は操る楽しさにある

クルマの楽しみ方は人によって違うのは当たり前。クルマを磨いて楽しむ人もいれば、徹底的にドレスアップすることを生きがいにする人もいる。最高速度や馬力を重視する人もいれば、クルマを操ることが何より幸せな人もいる。ボクは『サーキットの狼』を描く前にロータス ヨーロッパに出逢ったことが大きなターニングポイントになった。

地を這うような低いボディにたった1.6リッターの小さなエンジンを積んだ英国製のライトウェイトスポーツは爆発的なパワーこそ持ち合わせていなかったけど、ミッドシップということもあり峠道では無敵の存在だった。自分が狙ったラインをトレースする能力、ハンドリングに対して機敏に反応する軽快さは「操る楽しさ」を教えてくれて、まるで神のお告げかのような衝撃を受けた。

1970年代には『サーキットの狼』、80~90年代にはその第2章として描いた『モデナの剣』がボクの代表作となり、フェラーリやポルシェがボクのアイデンティティになっていった。でも、自分のベースというか“池沢さとし”(編注:現在は“池沢早人師”に改名)のDNAにはライトウェイトスポーツで培った反骨精神が今も受け継がれている。あまりフィーチャーされることが無かったけど、ボクの愛車クロニクルのなかには名車と呼ばれるライトウェイトモデルが存在し、操る楽しさを与えてくれた。

Caterham Super Seven

ロータスの系譜を受け継ぐ「ケータハム スーパーセヴン」

1981年、我が家にやってきた究極のライトウェイトモデルとして知られる「ケータハム スーパーセヴン」。この「ケータハム」はロータス・カーズから名車「セヴン」の生産を引き継いだ直系のメーカーだ。スーパーセヴンの出で立ちは昔ながらのフォーミュラマシンのようなスタイルが特徴で、鋼管パイプフレームにアルミ製のボディを乗せただけのシンプルなもの。エンジンは1600ccのケントエンジンだったけど、確か500kgくらいの軽量な車重が大きな武器になって気持ちの良い走りを見せつけてくれた。

このクルマを選んだ理由は『サーキットの狼』を描くきっかけになったロータス ヨーロッパと血を分けたDNAであることと、モータースポーツが好きなボクにとって興味をそそられるボディスタイルを持っていたことが大きい。簡素化されたアルミ製のオープンボディはもちろんだけど、エアコン、オーディオ、ドアさえも持たない走りに特化した潔さは一般的なクルマとは別の次元に存在している。もちろん、このクルマで買い物や家族の送迎などは望むべくもなく“生活臭”を微塵も感じさせないところがいい。多くのスポーツカーがどんなに素晴らしいかを謳ったところでスーパーセヴンの前では意味をなさないからね。

ワインディングの楽しさは天下一品

快適性など全く無いクルマだけど走る楽しさは天下一品だった。寒い冬にヒーター(ヒーターだけは標準装備)をガンガンに入れて箱根の山道を走りまわるのは本当に面白かったね。パワーをフルに使い切りながらオンザレールで走る爽快感は唯一無二。ステアリングはクイックで思った方向にノーズが切れ込んでくれるのも新鮮だった。同じロータスの血が流れていてもヨーロッパとはひと味違ったシャープさを全面に押し出した乗り味はワインディング好きには堪らない。まさに「1/1スケールの大人の玩具」だね。

シリーズにはパワフルなコスワース製のBDRエンジンを搭載したモデルもあるけど、スーパーセヴンにとって馬力の大小は大した問題じゃない。どのエンジンを選んでも速度感が味わえ、リニアなドライビングが楽しめる特別な存在だからね。排気量や馬力よりも、まずは「スーパーセヴン」を手に入れる勇気が必要になるってこと。でも、気合を入れても走れる距離は300kmが限界かな。夏はエアコンが無いので熱中症になりそうだし、冬は巻き込む風で鼻水が止まらなくなる。

その当時、狙っていた彼女とドライブする約束をして、待ち合わせ場所に現れたおめかしをした彼女を乗せて箱根から熱海までドライブに行ったんだけど、ドライブの後に音信不通になっちゃった。ボクひとりでドライビングを楽しんじゃったから、助手席の彼女には拷問でしかなかったと後で気づいた(汗)。今思うと、本当に申し訳ないことをしたと思う。

Lotus Elise

「ロータス・エリーゼ」は現代版『サーキットの狼』だ!

1996年のデビューイヤーに手に入れた「ロータス・エリーゼ」は、真紅のボディがド派手な印象を与えてくれた英国製のライトウェイトスポーツ。ボクの原点でもあるロータス・ヨーロッパの現代版というフレーズが気になって「池沢早人師が乗らなくて誰が乗る!」という気持ちで買ってしまった。

接着剤で接合したというシャシーが気になったけど、予想以上に剛性感があって楽しめる一台だったね。最初はプラモデルかよ・・・と思ったけど、航空機にも使われている最新技術だと聞いて安心したことを今でも覚えている。シャシー自体はアルミ製で68kgと超軽量。そこにFRP製のボディを載せ、車両重量は700kg程度だから一般的なクルマと比較すれば相当軽量に仕上がっている。

タルガ風のトップを装着した状態だと乗り辛い印象もあるが、乗ってしまえば快適そのもの。ロータス ヨーロッパに比べれば快適だけど、最近のクルマとしては狭い印象をぬぐえないかもしれない。でもね、この狭さが気持ちいい。「広い」とか「優れた居住性」というのが全てのクルマには当てはまらないってこと。ライトウェイトスポーツの場合にはタイトさも大きな魅力になるからね。室内は走りに特化したシンプルな印象で悪くない。個人的にロータスに豪華装備は似合わないと思う。

シャシーがエンジンパワーに勝るライトウェイトのお手本

エリーゼのドライビングポジションは独特で、狭いコクピットの左右に太いサイドシルが通っているため着座位置が極端にセンターに寄っているんだけど、それが「公道を走れるレーシングカート」のようでドライバーを刺激する。女の子を隣に乗せた時には助手席との距離が近いのは大きなメリット(笑)。

ボクのエリーゼはフェイズ1と呼ばれる最初期モデルだったからボディデザインはシンプルな仕上がりで、派手になってしまった最近のモデルよりも素朴さがあって好感が持てる。大好きなディーノ 246GTとロータス ヨーロッパをミックスしたようなデザインも気に入ったポイント。ミッドシップされるエンジンはローバー製の18K4Fと呼ばれる1.8リッターの4気筒DOHCで、パワーは122psと非力だけどシャシーが勝っているのがロータスらしい。

このクルマもスーパーセヴンと同じでパワーをフルに使いきって走れる満足感を味わうべき一台だね。軽くてしなやかで走る楽しさに満ち溢れているから、タイトなコーナーが続くワインディングやショートサーキットなら存分に楽しめると思う。残念ことに当時は全日本GT選手権に出場していたこともあって、レース以外でサーキットを走ることがなくなってエリーゼではサーキットを走っていない。今思えば走っておくべきだった・・・と後悔している。エリーゼは“後悔先に立たず”という言葉を実感させられた思い出に残る一台だ。

HONDA S660

ビートの魅力を進化させた「ホンダ S660」に大興奮!

その昔、ホンダから発売されていた「ビート」を取材し、完成度の高さに感動した記憶がある。軽自動車という制約の中でオープンスポーツの楽しさとライトウェイトの軽快さを両立した技術力の高さに「こいつは軽のフェラーリだ!」って感動した。特に低くぴったりくるドライビングポジションがお気に入りだった。ビートの取材が終わった直後に「この広報車を一週間貸して!」と、取材場所に乗ってきていたフェラーリ 348と交換したくらい惚れた。

それから月日が経ち、後継モデルのS660がモーターショーでNSXと並んで展示されていたのを見て、すぐS660に夢中になったのを昨日のことのように覚えている。脳裏には、あの日のビートが浮かんでいたんだろうね。

スポーツカーの醍醐味に溢れた「小さなフェラーリ」

そんな経緯があって、2015年にS660が発売されたと同時に杉並の1号車を手に入れた。まさに人生初の軽自動車がガレージにやってきたのだった。S660のスタイル、解放感、ハンドリング、足まわり、剛性感の素晴らしさにボクは一発で“虜”になった。エンジンは馬力を軽自動車の自主規制内に抑えた64psだからパワフルさは無いけれど、軽量なボディとミッドシップによる回頭性能を武器にした軽快な走りはスポーツカーの醍醐味に溢れていた。標準装着されているアドバンのスポーツタイヤとのマッチングはオーバークオリティで、多少強引な走りをしてもしっかりと受け止めてくれて満足感を得る大きな要因になっていたと思う。

S660との生活では乗り降りの時に窮屈な思いを強いられることを除けば全てが楽しく新鮮だった。このクルマでは筑波のコース1000や袖ヶ浦フォレストレースウェイ(1分27秒を切るかというタイムだった!)を走ったけど、全長3395mm、全幅1475mmという軽自動車規格内に収まるコンパクトさが大きな武器になり、普段なら狭く感じるコースが広く見えてミッドシップの切れ味を味方に気持ちの良い走りを楽しむことができた。

6速MT仕様ということもあって「操る楽しさ」と「走らせる充実感」はハイエンドのスポーツカーに匹敵し、イメージ的には「小さな、とても小さなフェラーリ」って感じだね。それに850kgほどの車両重量はタイヤにも優しく、サーキット走行を試みても摩耗が少ないのはありがたい。サンデーレーサーにとって走りが楽しくタイヤが減らないのはパーフェクトなパッケージングだと思う。

日本人の国民性が伺えるパッケージング

スタイルもNSXを小さくしたような精悍さがあるし、2シーター、ミッドシップ、オープンエアと、ピュアなスポーツカーの絶対条件が詰め込まれている。最近はワイドボディやエアロパーツを装着しているユーザーも多いけど、ボクはダンゼン純正ボディ派。カウンタックも初期のプレーンなスタイルが好きだし、あまり派手にするのは好きじゃない。ホンダの技術者たちが軽自動車という枠の中で最高の作品として仕上げたのであれば、その味わいを感じながら楽しむのが礼儀だよね。

軽自動車という日本独特のルールの中でこれだけのクルマを作ってしまうホンダは本当に凄いと思う。しかも開発チームは当時20~30代の若手技術者が中心だったから畏れ入る。ルールがあるから創意工夫を凝らし、その上で驚くような技術とかパッケージを生み出していくのは日本人ならではの国民性。その究極がS660なんじゃないかな? でも、ホンダがS660の兄貴分としてパワーアップした「S1000」なんてモデルを出してくれたら乗ってみたい。きっと世界を驚かせるライトウェイトスポーツになると思うんだけどなぁ・・・。

ライトウェイトスポーツは大人の玩具

ロータス ヨーロッパとの出逢いがボクの人生を大きく変えてくれたように、ライトウェイトスポーツというクルマは人生に影響を与えてくれる大きな存在になると思う。最近は「便利」「簡単」「経済的」ばかりが重要視され、家電製品のような進化を遂げているクルマだけど、人間が持つ“五感”や“気持ち”という部分に訴えかける軽量なスポーツカーは自動車の原点であり、カーマニアにとって最後の砦になってしまったのかもしれない。

ボクが手に入れたライトウェイトスポーツは全てエンジンパワーは大きくないけれど、それはスポーツカーとしては決してネガティブなポイントではないと思う。パワーに頼らず自分のドライビングスキルの成長によって楽しさが大きくなっていくのは大きな魅力だからね。そして「クルマを操る喜び」と「乗りこなしたという充実感」は、身の丈に合ったライトウェイトスポーツだけに許された特権でもある。500ps、1000psのスポーツカーを征服するのは、例えサーキットでプロのレーシングドライバーがハンドルを握ったとしても容易くはない。

今回紹介したケータハム スーパーセヴン、ロータス エリーゼ、ホンダ S660はフェラーリやポルシェにも匹敵する楽しさを与えてくれた名車だと思う。池沢早人師と『サーキットの狼』の原点は、ロータス ヨーロッパというライトウェイトスポーツから始まっている。喩えれば「人馬一体」。クルマとドライバーがシンクロした瞬間の快感を味わいたのならライトウェイトスポーツは最高のパートナーになることは間違いない。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

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みんなのコメント

14件
  • 確かに俺のハイゼットも荷物を全部降ろせば見違えた走りをする。^_^ ハイパワーも良いが軽量化が如何に運動性能を向上させるか軽箱バンでも解る。
  •  S660、かっこいいですよね、後ろ姿なんか惚れ惚れします。黄色のS660なんかまさにスーパーカーで爺の私は胸キュンです。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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