日産が倒産の危機だった1990年代末、カルロス・ゴーンCOO指揮の下大規模なリストラと車種整理を行った日産は、2000年を迎えた頃から多くの新型SUVをラインナップに加えていった。
エクストレイル(2000年)、ムラーノ(2004年)、デュアリス(2007年)、そしてスカイラインクロスオーバー(2009年)など、それまでセダンやワゴンが中心だった日産が、SUVを続々と発表したのだ。
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しかしながら、これらのSUVの半数以上が、現在日本では販売されてない。日産のSUVが続々と消えていった事情とは何なのか。元自動車メーカーのエンジニアだった筆者が、その理由と“復活の可能性”について考察する。
文:吉川賢一
■なぜ消えていったのか?
今回は、デビュー当時非常に話題となった「ムラーノ」、「デュアリス」、「スカイラインクロスオーバー」の3台をピックアップするが、それぞれが「消えていった理由」は少しずつ異なる。
以下、それを一台ずつ見ていこう。
■ムラーノ(2004-2015年、二世代で消滅)
ムラーノは、当時ティアナにも使われていたFF-Lプラットフォームを使用した高級SUVである。2002年から主戦場の北米で販売されていたが、そのデザインのよさに国内市場から販売熱望の声が上がり、2004年に日本でも発売となった。
伸びやかなモダンアートデザイン、コンセプトは2代目であるZ51型ムラーノにも受け継がれ、現在もその美しいデザインをもって北米市場で3代目Z52型ムラーノが健在である。北米のみならず中国やロシアなどで、「NISSANのスタイリッシュなSUV」として、世界的に認知されており、海外では今なお好評を得ている。
初代ムラーノは2002~2008年、2代目は2008~2015年まで日本で販売していた。現在北米市場では3代目が販売されており、好調に売れている
【ムラーノが消えたワケ】
国内市場で最後となった2代目「ムラーノ」には、直4、2.5LとV6、3.5Lエンジン、4WDとFFも用意し、価格を抑えた仕様も用意はされていたものの、新車価格で297~499万円とかなり高額であり、販売台数は徐々に伸び悩んでいった。
また、北米市場でのヒットを契機に、2代目はボディサイズも一回り大きくなったことも、道路事情が狭い日本で人気が落ちる要因となり、国内では在庫終了した2015年で販売終了となった。
■デュアリス(2007~2014年、一世代で消滅)
2007年に誕生したデュアリス(キャシュカイ)は、ヨーロピアンテイストのある質実剛健としたデザイン、比較的小柄なボディ、優れたNVH、そしてしっとりした走りを実現していたクロスオーバーSUVである。
それまでの日産は、欧州市場において、Cセグメントのプリメーラやアルメーラなどの中型サイズのハッチやセダンを主力としていたが、Cセグメントの支配車「GOLF」をはじめ、並みいる競合の前で販売を伸ばすことができなかった。そこで日産が次世代Cセグメントの主力として注目したのが「小型のSUV」だった。
欧州ではキャシュカイとして2007年3月から、日本ではデュアリスとして5月から販売開始となったが、直後から欧州で非常に高い評価を獲得、販売も絶好調だった。
この初代キャシュカイは、「工場では1分に1台が生産されている」とか、「英国で生産される車種として、最短で累計200万台を達成したクルマ(2014年)」として記録されており、日産の欧州でのプレゼンスを上げてくれた一台となった。なお現在のキャシュカイは2015年にモデルチェンジをした2代目で、2018年は欧州市場で23万台、一ヶ月平均で2万台も販売されており、いまだその勢いは衰えていない。
デュアリスの日本販売期間は2007~2014年。案外最近まで売っていて意外でした。当初の月販目標台数は2000台だった
【デュアリスが消えたワケ】
これは日産の”戦略的撤退”だったと筆者は考える。兄弟車のエクストレイルとの顧客の食い合いになり台数を分割されるよりも、国内は前型から評価の高かった「エクストレイル」一本に絞ったほうが、メーカーとして販売台数増に貢献できると踏んだのであろう。兄弟車のエクストレイルに販売の基軸をおいたおかげか、エクストレイルの国内販売はその後も順調で、2018年には「4WD SUVの国内販売台数NO.1」を達成している。
■スカイラインクロスオーバー(2009~2016年、一世代で消滅)
スカイラインクロスオーバーはもともと北米が主戦場である日産の高級車チャンネル「INFINITI(インフィニティ)」のクロスオーバーSUV「EX35」として、2007年に誕生。シャシーなどのコンポーネントはG35(日本名:スカイライン)と共用し、3.5Lの大排気量エンジンや7速AT、FR駆動とFRベースの4WDを用意し、G35のハンドリングと乗り心地の良さを持つ“小型のプレミアムSUV”と位置づけられたクルマだ。
比較的コンパクトでスタイリッシュなボディスタイルで女性(奥様)をターゲットとしていた。日本市場には2009年に「スカイラインクロスオーバー」の名称で登場した。
その後、INFINITIブランドの呼称統一を受けて「QX50」となった。2018年にモデルチェンジした2代目「QX50」は、2.0リットルVCRターボエンジンを積んだ新型「ミドルサイズSUV」に生まれ変わっている。
スカイラインクロスオーバーは、(「インフィニティ」の看板を背負っているからとはいえ)価格設定が高すぎたのでは…。現在の高級SUVブームにうまく乗っていればヒットしたかもしれないのに…
【スカイラインクロスオーバーが消えたワケ】
「クロスオーバーSUV」と銘打ったわりに、スカイラインクロスオーバーの荷室は狭く、値段も高かった(420万円~)。さらには燃費の悪い3.5Lエンジン仕様しか導入されない…スカイラインクロスオーバーは、“INFINITIのプレミアムカーをそのまま持ってきて「右利き仕様」に変更したクルマ”だった。
そのため、日本の顧客には受け入れられず、当然販売も伸びなかった。せめて中国で出していた2.5リットルVQ25HR型エンジン仕様でもあればよかったのに、と残念でならない。
■ムラーノ・デュアリス・スカイラインクロスオーバーの日本復活の可能性は?
筆者は、これらどのクルマも日本復活はあり得ないと考える。
デュアリスに関していうと、自動車メーカーとしては、少ないラインナップで台数を稼ぐ方が収益性は高い。デュアリスを復活させるよりも、ひとつ格下のコンパクトクロスオーバーSUV「ジューク」に注力した方が、顧客の志向がバッティングせずに済むだろう。
ムラーノとスカイラインクロスオーバーに関しては、日本市場を考慮したクルマでなければ、日本人が再び振り向いてくれるはずもなく、メーカーもそんなことは当然分かっている。日本市場に寄せれば、販売好調な海外のニーズに合わせることが難しくなるため、日産としては、これらのクルマを日本で再び売り出す気は“さらさらない”であろう。
■まとめ
「なぜ消えたのか?」はクルマによって異なるが、海外のニーズに合わせて作られたクルマを、日本市場向けに“適合させた”程度では、日本人の心を動かすには至らなかった、という事は共通している。
我々が欲しいのは“日本市場を考慮して作られたクルマ”だ。2019年以降、新型SUVが立て続けに登場予定だという。ぜひとも、思わず食指が動くような、“熱いSUV”の登場を願うばかりだ。
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