熾烈なシェア争い。
スーパーハイト軽市場
今、日本でイチバン売れているクルマが「スーパーハイト軽ワゴン」。その定義は、全長と全幅は1998(平成10)年10月から施行された現行の軽規格いっぱいの3395mm×1475mm、全高は1700mm以上、エンジンがボンネット内にあること(エブリィワゴンやアトレーワゴンなどの1ボックスはフロントシート下にエンジンがあるキャブオーバータイプ)。
【写真でライバル詳細解説】eKクロス スペース/eKスペースの実力は?【vs N-BOX、タント、スペーシア】
スーパーハイトの人気をリードするのがN-BOXシリーズ。2019年度の新車販売台数は約25万台で、登録車を含めて堂々のトップ。以下、2位タント(約17万台)、3位スペーシア(約16万台)と、軽乗用車のベスト3をスーパーハイト軽ワゴンが独占する。
人気の理由は軽自動車税の引き上げ(7200円→1万800円)や、昨秋の消費税率アップ(8%→10%)後もなお、登録車に比べてランニングコストが安く、コンパクトカーよりも「コスパの高さ」が光ること。室内空間の広さや両側スライドドア&低床フロアがもたらす乗降性の高さも加わり、子育てファミリーからシニア世代まで幅広く支持を集めている。
絶対王者、N-BOXを筆頭に各社が熾烈なシェア争いを繰り広げるスーパーハイト市場に、プラットフォームとパワートレーンを刷新して挑むのがeKクロス スペース/eKスペース。パッケージングは各車横並びの「背高ボディ」と「両側スライド」で、一見どれも代わり映えしないような感じがするが……そこで、eKクロス スペース/eKスペースとN-BOX、スペーシア ギア、タントのスーパーハイト5車種を、ロングドライブを想定した「高速250km」、デイリーユースを想定した「一般道100km」の2つのステージで乗り比べながら、各車の使い勝手や燃費、乗り味の違いをチェックしたうえでキャラクター別に分類。ライフスタイルに合わせたスーパーハイト選びに役立てて欲しい。
【実走燃費計測の結果はこちら】
※写真で確認ください
計測条件:ドライバーは適宜交代で1~2人乗車。エアコンは23℃設定 高速道路ルート:東名高速道路・愛鷹PAを起点に名古屋方面へ遠州豊田PAまで走行。遠州豊田スマートICで折り返して、再び東名高速道路を東京方面へ沼津ICまで走行 一般道路ルート:神奈川県湯河原町から国道135号→国道1号→国道15号で東京都中央区まで走行 ※トリップメーターと実走行距離との誤差は補正済み。実走燃費は各車の車載燃費計で計測
【比較01】
■遊び心にギアが入るのはどっち?
eKクロス スペース vs スペーシア ギア
eKクロス スペースとスペーシア ギア。日々の暮らしに密着した「生活感」、「所帯感」のある他の3台とは異なり、流行りのSUVテイストに仕立てて「趣味性」や「遊び心」を演出した2台だ。中身はそれぞれベースのeKスペース、スペーシアとまったく変わらず。
後席スライド量はeKクロス スペースがクラストップの320mmで、スペーシア ギアは210mm。eKクロス スペースは後席の肩口に備わるスライドとリクライニングレバーで荷室側から操作しやすいだけでなく、スライドドア側からの操作性にも考慮し、後席両端にスライドレバーを配している。一方でスペーシア ギアはワンアクションで格納・復帰できるダブルフォールデングタイプ。
スライド操作は後席背面のストラップまたは座面下のレバーで。助手席の前倒し機構もスペーシアシリーズならでは。座面が90度持ち上がり、背もたれがフラットに折り畳める。
趣味や遊びのアイテムを積載するのに役立つのが、ルーフキャリアのアタッチメントを固定するルーフレール(スペーシア ギアは標準、eKクロス スペースはメーカーオプション)。さらに、荷室の床と後席背面もアクティブな使い方を想定した作りで、スペーシア ギアは汚れに強い防汚タイプが標準。eKクロス スペースでも樹脂仕様のラゲッジボードとPVC仕様の後席背面が選べるもののメーカーオプションになる。ちなみに、シート表皮は両車ともに撥水タイプが標準だ。
試乗車はeKクロス スペースが「T」、スペーシア ギアが「ハイブリッドXZターボ」で、駆動方式はともにFF。パワートレーンはターボエンジン+モーターの組み合わせで、モーターの出力はeKクロス スペースの2.0kWに対し、スペーシア ギアは2.3kW。
スペーシア ギアは車重の軽さ(890kg。eKクロス スペースは970kg)も幸いして、燃費は高速、一般道とも21km/Lオーバーを達成。市街地走行での減速から完全停止までのクリープ走行、アイドリングストップからの再発進ではマイルドハイブリッドを構成するモーターのアシストを受け、静粛性を高めながら燃費を稼いだ。
ワインディングではステアリング上のパワーモードスイッチをオンにし、パドルシフトを操作しながら適切なギアを選んでスポーティに走らせてみた。コーナリング中は大きめのロールがスーパーハイトであることを意識させるが、しっかり手応えのある操舵フィールや、接地感の高い足まわり、すべり止め舗装を乗り越える際の衝撃の「いなし」など、操縦安定性と乗り心地のバランスのよさが光った。
eKクロス スペースはBR06型エンジンのポテンシャルをジヤトコ製の可変速CVTが引き出す。アクセル開度が高まるとステップ変速制御に切り替わる仕組みで、その効果を実感できるのが高速道路での合流やワインディングの登坂路など、エンジンに負荷が掛かる場面。従来のCVTのように「エンジンノイズは盛大なのに、なかなか加速しない」といった感覚のズレがなく、エンジン回転数の上昇と車速の伸びが一致する、トルコンATのようなスムーズな変速フィールが好印象。
一般道で渋滞にハマり、アクセルワークとエンジンブレーキで車速を調整する場面で気になったのが、CVTとエンジンのつながりが悪く、停止寸前でギクシャクとした動きを見せること。NA(自然吸気)エンジンのeKスペースでは気にならなかったので、ターボの過給圧制御などが影響しているのだろうか!?
先進安全装備のスペックはeKクロス スペースが一頭地を抜く。高速道路同一車線運転支援技術のマイパイロットは「T」と「G」に電動パーキングブレーキやステアリングスイッチを含めた「先進快適パッケージ」として設定。先行車の車速に合わせて車間距離を保つACC(アダプティブクルーズコントロール)と、車線の中央をキープするLAK(車線維持支援機能)が、0~100km/hまで作動する。
■まとめ:2台の選択のポイントは、
「装備の取捨選択」
スペーシア ギアに搭載されるスズキ セーフティサポート。ステアリング制御は行わず、車線逸脱は「警報」にとどまる。先進安全装備はシンプルだが、標準装備が充実するスペーシア ギア(オプション込みの試乗車総額は209万9680円)に対し、コンパクトカーを凌ぐ質感の高さと洗練された乗り味ながら、オプションをてんこ盛りにすると総額で300万円に届く勢い(オプション込みの試乗車総額は271万3898円)のeKクロス スペースか。装備の取捨選択がクルマ選びのポイントになりそうだ。
【比較02】
「斜め方向」の動線に優れる2台 N-BOX vs タント
N-BOXとタント。両車のウリは助手席のスーパースライドで、運転席~助手席側スライドドア間の「斜め」の動線を確保できること。(N-BOXの試乗車はベンチシート仕様で、助手席のスーパースライドは不可)。
N-BOXの助手席スライド量はタントの380mmを凌ぐ570mm。運転席から助手席側スライドドアへのアクセスや、前席と後席の間隔を適度に保った快適なドライブ、後席に座らせた子供の世話など、幅広いシーンで使い勝手を高める。助手席をスライドさせるためのレバーは助手席座面下と背面に備わり、運転席/スライドドア側の双方から操作できる。
タントは運転席/助手席どちらもロングスライドが可能。運転席はインパネのスイッチとシート下のハンドル、または運転席シートバックのスイッチとレバーを操作すると、最大540mmスライドでき、助手席のスライド量は380mmで、前席~後席間のアクセスのしやすさはスーパーハイト随一。極め付きは助手席側のヒンジドアとスライドドアにピラーを内蔵することで実現した「ミラクルオープンドア」で、助手席側の開口幅は1490mm。
■走り出してみると、N-BOXの土台のよさがわかる
N-BOXの試乗車は5台中唯一の4WDでスタッドレスタイヤを装着、グレードはG Lターボ ホンダセンシング。
N-BOXはエンジンの存在が「いい意味で」際立っているのがホンダらしい。試乗車のS07B型ターボエンジンには、軽自動車初の電気式ウェイストゲートを採用。ターボの過給圧を的確にコントロールできるのが利点で、NAエンジンと錯覚するほどの自然な過給レスポンスを実現。高回転域まで滑らかに吹き上がり、全域で力強い加速感を披露する。
車重は5台中もっとも重い980kg。だがワインディングでも重量のハンデを感じさせない素直なエンジンフィールを巧みに引き出すのが、アクセルの踏み込み量とリンクして車速をスムーズに伸ばすCVTの滑らかな変速フィール。コーナリングでクルマの挙動を掴みやすい自然なロールと、タイヤのグリップを引き出す足まわりの高い接地感、路面からの入力を優しくいなすフロア剛性の高さ、ペダル踏力とリンクした正確なブレーキタッチと、「走る」「曲がる」「止まる」の基本性能が高い。トータルバランスのよさでコンパクトカーを凌ぐ上質な乗り味を実現している。
試乗車のタント「X」のエンジンはNAで、CVTのベルト駆動にスプリットギアを加えた「D-CVT」の組み合わせ。運転状況に応じてベルトモードとギア駆動をメインにしたスプリットモードを切り換える仕組みで、市街地走行では無段階変速のCVTらしいシームレスな加速感、中高速域ではベルトとギアの合わせ技で伝達効率を高める。エンジン回転数の上昇に比例して車速が伸びる、スムーズで自然な変速フィールが印象に残った。
パワートレーンの好印象とは対照的だったのが、ゼロベースで開発したプラットフォーム、DNGAの洗練度。コーナリングでは他の4台に比べてアッパーボディの「重さ」を感じる大きめのロールと、手応えがやや曖昧な操舵フィールに加えて、乗り心地を重視したソフトな設定のばねに対し、ショックアブソーバーの減衰力が勝っている印象で、フロアからキャビンに伝わる微振動が気になった。
■まとめ:2台の選択のポイントは「助手席側とバックドアの使用頻度」
「ドアが大きく開く」というスーパーハイトの利点を生かせるのが、趣味や介護の分野。N-BOXのバックドア開口部の地上高は470mm(FF)と、スーパーハイトのなかではもっとも低床で開口面積も最大。タントはミラクルオープンドアと運転席/助手席ロングスライドの合わせ技で横方向からの乗降性を高める。
■普通がイチバンの人にオススメのeKスペース
クロスじゃないほうの、素のeKスペース。eKクロス スペースの顔は「デリカD:5のスモール版」とも形容できる、押し出しの強いダイナミックシールドが際立つが、eKスペースはボディ同色のフロントグリルとハロゲンヘッドライト(LEDの設定はナシ)の癒し系フェイス。明確にキャラ分けしている。
試乗車のグレードは「G」のFF。エンジンはNA(自然吸気)ながら、ストップ&ゴーを多用する市街地では、減速時の回生エネルギーを加速時のモーターアシストに利用するマイルドハイブリッドの効果を実感。アイドリングストップからの再始動は極めてスムーズで、そのままアクセルを踏み続けると、CVTが小気味よく変速を行ない車速が上昇。アイドリングストップが作動する頻度も高く、高速、一般道含め5台中トップの燃費だった。
きついカーブが連続するワインディングに入ると、フリクションが極めて少なく、舵角を一定に保ちながら旋回できる素直な操舵感に舌を巻く。操舵支援システムのマイパイロットを搭載するために採用した、普通車と同じブラシレスモーターを使った電動パワーステアリングが奏功しているようだ。こうした電子デバイスを導入するために採用したプラットフォームは、「走りの質感向上」にも大きく貢献。先の電動パワステの操舵感を確かめながらコーナーを旋回していくと、ストローク量がたっぷりと確保され、4輪全体で路面をしなやかに捉えるサスペンションの「懐の深さ」が際立ってくる。ばね下をしっかりと動かし、路面からの入力をいなす強じんな土台=プラットフォームの成せる業といえる。
■まとめ:デザインだけじゃない!
姉妹車でも装備内容はかなり違う
eKスペースと日産ルークスはプラットフォームやパワートレーンを共用する「姉妹車」の関係だが、ルークスは「ハイウェイスターシリーズ」でしかターボ車が選べないのに対し、eKスペースはフロントグリルをブラックアウトしてNA車と差別化を図った「T」グレードとして設定。さらに、フロントシートもルークスのスタンダードシリーズはベンチタイプのみだが、eKスペースの「T」「G」グレードにパッケージオプションとしてセパレートタイプを設定する。
また、ルークス ハイウェイスターとeKクロス スペースのキャラクターの違いをもっとも表しているのがシート表皮。ハイウェイスターはトリコットが標準で撥水加工シートはオプション。eKクロス スペースは撥水シートが標準で、樹脂ラゲッジボードとPVCシートバックをオプション設定する。
極め付きはプロパイロット(三菱の呼称はマイパイロット)。ルークスはハイウェイスターの「プロパイロットエディション」のみ標準で、スタンダードシリーズにはオプションでの設定もナシ。いっぽうeKスペースは「T」「G」に先進快適パッケージとしてオプション設定されている。したがって、スタンダード仕様でもターボエンジンやマイパイロットを求めるなら、eKスペースの一択になる。eKクロス スペースには、急な下り坂で車速を約4~20km/hの範囲で自動調整しながら降坂するヒルディセントコントロールが備わる。一方で、SOSコールはルークスのみの装備で、事故発生時の自動通報や緊急時の手動通報に対応する。
〈文=湯目由明 写真=岡 拓〉
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みんなのコメント
ひどい足枷だな!!