乗る前から心を昂ぶらせる新生アルファロメオの妙技
商品力を高めるためにプラットフォームを共有して、効率よくクルマを作り、コストメリットも出していく。近年の常套手段のその作りは、コンパクトサイズとの共有化も視野にいれられたミドルサイズモデルに、FFモデルを増やす結果も招いている。
【超速攻試乗】アルファロメオ・ジュリアを中谷明彦がイタリアで全開!(超稀少インカー動画付き)
そんななか全長4645mm、全幅1865mm、全高1435mmという日本の交通環境ではやや幅広く感じそうだが、実際は扱いやすそうなミドルサイズでFRでの新モデルが登場した。それが新世代アルファロメオ成功の鍵を握るジュリアだ。今回は箱根のワインディングにて触れることができたので紹介しよう。
そもそも新世代アルファロメオと表現したが、その意味を知ることがジュリアの理解には不可欠だ。フィアットとアバルト、クライスラー、ジープそしてアルファロメオの5ブランドを所有するFCAグループにおいて、プラットフォームの共有化は当然進めている。
しかし、そんななかでも賢い戦略だろう。アルファロメオだけは、その共有化から外して、独自プラットフォーム戦略をとる決断をした。すべてはアルファロメオブランドを高級路線であるプレミアムブランドとして成長させていく為だ。そして生まれたのが、このFRパッケージのジュリアとなる。
余談になるが、このエンジンとシャシーをアルファロメオが独自に作り上げて行く戦略のもとに、今後数年のうちに8モデルの登場がすでに決まっている。その基軸にあるのが、人間中心という考え方。昔からアルファロメオを知る方が安心できそうな、ドライバーの心を掴むような仕上がりが期待できそうなのだ。
その第1弾のジュリアを見ると、まさに見た目からして心を掴まれる方が多いだろう。やはりFRのプロポーションは、それだけで伸びやかで綺麗であり、カッコ良さのなかに上品な印象を漂わす。具体的にはフロントタイヤからドアパネルまでの距離が、FFとは違いFRは長く取りやすい。これが人でいうと足が長い人であるかのような、スタイルの良さを生む。
もちろんアルファロメオ特有の盾型グリルや、その内部に高性能エンジンが搭載されていることを予感させる大型ラジエターグリルなどが、走りへの期待と個性を際立たせている。ちなみ個人的にはリヤからの見た目が好きだ。ボリューム感を漂わせながらワイド感も強調され、力強いうえに、下部は空力処理が的確に施されている。マニアックな視点だが、下まわりを覗くと空力性能の向上のために、ボディ下面が驚きのレベルでフラットに処理されており、乗る前から拍手を送りたい作りのオンパレードだった。
さてジュリアには4つのグレードがある。まずトップにはハイパフォーマンスモデルでもある「クアドリフォリオ」が君臨。最大トルク600N・m、最大出力510馬力をFRで使いこなして、0-100km/h加速を3.9秒でこなす。カーボン製のプロペラシャフトを使うなど、パワーウエイトレシオ2.99kgのスパルタンモデル。ジュリアはまずこのクワドリフォリアをファーストトップとして作ったので、どのグレードも洗練されたカッコ良さがあるという、良いものからの引き算手法の典型的な成功例ともなるだろう。
そして価格順でいうと、クアドリフォリオの下には4輪駆動(4WD)のヴェローチェがきて、FRのスーパーが続き、受注生産とも言われる簡素装備のベースグレードと続く。
トランスミッションはすべて7速のデュアルクラッチだが、エンジンはクワドリフォリオだけV型6気筒ターボ。ほかはすべて直列4気筒ターボとなるが、ヴェローチェは最大出力206馬力で、スーパーとベースは147馬力仕様とブースト圧調整が施されている。
リヤ駆動でも500馬力を使いこなせるトータルバランス
その乗り味だが、クワドリフォリオは、予想に違わず刺激に満ち溢れている。アクセルを深く踏んだ時の加速力の強さはもちろんだが、その際の排気音と変速感が癖になりそうなほど気持ち良い。イメージとしては、アメリカンなV型の野太い音のなかに、管楽器が奏でられるようなイタリア調の官能要素が入り、万人受けしそうな仕上がり。しかし力強さのなかに上品さがある見た目と同様に、ドライビングモードをノーマルで走る限り、その刺激を完全に隠して走ることも可能なのが興味深い。
また500馬力オーバーをFRで大丈夫? と若干心配しながら乗り込んだが、この仕上がりは見事。高剛性ボディは当然として、しなやかに動く電子制御式ダンパーの姿勢抑制効果、さらに極め付けはエンジンをフロントミッドシップに搭載したことで得た前後重量配分が良く、4つのタイヤのグリップが絶えず安定しているし、姿勢変化が少ないのが好印象。
それにより慣れている方なら、旋回中にリヤが若干ムズムズと路面への接地感が不足している感じがあったら、少しだけアクセルを踏み荷重をかけてムズムズを消すなんて芸当も簡単にできる。
まさにFRの楽しさを存分に味わえるのだが、一つだけ気になるのがハンドリング。ハンドルの切り出しに、グイッと曲がる特性がある。イメージとしてはアクセルを少し踏んだだけでグイッと加速するなどのハンドル版。刺激に繋がるし、よく曲がると錯覚はしやすいが、若干コントロールしづらい。曲がり出してからのコントロール性はとても良いので、これがアルファロメオのほかにはない味だ! と言われたらそれもアリだが、素直さが好きな方は若干気になる可能性もある。
しかし、解決策もある。この特性が気になるならヴェローチェがオススメ。四輪駆動になり、フロントがグイグイ引っ張ってくれる特性が強まることで、ハンドル切り出しのグイッと曲がる特性が緩和されて、とても素直なハンドリング特性になるのだ。
ちなみに乗り心地にこだわる方は、ヴェローチェにOPの電子制御サスを装着すると良いだろう。クワドリフォリオも電子制御サスが入っており、実用十分な快適性を備えるが、ホイールサイズが19インチ。ヴェローチェは18インチで、四輪駆動での走行性能底上げで若干足まわりにも余裕がでてしなやかなので、電子制御サスを選択したらこれが快適サルーンモデルになる。
V型6気筒ではなく直列4気筒になり、加速は? と思うかも知れないが、当然ハイパフォーマンスのクワドリフォリオから比べたら劣る。しかし日常に照らし合わせたら絶対に不満が出ない加速力は備えているし、デュアルクラッチの刺激などはダイナミックモードで走ると健在だしオススメだ。要はさらなる速さは当然だが、非日常の扉を開ける刺激が欲しかったらクワドリフォリオという考えで良いだろう。
最後に、それら刺激と速さ、さらに快適性を“適度に”不満を抱かないレベルで備えているのがスーパーだ。コストまで踏まえると、これがもっともお買い得だろう。
なぜならクワドリフォリオ基軸で作られたクルマなだけに、ベースモデルの完成度がとても高くなっているから。このような完成度を前にすると、新生アルファロメオの残る7モデルも早く登場してもらいたいと同時に、気になって仕方ない。
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