BRZ史上最大ウエイトとなったBRZ GT300は、前戦の鈴鹿で惜敗した。重量増というハンディキャップは文字通り重くのしかかり、コーナリングマシンのキャラクターが消されてしまっていた。迎えた第6戦SUGOは300kmのレースでハンデの条件は鈴鹿と同じ。厳しい展開になることが予想されたが、ネガな要素を握り潰すかの如く魂の乗った走りを披露した。
コンビ愛が滲み出る山内英輝と井口卓人ハンデをクリアするために
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チームは鈴鹿の結果を分析し重さ対策を検討した。エンジンパワーは今季4%低められているため、パワー不足は対策のしようもないが、コーナリングではまだ余地があるという。タイヤのグリップ力を使い切っていないということなのか? チームは究極のコーナリングマシンへと追い込んでいく。
レース前、小澤正弘総監督はSUGOとの相性を語り「昨年のポールは2位に0.3秒の差をつけていますし、決勝でのレースラップも速かったので、重くてもレースにはなると期待しています」と話す。コーナリングを磨くには、すべてのマシンスペックの見直しが必要だ。ジオメトリーはもちろん、空力、ギヤ比、そして制御系も含めてのマッチングが必要となる。そうしたことの裏返しが小澤総監督の言葉なのかもしれない。
土曜日午前中は公式練習が行なわれる。GT300クラスは1時間25分の走行時間が割り当てられ、その後10分間の300クラス占有時間がある。そしてFCYの訓練時間として20分間の走行があるが、トータル2時間弱の走行で、すべてのマッチングを机上からリアルワールドの世界で探す必要があるのだ。
まずはタイヤの選択がある。路面温度、路面のμに見合った選定があるが、もともと持ち込めるタイヤには本数制限があり、自由にタイヤ選択ができるというわけではない。持ち込み済みタイヤの中からベストを探すということになる。
史上最大のウエイトだが期待は膨らむ気温25度、路面温度31度でいつものように山内英輝がセットアップを始める。計測3~4周してはピットに戻りセットアップ変更とタイヤ選択を繰り返す。その組み合わせは膨大で、例えばリヤウイングの角度は0.5度の単位で変更でき、ダンパーやスプリングのスペックも細かく変更できる。さらにジオメトリーの変更も可能なわけで、気が遠くなるほどの組み合わせになるわけだ。
さらに4%のパワーダウンに合わせたギヤ比、ファイナルなどの変更も必要だろう。そうした多くのスペック変更が必要になるものの、BRZ GT300は2018年、19年、そして21年にポールポジションをとり、完全優勝も果たしている。(2020年は新型コロナウイルスにより未開催)そうした経緯を踏まえると期待したくなる。
とりわけ山内はSUGOのレコードホルダーであり、2019年にマークした。1分16秒834は未だ破られていない。そうした過去の記録は膨大な走行データとしてチームにある。今回、そのデータ分析を行なうことで鈴鹿とは異なるセットアップを見つけ出し、現場合わせをしているのだ。
是が非でもQ1突破
いつもは山内が1時間程度の時間をかけてセットアップし、残り時間を井口卓人がロングランのテストをするというパターンだ。井口は本番を想定した仕様でレースラップを刻み、セッティングの確認をする。しかし、今回、山内は40分程度でマシンを降り、井口に交代している。膨大なデータからの選択はもう終わったということなのか。
井口に聞けば「Q1を絶対に通さないといけないので、セットアップの確認を長めにやらせてもらいました」という。極端に言えばいつもは山内のセットで井口が予選を走っているが、ハンデがある状況の中で0.1秒の世界でQ1突破ができるか、というシビアさがあり、井口には自分なりのセットを確認したかったということと想像する。
R&D SPORTのトラックエンジニア井上徳(さとし)氏に聞くと「2人のセットアップに大きな違いはなく、だいたい同じスペックで走っています。逆に井口くんは『ここをもう少し、こうすれば山ちゃんならもっと速く走れる』と山内くんの走りを冷静に分析してくれますね」と。
R&D SPORTのトラックエンジニア井上徳氏予選
台風14号が日本に接近し、九州・沖縄地方では雨・風の影響が出ている。SUGOサーキットがある宮城県仙台市付近は、まだ直接的な影響はないもののスッキリとした秋らしい天候とは言い難い。晴れ間もあるが雲は低くどんよりとしている。
気温26度、路面温度34度でQ1予選がはじまった。井口は3周目に自己ベストをマーク。1分18秒613でA組5番手のタイムをマークした。鈴鹿ではQ1敗退を経験していただけにチームには少しの安堵感があったに違いない。
A組トップは1分17秒733でフェラーリGT-3。2位以下もNSX、AMG、RC-Fで、すべてGT-3勢のウエイトハンデが少ないマシン。当然と言えば当然の結果で、GTA-GT300マシンの中ではトップということになる。そしてQ2ではさらに上位を目指し山内が走るが、予選後に井口は山内用のマシンセットの変更をエンジニアに伝えている。
Q2予選になると多くのマシンが走行したため、路面にラバーが乗りさらなるタイムアップへとつながる。山内も3周目にアタックし1分17秒691をマーク。その時点でトップに立った。が、終了間際に96号車が上回り2番手となる。見るものが歓喜とともに、「あの重さで」という信じられない表情も同居した。
もっとアタックできた
一方で、当の山内はタイムアタックの時、最終コーナーにあるギャップでタイヤが空転しエンジンがレブにあたったことを悔しがった。96号車に0.318秒負けており、レブに当たったことによる失速に気持ちが整理できないでいたのだ。応援する周囲の喜びとは真逆で、予選を終えピットに戻る山内の形相は目がつり上がり、眉間に皺を寄せ、運慶の金剛力像のごとく憤怒の形相だったのだ。
多くのメディアがインタビューをしにピットに集まるが対応できないほど山内の怒りは頂点にある。小澤総監督は「ギャップで跳ねることはわかっていて、そこを乗り越える前なのか、後なのかでシフトアップできるようにシミュレーションしなければいけないけど、そこまでイメージできていませんでした」と話す。
これが前述しているデータ解析によるマシン作りのひとつなのだが、見落としなのか、想像力というか、0.1秒を競うレースの難しさを知る出来事だった。
結果的に96号車はサクセスウエイトの車両重量違反があり、タイムが抹消されBRZ GT300は4年連続のポールポジションとなった。
ハンデをクリアしてポールポジションを獲得決勝
場内アナウンサーのピエール北川もBRZ GT300がポールポジションからのスタートに対し「強すぎるBRZ GT300です」と紹介している。
決勝は井口からスタートし、逃げまくる作戦だ。ドライバー交代で順位を落とすかもしれないが後半は山内が追撃するシナリオを描く。
台風14号は前日より影響が出ている。晴れ間はあるものの全体にどんよりとした曇り空で、遠くの山並みは霞んでいる。午後2時にスタートする予定で進行し、12時40分からはじまった20分間のウォームアップ走行では雨が少し混じっていた。遠くの雨が風に飛ばされているようで、本格的な雨ではなかったが、ピットではレインタイヤを用意し、万全を尽くす。
2周のフォーメーションラップからローリングスタートが切られ、井口は綺麗にホールショットを決めた。後続マシンのスピンアウトがありオープニングラップからSC導入となったが、大きな問題はなく3周目にリスタートが切られた。ここでも井口は首位をキープし、2番手に0秒767の差をつけて戻ってきた。
マシンのセットアップもハマったのだろう、その翌周にはギャップを1秒763に広げていた。順調に10ラップほど周回すると井口のリードは4秒779にまで広がり独走体制を築く。シナリオどおりの展開で、最大重量となってもBRZ GT300の上位入賞、あわよくば優勝があるかもしれないという欲望が脳裏をよぎる。
混沌としたコース上での攻防
がしかし、雨が降ってきたのだ。BRZ GT300は昨年からニューマシンになっているが、雨のレースを経験していない。今季もテストを含め雨には遭遇しておらず、雨用のデータが薄い状態だ。さらに雨中の走行ではハイドロプレーンが起こりやすく、そもそもあまり得意としていないのだ。
井口はレインに交換するかスリックで粘るか迷う。予想の難しい天候だ。チームはレインタイヤを選択し早めのピットインを指示した。結果から言えばここが勝負のキーになった。優勝した2号車GR86 GTマシンも同じく14周を終えた時点でレインタイヤに交換したが、ドライバーの加藤寛規は49周目までそのまま走り切る。そしてドライバー交代をし、堤も快調に走行した結果、2位以下の全車をラップダウンにするというリザルトに結びつけたのだ。
井口はレインタイヤに換え、再びコースに戻る。一時的に順位を落とすものの5位まで挽回するが、選択したレインタイヤのグリップ低下が想定よりも早く、急激に順位を下げることになってしまった。29周を終え山内にドライバー交代するも雨は続きレインタイヤでの走行は続く。
予想の難しい天候がチームを翻弄するコース上はレインタイヤのマシン、スリックタイヤのマシンが入り混じり、カオスと化したコース上での順位は把握しづらく、目の前にいるマシンを追い抜くことに集中した。コースは次第に乾き始めレインタイヤでは厳しい状況になってくる。山内も無線でスリックタイヤへの交換を提言する。
結果論になるが、井口が履いたレインタイヤの耐久性が短く、ドライバー交代が早まったことが状況を難しくした。そして山内に交代するとき、雨は降り続き、スリックタイヤでピットアウトできなかったことが厳しい結果を招いてしまったわけだ。
山内は45周目に3回目のピットインをし、スリックタイヤに交換する。コース上ではまだレインタイヤで走行するマシンもあり、山内は全開で追い上げをしていく。ポジションは16位まで下がったものの、みるみる順位を戻し始め、8番手まで回復した。が、ここにきて路面がドライで安定したため、追い抜きが難しくなり山内はそのまま8位でチェッカーを受けた。
天気の神様は微笑まなかった
一方でチャンピオンシップをリードする56号車はスタートドライバーの藤波清斗が途中でレインタイヤに交換し40周目まで走行する。そしてJ.Pオリベイラに交代し最後はドライコンディションとなってから激しくプッシュし4位でチェッカーを受けていた。
これでBRZ GT300のドライバーズランキングは4位となった。トップは56号車で46点。61号車は33.5点でその差は12.5点。十分に逆転はあり得る。2位が10号車で42点、3位11号車で35点、5位は7号車で27点となっている。そして次のオートポリスではサクセスウエイトは半減され51kgとなる。
優勝は20点、以下15点、11点、8点、6点でポールポジションは1ポイント入る。ちなみにチームランキングも4位でトップとのギャップは-15.5点となっている。
第7戦オートポリスは昨年もウエイトを搭載した状態で3位表彰台を獲得しており、BRZ GT300が得意とするコースでもある。ウエイトを下ろすのは全車同一条件だが、コーナリングマシンのBRZ GT300にとってウエイトを降ろすのは、元気剤を注入されるほど効果的になると想像できる。次戦に期待したい。
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