マツダの屋台骨を支えるCセグメントのクロスオーバーSUV、CX-5とCX-8が10月、早くも商品改良を受けた。両車に共通して投入されたSKYACTIV-G 2.5Tと進化版「G-ベクタリングコントロールプラス」、そしてCX-5に追加されたSKYACTIV-D 2.2&6速MT、CX-8に追加されたSKYACTIV-G 2.5の実力は? いち早くクローズドコース、栃木のGkNドライブラインプル-ビンググラウンドで比較試乗した。REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢/マツダ
まず、両車の主な変更点を列挙すると、下記の通りとなる。
新型マツダCX-8、2.5ℓターボと2.2ℓディーゼルの燃費を考えてみる。どっちが得か?
【両車共通】
●2.5Lガソリンターボエンジン「SKYACTIV-G 2.5T」(PY-VPTS型)を追加設定
●「G-ベクタリングコントロールプラス」(GVC+)を全車に採用
●ダンパー構造変更、スタビライザーのセッティング変更を実施
●エアコンおよびコマンダーダイヤルのデザイン変更・操作性向上
●「アドバンスド・スマート・シティ・ブレーキ・サポート」(アドバンスドSBCS)に夜間歩行者検知機能を追加
●「360°ビューモニター」を全グレードで装着可能に
●「マツダコネクト」がApple CarPlayおよびAndroid Autoに対応
【CX-5のみ】
●2.2Lディーゼルターボエンジン「SKYACTIV-D 2.2」(SH-VPTS型)搭載車に6速MTを追加
●2.2Lディーゼルターボエンジン「SKYACTIV-D 2.2」6速AT車の一部に減速エネルギー回生システム「i-ELOOP」をオプション設定(SH-VPTR型)
●CX-8の「Lパッケージ」に匹敵する最上級の装備を持つ特別仕様車「エクスクルーシブモード」を設定
【CX-8のみ】
●2.5LガソリンNAエンジン「SKYACTIV-G 2.5」(PY-VPS型)を追加設定
●3列目周辺の遮音性能を向上
最大のトピックである「SKYACTIV-G 2.5T」は、北米などではすでにフルサイズSUV「CX-9」や「マツダ6」(アテンザ)に設定されているが、日本導入は今回のCX-5/CX-8が初。その技術の肝は「ダイナミック・プレッシャー・ターボ」にある。
この「ダイナミック・プレッシャー・ターボ」では、中央2つのシリンダーの排気を合流させつつ両サイドのシリンダーの排気を独立させた、4-3-1排気マニフォールドを採用。排気容積を小さくしつつ、3つのポートからの排気を別々にターボへ導くことで、常に高い排気脈動を維持できるようにした。
また、1620rpm以下では閉じる可変バルブを排気ポートに設けて排ガスの流速を早め、タービンをより早く回転させることで最高1.2barの過給圧を発生。さらに隣接するシリンダーの残留排気を吸い出すことで、低回転域のトルクを高めつつターボラグを低減している。
そのほか、EGRクーラーを採用して中高負荷領域の排ガス温度を下げ、10.5の圧縮比を確保。最高出力は、北米仕様はオクタン価93のガソリンで250ps/5000rpm、オクタン価87のガソリンで227psだが、オクタン価89のレギュラーガソリンに対応する日本仕様は230ps/4250rpmとなっている。最大トルクは北米仕様と同じく420Nm/2000rpmだ。
この「SKYACTIV-G 2.5T」を搭載するCX-5とCX-8の4WD車に試乗したが、アクセルの踏み始めでは「SKYACTIV-D 2.2」と同等の瞬発力を持つため、車重1890kgのCX-8 25T Lパッケージ7人乗りでも、周囲の流れに乗る程度なら2000rpmも回せば充分。
さらに、高速道路のICから本線への合流を想定し、2000rpm以上まで引っ張っても、ディーゼルにはないパワーの伸びが得られるため、エンジン回転が高まっても加速が鈍るどころかどんどん鋭くなっていく。
長い直線で全開加速を試みてもその印象は全く変わらず、特に車重が210kg軽いCX-5 25Tエクスクルーシブモードではバンク進入手前で150km/h超に達してしまい、余りの速さにやや怖さを感じるほどだった。
「GVC+」の効果は? CX-5ディーゼル6MT車とCX-8ガソリンNA車の走りは?
そしてもう一つの大きなトピック、従来の「G-ベクタリングコントロール」(GVC)と同じく日立オートモティブシステムズと共同開発した「G-ベクタリングコントロールプラス」(GVC+)だが、これは従来のGVCが行うターンイン時のエンジントルク低減によるステアレスポンス向上制御に、立ち上がり時の外輪制動による安定性向上制御を加えたもの。
詳細には、立ち上がりの際にステアリングを戻す操作をトリガーとして、旋回外輪へわずかにブレーキをかけ、直進状態へ戻そうとする復元モーメントを与えることで、安定性を高める効果を狙っている。
これを、改良前のCX-5にGVC+のオンオフを可能にしたテスト車両で試したところ、その効果は絶大。エルクテスト(急に飛び出してきたヘラジカを避けるのを想定したテスト)と同様の急激なレーンチェンジでは、直進状態に戻るまでのふらつきが非常に早く収まるため、車高が高いSUVでは効果が大きいように思われた。
またパイロンスラロームでは、ターンイン後の“オツリ”が残りやすいよう意図的にアクセルのオンオフを大きめにしても、GVC+がステアリングを直進状態へ戻す操作に応じてヨーとピッチを収束させるため、オーバーステアの兆候すら見せず難なくクリア。
通常の旋回でも、ステアリングを戻してからヨーとピッチが収束し車体が直進状態に近づくまでの時間が短くなるため、ステアリングをより早く直進に近い状態へ戻し、アクセルもより早いタイミングで深めていくことができた。
そして何より、ドライバーの操舵を起点として制御を行うため、旋回中にGVC+の制御が介入しても、こうしたヨーコーントロールシステムにありがちな違和感を全く覚えない。それこそが、GVC+が持つ最大の凄さだと、私は思う。
なお、足回りのハードウェアも細部が改良されており、その具体的メニューは下記の通りとなっている。
●フロントナックルアウターボールジョイント位置の最適化(CX-5のみ)
●フロントスタビライザー径拡大(22.2→23.0mm)
●フロントスタビライザーブッシュ硬度低減
●リヤスタビライザー径縮小(19.0→18.0mm)
●リヤダンパートップマウントのウレタン化
●前後ダンパー内のバルブ構造変更
フロアの板厚がCX-8より薄く、わずかに凹凸のある路面でもフロアから振動を発生しやすかったCX-5では、特にダンパーの改良が大きな効果を発揮。今回は荒れた路面を連続して試すことはできなかったものの、明らかにその振動が少なくなっているのを体感できた。
さらに、CX-5の「SKYACTIV-D 2.2」6速MT・4WD車の「XD Lパッケージ」、CX-8の「SKYACTIV-G 2.5」6速AT・FF車「25Sプロアクティブ」7人乗り・ルーフレールなしにも試乗した。
まず前者は、「これほどまでにこのディーゼルと6速MTは相性が良いのか」と驚愕することしきり。よりダイレクトな加速フィールが味わえるのはもちろん、ヒール&トー時の吹け上がりも鋭いため回転を合わせやすい。また450Nmの有り余るトルクと5000rpmものレブリミットを利して、高めの回転数まで引っ張って加速すれば1速飛ばしのズボラシフトも許容してくれる。ただし、燃費は悪化するだろうが。
一方で後者は、CX-5より210kg重い1740kgの車重に対し、190ps/6000rpm、252Nm/4000rpmというスペックはFF車で辛うじて必要充分といえるレベル。最終減速比がCX-5の4.624から4.957まで低められているため実用上は不足のない加速性能が担保されているが、その分市街地で流れに乗るのを想定した発進加速でも3000rpm付近まで引っ張る必要がある。
ストップ&ゴーの多い使用環境ではもちろん、アテンザやCX-5と異なり気筒休止機構が備わっていないため高速巡航時においても「SKYACTIV-G 2.5T」よりもむしろ燃費が悪いのでは、と思わずにはいられなかった。
今回改めて、CX-5とCX-8を乗り比べてみると、両車の性格が好対照なことを再認識させられる。CX-5は265mm短い全長と230mm短いホイールベース、約200kg軽い車重のおかげで加速・旋回性能とも高く、操る喜びに満ちているが、NVHは一歩劣る。特に「SKYACTIV-G 2.5T」搭載車では、加速時は高周波のタービンノイズ、巡航時は低周波の排気音が耳に付く傾向にあった。
逆にCX-8は、CX-5に比して運動性能、特に旋回性能は劣るものの、居住性や静粛性、乗り心地では確実に上回る。今回の改良で3列目周辺の遮音性能が高められたことによって、CX-9のボディ・シャシーがベースであり、かつワンランク上の車格に位置付けられていることが、より明確に体感できるようになった。
初代CX-5の発売以降長らく、その余りにも高性能なディーゼル車の前に、マツダのガソリン車はどれほど安価であろうと霞んで見えてしまう傾向にあった。だが、今年に入ってから各車で、ディーゼル以上にガソリンエンジンの改良が進んだことで、ガソリン車を積極的に選びやすくなっている。
そして今回、2.5LガソリンターボがCX-5とCX-8に設定されたことで、初代CX-5の発売以来初めて、ガソリンエンジンがディーゼルを動力性能と走りの楽しさで上回った。しかもCX-8では2.5Lガソリンターボ車と2.2Lディーゼルターボ車とで、その他の装備が同等レベルの車両同士で10万円前後の開きがあるため、CX-8を買うなら2.5Lガソリンターボ車がベストチョイスと言い切れる。
2.5Lガソリンターボには4WDとの組み合わせしかないのがネックだが、標準グレードの「25Tプロアクティブ」で374万2200円、ナッパレザーシートが標準装備となる「25T Lパッケージ」で424万4400円という価格はもはや破格と言っていい。「ちゃんと使える3列目シートを備えたクロスオーバーSUV」を他社に求めると必然的にフルサイズとなるため、2倍以上のプライスタグを提げていることも珍しくないのだ。
だがCX-5では、2.5Lガソリンターボ車と2.2Lディーゼルターボ車の価格差が5000円強と極めて小さい。しかも後者には6速MTとの組み合わせがあり、ホンダS2000を愛車とする筆者でさえ「これならスポーツカーから乗り換えても楽しめる」と思えるほど、その走りは楽しさに満ち溢れているのだ。そして価格は、ナッパレザーシートを標準装備する最上級の「XDエクスクルーシブモード」4WD車を選んでも、388万2600円。
2.5Lガソリンターボ車ならCX-5とCX-8のどちらにするか、はたまた2.2Lディーゼルターボの6速MT車にするか。実際にいずれかを購入するとなったら、その答えは永遠に出そうにない。
【Specifications】
<マツダCX-5 25Tエクスクルーシブモード(F-AWD・6AT)>
全長×全幅×全高:4545×1840×1690mm ホイールベース:2700mm 車両重量:1680kg エンジン形式:直列4気筒DOHC直噴ガソリンターボ 排気量:2488cc ボア×ストローク:89.0×100.0mm 圧縮比:10.5 最高出力:169kW(230ps)/4250rpm 最大トルク:420Nm(42.8kgm)/2000rpm WLTCモード燃費:12.2km/L 車両価格:387万7200円
<マツダCX-8 25T Lパッケージ7人乗り(F-AWD・6AT)>
全長×全幅×全高:4900×1840×1730mm ホイールベース:2930mm 車両重量:1890kg エンジン形式:直列4気筒DOHC直噴ガソリンターボ 排気量:2488cc ボア×ストローク:89.0×100.0mm 圧縮比:10.5 最高出力:169kW(230ps)/4250rpm 最大トルク:420Nm(42.8kgm)/2000rpm WLTCモード燃費:11.6km/L 車両価格:424万4400円
<マツダCX-5 XDエクスクルーシブモード(F-AWD・6MT)>
全長×全幅×全高:4545×1840×1690mm ホイールベース:2700mm 車両重量:1680kg エンジン形式:直列4気筒DOHC直噴ディーゼルターボ 排気量:2188cc ボア×ストローク:86.0×94.2mm 圧縮比:14.4 最高出力:140kW(190ps)/4500rpm 最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2000rpm WLTCモード燃費:18.6km/L 車両価格:388万2600円
<マツダCX-8 25Sプロアクティブ7人乗り(FF・6AT)>
全長×全幅×全高:4900×1840×1730mm ホイールベース:2930mm 車両重量:1740kg エンジン形式:直列4気筒DOHC直噴ガソリン 排気量:2488cc ボア×ストローク:89.0×100.0mm 圧縮比:13.0 最高出力:140kW(190ps)/4500rpm 最大トルク:252Nm(25.7kgm)/4000rpm WLTCモード燃費:12.4km/L 車両価格:325万6200円
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