“売れてる車”は販売台数が多い。ということは、多くのユーザーに支持されていることの証左であり、だからこそ商品としてもよく出来ているはず。……が、売れているのになぜかクルマ好きからの関心が薄く、どこかクルマ好きの琴線に触れない車は、今も昔も存在する。それは何かが足りないからなのか? それとも、ただの偏見なのか? “クルマ好きの車”に対して、そうなれない4台の人気車を題材に考えてみたい。
文:伊達軍曹/写真:編集部
もっと売れた? 潮時だった? トヨタが見限ったクルマたち 5選
2大人気コンパクトより実力ではデミオ、スイフトなのか?
■ノート e-POWER
2016年にe-POWERを追加し、サニー以来となる車種別月販販売台数1位にも輝いたノート。一般層を含めた支持率は圧倒的だが、なぜかクルマ好き受けという視点ではデミオ、スイフトに一日の長がある印象だ
ハードウェアの面で「足りないもの」はほとんどない。
エンジンが発電した電気によりモーターを駆動するシリーズハイブリッドシステムを「そんなの昔からある技術じゃないか」とディスる評論家もいる。
だが、このサイズの市販車でそれを量産化した日産の技術と気合は大いに称賛されるべきで、いかにも“EVらしい”出足の鋭さと、その後に続くナチュラルな走行フィールは「かなり気持ちいい!」とさえ言える。
ならば、この車がいわゆるカーマニアからの支持を得ていない理由は「単なる偏見」に過ぎないのかといえば、そんなこともない。デザインに問題がありすぎるのだ。
良くできた大衆実用車としてのプライドを「シンプルな造形」によって表現すればよかったのだが、フロントフェイスはごちゃごちゃと装飾過多。
インテリアも、大衆的な樹脂製ダッシュボードのなかに唐突に現れる、いかにも高級ぶったピアノブラックのパネルが、全体を混乱の極みへと導いている。
デザイン担当者がイタリアあるいはフランスにしばらく留学し、「おしゃれとは何ぞや?」ということを学んだうえで再びノートe-POWERをデザインすれば、カーマニアの琴線にも触れる傑作となるだろう。
■トヨタ アクア
こちらも国産車を代表する販売台数を誇るアクア。この車こそ、人気の割になぜかクルマ好きの俎上に上がらない系車の典型例といえる
アクアに関しては「ただの偏見か、それとも何かが足りていないのかの判断は、その人の見方と立場によって変わる」といったところだ。
アクアは非常に良くできた車である。街乗りも高速巡航もそつなくこなし、ワインディングロードも意外と得意。
そして、小ぶりなボディであるにもかかわらず居住性はすこぶる良好で、JC08モード燃費はいわずもがなの34.4km/L。
前期型のデザインは、特にリアコンビネーションランプにセンスのなさを感じたが、2017年6月のマイナーチェンジで同箇所は引き締まったニュアンスのデザインへと改められた。
そんな“良くできた車”を「つまらん」といって切り捨てるのは、カーマニアという人種の偏見であり、傲慢であるとも言えるだろう。
だが実際、アクアは「よくできた安楽な車」であるがゆえに、下手をすると運転していること自体を忘れそうになる瞬間もある。
そこがスズキ スイフトやマツダ デミオとの大きな違いであり、カーマニアがアクアをあまり支持しない理由だ。
しかし、マニアではない普通の人からすれば、「それの何がいけないわけ?」ということになる。これはもう機械としての出来・不出来や、どちらが良い・悪いの問題ではなく、一種の「民族紛争」なのだ。
CX-5、フォレスター派の俎上にハリアーが上がらない訳
ミドルSUVでは、2017年度の販売台数でCX-5、フォレスターを上回り5万4849台を販売したハリアー
カーマニアがハリアーに対してあまり良い印象を持っていない理由は「偏見が7割、事実が3割」といったところだろう。
自動車の製造販売ビジネスにおける圧倒的な強者であるトヨタの、超人気モデルであるハリアー。
ディープなマニアは別として、ライト層からの支持は圧倒的。……この図式は要するに、昭和のプロ野球における「読売ジャイアンツのスター選手」のようなものだ。
例えば、当時(全国的には)不人気だった広島カープのディープなファンからすれば、「実力はウチの○○選手のほうが断然上なのに、ジャイアンツってだけで、実は大したことないXX選手がチヤホヤされてやがる。あぁ気に入らねえ! 世の中、見る目のないやつばっかで嫌になるぜ!」と、どうしても思ってしまう。
それと同様のことを、CX-5やフォレスターなどの価値が理解できるコアなカーマニアはハリアーに対して思うわけだ。
これはまぁある種の偏見であり、やっかみとも言えるわけだが、もちろん単なる偏見ではない。
コーナリング時の4輪への荷重のかかり方など、マニアックな視点で見るならば「やはりCX-5のほうが好ましい」と感じる人も多いはず。そういった意味で、マニアの面倒くさい意見もある程度正しいのだ。
「アウディよりBMW」に根拠はあるか
ともに高級車としてはブランドを確立しているアウディとBMWながら、クルマ好きからの支持という点では実に対照的な印象もあるアウディとBMW
「駆け抜ける歓び重視!」のBMWに対し、「先進性こそが命!」のアウディ。あるいは「基本的にはおしゃれだが、少し野暮ったい部分もある(だからこそ本物志向だと言える)BMW」に対し、「都会っぽいおしゃれ感こそすべて!」というイメージがあるアウディ。
それゆえ硬派なカーマニアはBMWを選び、「アウディを選ぶ人って、結局はカッコつけたいだけの、わかってない人なんでしょ?」とか内心思っている。
冒頭のような図式は確かにあるだろう。またアウディは凝った先進的メカニズムをいち早く採用したがるがゆえに、多少壊れやすく、そして壊れた際の修理代がバカ高い(要するに整備性がよろしくない)という部分を好まない輸入車マニアもいる。
これらはすべて事実かもしれないが、同時に「偏見に過ぎない」とも言える。
過去のBMWとアウディでは確かにそういう「違い」があった。だが近年は、例えば現行BMW 3シリーズとアウディ A4では「違うと言えば違うが、同じようなモノと言えば同じ」という具合に、その個性と実質はかなり接近しているのだ。
アウディの整備性がイマイチな場合が多いのは今もそうだが、最近の人はわざわざ修理などぜず、3年も乗れば手放す場合が大半なので、そこも大した問題にはならないのである。
◆ ◆ ◆
車には、誰もが扱いやすくバランスがとれたモノがあれば、より車としての本質を追求した個性が強いモノもある。
そこには確かに、歴然とした「違い」が存在しているケースもある。その違いこそが、クルマ好きを楽しませ、より多様で奥行きのある自動車文化を作り出す役割をも担っている。
一方で我々クルマ好きは、コアな野球ファンが野球を楽しむがごとく、クルマ好きの車になれない車に対する「偏見」も含めて、クルマという文化を楽しんでいるのかもしれない。
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