メルセデスの中核モデルであるEクラスと共に、メルセデスAMGのE 63 S 4MATIC+もマイナーチェンジ。内外装や先進装備が新世代へとアップデイトされた。ピュアな内燃機関“One man - one engine”を積んだ、スーパースポーツのAMG GTより速い“Eクラス”を試した。
デザインや先進装備を最新世代へアップデイト
2016年に登場した5世代目Eクラス(W213)が約4年を経てマイナーチェンジを実施。それに伴い、AMGモデルも大幅にアップデイトされている。今回の試乗車は、「メルセデスAMG 63シリーズ」の中でも最速モデルである「メルセデスAMG E 63 S 4MATIC+」だ。
エクステリアの最大の変更点は、最新のAMG顔ともいえる縦にルーバーの入った“パナメリカーナグリル”を採用したこと。またバンパー下部のフロントエプロンはF1マシンのノーズを彷彿とさせるような形状に変更されている。これによりエアインテークを大型化するとともにダウンフォースを高めた。リアエプロンも形状変更し、フロント、サイド、と一連のシルバー仕上げで、スクエアな4本出しエグゾーストをより強調している。
インテリアでは、まず新世代の3本のツインスポークを採用したステアリングホイールが特徴的だ。ブラックアウトされたスポーク部には、メーターやインフォテインメントシステム、安全運転支援システムの操作スイッチを集約している。メーターパネルとセンタースクリーンは、12.3インチの大型パネルを2つ連ねたもので、「ハイ、メルセデス」で起動する音声認識機能や、センタースクリーンにカメラで捉えた現実の景色を映し出し、その映像の上に進むべき方向などの矢印を表示するAR (Augmented Reality = 拡張現実) ナビゲーションを採用した。
またADAS(先進運転支援システム)ももちろん最新バージョンとなった。例えば従来モデルでは、ディスタントディストロニック(ACC)使用時にドライバーがステアリングを握っていることを、入力トルクかタッチコントロールボタンへの接触で感知しており、ソフトに握っているとたびたび警告がでていらいらする場面があった。しかし、新型ではリムに静電容量式センサーを備えたパッドを採用したことで、使い勝手を向上している。
エンジンは、従来モデルから大きな変更点はない。メルセデスAMGには、ひとりのマイスターが1基のエンジンを最初から最後まで責任を持って手作業で組み上げる“One man - one engine”という哲学があるが、現行Eクラスでは63シリーズのみがこのやり方でつくられている。その点では同じAMGモデルといっても53シリーズとは一線を画す特別なモデルだ。メルセデスAMG GTと基本設計を共通とする4リッターV8ツインターボエンジンは、アルミニウムクランクケースに鍛造アルミニウム製ピストンを組み合わせることで軽量かつ高強度を実現し、さらにシリンダーウォールにスチールカーボン材を溶射コーティングする摩擦低減加工を施すことで、フリクションを低減。その結果、最高出力612ps、最大トルク850Nm、0-100km/h加速は3.4秒と、なんと本家AMG GTを出力でも速さでも上回っている。
真の実力を試すならサーキットへ
試乗車はブリリアントブルーマグノというマットカラーで、今どき珍しい左ハンドル仕様だった。メルセデスはE450やAMGモデルでは、まだ左右を選べるようにしているという。ステアリングとシート、そしてペダル類の配置バランスは、座りがいいというべきか、やはり左ハンドル仕様に分があるように感じる。ステアリングのセンターパッドの左右にはダイヤル式のスイッチが備わる。右側のダイヤルではドライブモードを、左側のダイヤルでは、エンジンやトランスミッション、サスペンションなどのセッティングを個別に変更できる。
600psオーバーに身構えながら、メーターパネルの右下に配置されているエンジンスタートボタンを押すと、V8エンジンは拍子抜けするほどあっさりと目覚める。ステアリングの右裏にあるコラム式のATシフトをDレンジに入れて走りだせば、これは街中でも普通に使えるとすぐにわかる。足まわりには減衰力可変式の3チャンバー式エアサスペンションを採用しており、乗り心地もいい。従来のEクラスのAMGモデルといえば、もっと緊張感のある硬質な乗り味だったけれど、いい意味でマイルドになった。また「コンフォート」モード走行時にエンジンが低負荷状態になると、4気筒を休止する機構が備わった。気筒休止システムはその作動を体感することが難しいが、このモデルではメーター内にV型に並んだピストンと4の数字を組み合わせたアイコンが表示されるようになっている。一般道でも高速道路でもゆっくりと走っていれば、たびたびその表示が現れるので、精神衛生上よい。
ドライブモードは「コンフォート」をはじめ、「スポーツ」「スポーツ+」「インディビジュアル」という4つに加えて、さらに「レース」モードも用意される。ここではESP(横滑り防止装置)をオフにし、さらに駆動方式を4WDから駆動配分を0:100の完全なFR後輪駆動へと切り替えるドリフト・モードが選択可能となる。またAMGトラックペースという機能ではサーキットでの走行中にラップタイム、セクタータイムなどを確認できるほか、縦横加速度、アクセル・ブレーキペダルポジション、舵角などが記録可能で、自分のドライブを分析してラップタイムの向上を図ることができる。実際のところ「スポーツ+」モードを選択し、スポーツエグゾーストのフラップを開いて少しばかり勇ましい排気音を奏でてみたところで、その本領を発揮する場所は公道にはない。このクルマをとことん楽しみたいなら、サーキットなどクローズドな場所にいくほかない。
2030年までに電気自動車専業メーカーへの転身を発表したメルセデスは、9月に開催されたIAAでAMG初のプラグインハイブリッドカー「メルセデスAMG GT 63 S E PERFORMANCE」を発表した。このV8エンジンは、おそらく最後の電動化されていない、もっともパワフルな内燃機関になるのではなかろうか。メルセデスに限らずだが、件の半導体問題などもあって、いまこのモデルは販売休止になっているという。在庫を探すか、中古車を探すか、ピュアな内燃“One man - one engine”を手に入れるのに残された時間は、もうあまりないようだ。
文・藤野太一 写真・茂呂幸正 編集・iconic
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