希有な存在となった国産FRセダン ミドルクラスは2車しか存在しない
現在、新車で販売されている国産FR(後輪駆動)ミドルセダンは、なんとトヨタ・マークX、日産スカイラインの2車種のみ。このほかの国産ミドルセダンは、すべてFF(前輪駆動)となっている。 そんな希有な存在となっているマークXだが、車両本体価格は2.5リットルV6エンジンを搭載するベーシックモデルが265万6800円。意外にもリーズナブルな価格で、世界の高級車が採用するFRレイアウトを手に入れられる注目の一台といえるだろう。
トヨタ「クラウン」の末っ子『2リットルターボ』は意外にも駿足!
実は、ロールスロイスなどを代表とする世の中の高級セダンのFR率は実は高い。 FRは前輪で操舵、後輪が駆動と役割分担をしているため、クルマが効率良く動き、自然なステアリングフィーリングを得られるのが特徴だ。 一方FFは、前輪が操舵と駆動を兼任しているため、エンジンからの振動がハンドルに伝わりやすい。さらに前輪タイヤのグリップ力(摩擦円)は曲がるためと進むための両方を担わないとならないため、FRに比べるとかなり不利だ。FFはアンダーステアが強いというのは、こういう物理的な部分も一つの理由なのである。 そのほか、FRはエンジンを縦置きするため、横置きするFFに比べてサスペンションレイアウトの自由度が高くなっている。これもハンドリング性能が高くできる要素になっている。とはいえ、現在の国産ミドルセダンはスペース効率に優れるFF車が主流。トヨタでいえばカムリがそれ。さらにクラウンというFRセダンの上位モデルが存在するなど、正直なところマークXに対する市場からの反応はやや希薄になっているのも事実だ。
そんなマークXだが、現行モデルの130系が登場したのは2009年。2016年11月に2度目のマイナーチェンジを果たし、2017年にはスポーティなGRを追加。決して進化の手を緩めているわけではない。
搭載エンジンは3.5リットルV6と2.5リットルV6と2タイプを設定。グレード体系は3.5リットルはRDSとRDS”GRスポーツ”の2種類。2.5リットルはスポーティなRDS、S、S”GRパッケージ”、ラグジュアリーなG、ベーシックグレードのG”Fパッケージ”の5グレードを設定する。2.5リットルエンジンのSとGには4WDも設定されている。トランスミッションは全グレード6速ATだ。 ハイブリッドモデルをラインアップしないところが、やや時代を感じさせるところだ。
今回試乗したのは2.5リットルエンジンを搭載する250RDS。18インチホイールやリヤスポイラー、パドルシフトなどスポーティなアイテムを標準装備する。車両本体価格は343万4000円。ベーシックモデルの250G”Fパッケージ”に比べると80万円弱高い。豪華な内装など価格差相当の違いはあるが、ホイールやエアロを替えるのが前提なら250RDSではなく250G”Fパッケージ”を選択すると良いだろう。
今回の試乗ルートは東京~大阪往復約1200km。以前も同じルートで2リットル直4ターボを搭載するトヨタ・クラウンアスリートG-T(車両本体価格540万800円)を試乗していたので、その違いもチェックすることができた。
試乗車はオプションのアルカンターラと合成皮革を装着。RDSはフロントは両席共にパワーシートを採用。 クラウンに比べるとスポーティな形状になっている。
軽量なボディと短いオーバーハングが 軽快なフットワークを実現する
走り出してまず感じるのが「軽快」なことだ。もちろん、コンパクトカーのようなヒラヒラしたような動きではないが、クラウンアスリートがシットリとした走りに比べると、マークXはシャープな印象。じつはマークXとクラウンのホイールベースは2850mmと同じ。全長はマークXのほうが125mm短い。 つまり、マークXは前後のオーバーハング(ホイールからボディ前後の端までの距離)がクラウンより短いこともあり、マスが集中していることから走りの軽快さがあるのだ。ちなみに車幅はマークXのほうが5mm狭い。さらに車両重量を調べてみると、マークX250RDSの1520kgに対してクラウンアスリートG-Tは1630kg。その差は110kg。1.5t超のクルマとしても、重量の違いが走りの質感にも出ていたわけだ。
マークXには、走行モード制御が装備されている。具体的には、スポーツ、スノー、エコ、標準の4モードがあり、シフトレバーのそばのスイッチで切り替えられる。 さらにRDSグレードは、ダンパー減衰力を電子制御しているので、スポーツモードにすると引き締まった乗り味になる。
制限速度が60km/h以下の一般道や市街地の走行では、エコモードや標準モードが乗り心地も良く、アクセルの反応が鋭すぎず、ステアリングは軽いなど最適だろう。 エコモードはややアクセルの反応が緩慢になるが、一定の速度で走行できるシーンでは有効だろう。
ここで注目したいのがスポーツモード。以前試乗したクラウンアスリートもそうだったが、ダンパーの減衰力を高まるので少し乗り心地が硬めになるが、ドイツ車のような引き締まった走りが実現できる。 とくに高速道路の山岳区間のようなきついカーブでの安定性はグッとアップ。しかも、高速道路を少し速いペースで走行していると、路面のつなぎ目などの路面からの入力をしっかりといなしてくれるのだ。 意外かもしれないが、逆に標準モードではダンピング不足からかフロアからの伝わってくる振動は大きい。
スポーツモードは、高速道路をハイペースで走行するときステアリングの手応えもありオススメなのだが、シフトアップするタイミングが遅く、高いエンジン回転数をキープするようなセッティングになっている。そのため燃費面では不利になる。昔のトヨタ車のように足まわりだけ独立した設定ができるといいのだが・・・。
トランクルームは特別広いというわけではないが、奥行きもあり使い勝手は良好。しかもリヤシートは40対60の分割可倒式なので、長尺モノを積載することも可能だ。
2.5ℓはレギュラー仕様で燃料代を節約可能 しかしハイペースで走ると多段式ATがほしい
250RDSが搭載する2.5リットルV6エンジンは最高出力203ps/最大トルク243N・m。1.5tのボディに対して必要にして十分なスペックといえるだろう。 往路の東京~大阪は東名高速~名神を使用。神奈川県の大井松田まで約2時間と猛烈な渋滞に遭遇してしまったが、それ以降は流れも良く、速い走行ペースをキープしたまま走行。大阪までの燃費は11.1km/L。実は、走り(乗り心地も)の良さを優先させるためにこの区間の多くはスポーツモードで走行していた。それゆえエンジンの回転数が標準モードより常に高めとなり、燃費が思うほど伸ばすことができなかった。
復路の大阪~東京は名神~中央道。中央道は諏訪までアップダウンが大きく、追い越しをするときシフトダウンする頻度が高くなるのだが、今となっては段数の少ない6速ATのギヤ比の影響もありエンジンの回転数が急激に高まってしまう。長距離移動では、エンジン回転数の大きな上下はストレスの原因となるかもしれない。 6速ATでもトルクフルな3.5リットルエンジン(318ps/380N・m)なら不満は感じないだろう。できることなら、クラウンなどが搭載する2リットル直4ターボ(235ps/350N・m)が設定してほしいところだ。
ちなみに復路の燃費は12.5km/L。往路よりのような渋滞がなかったなど、条件が良かったためカタログ値を上回る好燃費を記録できた。東京~大阪往復した約1200kmの平均燃費は11.8km/Lだった。
直接比較はできないが、2リットル直4ターボを搭載するクラウンアスリートG-Tと燃費はレベルはほぼ同じといえる。 しかし、マークXの3.5リットルV6やクラウンの2リットルターボはハイオク仕様だが、マークXの2.5リットルエンジンはレギュラー仕様。結果的に燃料代は1リットルあたり約10円安くなる。500kmを11km/Lで走行したと想定したらマークXのほうが約450円安くなるわけだ。
長い距離を走行してみて、改めてマークXはドライバーズカーとしての資質は十分に高いことが確認できた。ミドルサイズセダンという適度なサイズはマークXの走りの良さを支えているといえる。 クラウンのようにLサイズセダンの優雅さも魅力だが、欧州車のようないぶし銀の輝きがマークXから感じられた。
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