■「インド」が「バーラト」に?その複雑な背景とは
インドはスズキが新型「ジムニー5ドア」を世界に先駆けて市場投入したことで注目されています。
その一方で2023年9月には「インド」の国名が「バーラトなるのか」ということでも話題となりました。
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そんな渦中のインドですが、同市場で圧倒的なシェアを誇るのがスズキ(マルチ・スズキ)ですが、なぜこれほどまでに存在感を持つようになったのでしょうか。
2023年9月9日からインドの首都ニューデリーで開催されている主要20か国首脳会議(G20)。議長国となるインドに、まさかの「国名変更」の可能性が生じています。
そんな話題のインドですが、同市場で圧倒的なシェアを誇るのがスズキ(マルチ・スズキ)です。
今回、国名変更のきっかけとなったのがインド政府が各国首脳に送付した夕食会の招待状です。
本来であれば、主催者となるのは「インド大統領」ですが、招待状に記されていたのは「バーラト大統領」の文字でした。
国際社会では「インド」と称することが一般的ですが、実はインドの憲法では「バーラト」も正式名称とされています。
「バーラト」とは、ヒンディー語においてインドを表す言葉です。つまり、どちらも指しているもの自体は同じです。
ただ「インド」という表現はイギリス植民地時代に由来するものであるため、インド国内ではそのイメージを払拭するべきという声も根強いようです。
特に、現在の政権与党であるインド人民党は、ナレンドラ・モディ首相を筆頭にヒンドゥー至上主義を打ち出していることから、ヒンディー語由来である「バーラト」へと国名を変更する意欲は強いとされています。
ヒンドゥー教徒はインドの人口のおよそ8割を占めているため、ヒンドゥー至上主義を支持する声は少なくないといいます。
しかし、ヒンディー語の話者は人口の4割程度にとどまっています。
インドでは憲法によってヒンディー語が公用語、英語が準公用語とされていますが、それ以外にも20を超える言語が指定されているなど、世界有数の超多言語国家です。
一説によれば、インド国内では1000を超える言語が使用されていると言われています。
そのようななかで、国名をヒンドゥー教由来の「バーラト」に変更することは決して簡単なことではなく、今後の動向に注目が集まっています。
※ ※ ※
2023年に中国を抜いて世界最大の人口を持つ国となったインドは、2022年の新車販売台数においても日本を抜いて世界第3位となるなど、自動車産業においても今後さらに躍進していくことが予想されています。
そんなインドの自動車市場で最大のシェアを誇るのが、マルチ・スズキです。
2022年度に販売された457万8639台の新車(乗用車)のうち、マルチ・スズキは41.3%にあたる160万6870台のシェアを誇るなど、まさに圧倒的とも言える地位を築いています。
■きっかけは50年以上前…スズキとインドの深い関係とは
スズキとインドの関係がはじまったのは、1969年のことでした。
当時、亜細亜大学が主催した「アジア・ハイウエー第二次踏査隊」の使用車両としてインドへと上陸した「フロンテSS」は、軽快な走りがインドの人々の注目を集め、ついには首相公邸へと招待されることになります。
そこで、首相の長男でありクルマ好きとして知られていたサンジャイ・ガンジー氏がフロントSSを絶賛し、さらにはスズキとの提携を持ちかけます。
当時のスズキはその申し出を辞退しますが、その後サンジャイ・ガンジー氏は国民車構想を担う自動車メーカーとして、マルチ社を1971年に設立します。
しかし、1980年にサンジャイ・ガンジー氏は不慮の事故で命を落としてしまいます。
リーダーを失ったマルチ社は経営危機におちいり、国有化されることで再建を図ることとなりました。
マルチ社の提携先を探すインド政府に対して名乗りを挙げたのが、鈴木修社長(現会長)の指揮のもと積極的な海外展開を図っていたスズキでした。
インド政府関係者に対して、鈴木修社長みずからホワイトボードに工場のレイアウトを描くなど、熱心に議論を進めたと言われています。
その結果、1982年にマルチ社とスズキによる合弁企業としてマルチ・スズキが誕生し、翌1983年より現地生産を開始します。
それ以降、マルチ・スズキのクルマは順調に販売台数を増やし、現在の地位を築いていくことになります。
現在では世界中の自動車メーカーがインドへと進出していますが、マルチ・スズキほど現地に根ざした自動車メーカーはほかにはありません。
実際、マルチ・スズキの販売網はインド国内全域をカバーしており、各地域のユーザーのニーズや言語にも完全に対応しています。
そうした意味で、マルチ・スズキはインドの人々にとって単なる「日本のクルマ」を超えた存在であり、文字通り「国民車」そのものです。
マルチ社とスズキが提携交渉を進めていたなかで、インド政府関係者は「われわれの話を真剣に聞いてくれたのはスズキだけだった」というコメントを残したと言われています。
トヨタやホンダ、日産が北米や欧州市場へと進出していたなか、インドに注目した当時の鈴木修社長は、まさに先見の明があったと言えます。
※ ※ ※
今後さらなる成長が予測されるインド市場ですが、ほかの国々同様、政府によって電動化が推進されており、現時点では、2030年までに新車販売台数(乗用車)の3割をBEVにするという目標が掲げられています。
スズキは、2030年までにインドに6モデルのBEVを投入することを明らかにしています。
スズキにとって最重要市場とも言えるインドのBEV戦略は、日本におけるBEV戦略にも大きく関わることは言うまでもありません。
インドという巨大市場のなかで、非常に強い存在感を持つスズキの動向に注目が集まっています。
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