■最高速重視の正統派レーシングカー・スタイルを貫いたジャガー「XJ220」
ちょっと変わった角度から、スーパースポーツカーを眺めなおしてみたいと思う。角度を変えて、どこを見て欲しいのかというと、各モデルにおけるショルダーラインあたりの形状とその面積、である。
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自動車を真正面から見て、キャビンを頭と首に見立てれば、肩に相当する部分だ。
とはいえ、通常のクルマには、ショルダーラインこそあっても、そこに「肩」といえるほどの膨らみなどほとんどない。
何せ、せっかく確保した「横幅」なのだ。居住性を追究するため、その幅をギリギリまでキャビン幅に使いたいものだからである。ミニバンはその極端な例で、肩などまるでない。一般的な乗用車では、さすがにそこまで開き直ると単なる積み木の箱になってしまうので、望ましいキャビンスペースを確保さえすれば、キャビンを多少上に向かって絞り上げ、格好いいスタイルと空力性能を両立しようとする。
一方、ミニバンの対極、つまり肩のある際たるクルマはといえば、フォーミュラマシンである。キャビンにあたる部分をほとんど人間一人分にまで絞り、まるで「怒り肩」のようにサイドポンツーンを張り出させた。小顔である。
こんどは、グループCカーやスポーツプロトタイプなど、純粋なキャビン付きレーシングカーを思い出してほしい。ベンチのように張り出した「肩」に、必要最小限の丸いキャノピー風キャビンが設えられている。だから、ドアの開閉方法はディへイドラルタイプが多い。
この、「肩」に注目して、いまいちどスーパースポーツたちを眺めてみれば、よりレーシングの血統に近いモデルが、肩幅をより拡げていることが分かる。
たとえば、ジャガー「XJR15」やメルセデスベンツ「CLK-GTR」はCカーそのものだから、立派な肩がある。そこまでいかずとも、レースフィールドの存在を強く感じさせるマクラーレン「F1」やフェラーリ「F40」&「50」、さらには21世紀のスーパーマシンであるポルシェ「カレラGT」や「エンツォフェラーリ」など、極限のパフォーマンスを誇ったスーパースポーツには、必ず大きな肩が存在したものだ。
パガーニ「ゾンダ」やケーニグセグ「CCシリーズ」、グンペルト「アポロ」といった、最近のウルトラスーパーカーもまた、レーステクノロジーからのフィードバックを大いに受けていたのだろう、一様に肩幅が広い。ブガッティ「EB110」もまた、しっかり肩のあるタイプだった。
一方、フェラーリやランボルギーニといった通常シリーズのミドシップスーパーカーたちはどうだろうか。
お気づきのように、肩幅が実は狭い。「ガヤルド」も「アヴェンタドール」も、「458イタリア」にも、キャビン下に肩がほとんどない。レーシングカーというよりも乗用車に近い。つまり、これらのスーパーカーたちは、レーシングカー級の性能は望むけれども、空力と居住性のどちらを取るといわれれば、最初にまず居住性を選ぶクチ、というわけである。
大人ふたりがちゃんと座れないようなスーパーカーは、いまどき(大量に)売れるわけがないというわけだ。
さて。前置きが長くなってしまった。いよいよ、ここからが本題のジャガーXJ220の話である。
まずは、同様に肩の観点から、このクルマを眺めてみてほしい。実はこのクルマも、肩がとても狭い。そのくせ、Cカーのように、いかにもレーシングカー的な流れるシルエットをもっている。
低く、長く、ワイドなのに、肩がほとんどない。そして、ドアは大きく、キャビン幅が割と広い。いったいレーシングカー寄りなのか、ふつうの車両寄りなのか、だいたい区別がつくスーパースポーツの世界にあって、異質だ。
この、スタイルと肩の関係から導き出されるXJ220最大の特徴がひとつある。それは、レースとラグジュアリーの本格的な融合、だ。このクルマの本質を語るときに、それは欠かせないキーフレーズのひとつになるだろう。
■XJ220のコクピットは、レースとラグジュアリーが融合していた!
1980年代後半。XJ220のプロジェクトは、ひとりのエンジニアの、何気ない落書きから始まった、と伝えられている。
彼の永遠のアイドルはミドシップレーサーの「XJR13」だった。
そのシルエットをモチーフに、自然と万年筆が動いた。低く伸びやかなシルエットに安定感のある長いホイールベースと、バランスよく加えられたオーバーハング。
キャビンこそ現代風に設えられていたものの、それは紛れもなく、レーシングカーXJR13のモダナイズド版であり、彼はたちまちその車体にインストールしてみたい当時最新のテクノロジーを想像することに夢中となった。ひとりのエンジニアとして……。
エンジンはもちろん大排気量12気筒、そして強大なパワーを確実に伝えるよう4WDシステムを搭載する。そんなエンジニアの夢は、いつしか周りに熱をもってささやかれ、次第にエンジニア仲間や懇意とするサプライヤーの共感までもを得て、皆の夢と希望をつめこんだ一台のコンセプトカーへと発展するのだった。
1988年、ジャガーXJ220プロトタイプ、公開。車名の数字は、夢の時速220マイル(約352km/h)達成を意味していた。
ときあたかも、皆夢を「買える」もんだと思っていた狂乱の時代……。男の夢はついに、市販化という現実になった。
1989年末。予約注文開始後、わずか48時間で予定限定販売台数の220台を大幅に上回る1500通ものオーダーが殺到したという。気を良くしたジャガーはプラス130台の増産を決意してしまう。
このとき既に日本のバブル経済に牽引された世界景気は傾きつつあった。同時期に発表された多くのスーパースポーツカー計画がのきなみ頓挫してしまうなか、XJ220の開発と生産を委託されていたジャガー・スポーツ社は、かさみすぎた開発コストや開発スピードの遅さ、重すぎた車重、さらには忍び寄る景気後退への不安を乗りこえて生産を実現するために、ある決断を下す。
ラリーやグループCで実績のある3.5リッターV6ツインターボエンジンの搭載と、4WDシステムの断念である。
確かに、男の夢を理想的に現実化することは叶わなかった。全長とホイールベースも縮まってしまった。とはいえ、ル・マンの長い直線を走るにふさわしいレーシングカー・スタイルはそのままである。最高速にしても、220mphには届かなかったものの、当時世界最速の217.1mphをナルドのテストコースで達成している。
1991年、いまとなっては考えられないことだけれども、わが国でXJ220の市販モデルがワールドプレミアする。しかし、そのタイミングは最悪。翌年から生産が始まるも時すでに景気は後退。
当初の予定台数こそ上回ったが計画の350台には及ばず、281台で生産を終える。とはいえ、実際に生産されたこと自体が、あの瞬間、あの時代にほとんど奇跡であったのかも知れない。
当時、ジャガーといえば、ル・マン24時間レースでの活躍が印象に強かった。そのイメージとも重なるXJ220最大の魅力は、やはり、この伸びやかなシルエットである。そして、最高速重視の正統派レーシングカー・スタイルでありながら、前述したように、乗用車志向のキャビンをもつ。
だからバリバリのレースカーには見えない。ラグジュアリーカーのオーラも強く漂っている。そのミスマッチというかアンバランスさが、XJ220の、他にない魅力だと言ってよさそうだ。
小さく開いたドア。身をよじってコクピットに潜り込む。取材車両は走行距離500kmに満たない新車同然の個体で、新しいレザーの香りが残っていた。スポーツカーらしい仕立てで、ウッドパネルこそないけれど、その雰囲気はまさしくジャガーである。ガラスルーフの存在も、このクルマのラグジュアリーさを強調している。
クラッチペダルはやや重いか、という程度。決して、不当ではない。レーシングスペックのV6エンジンとはいえ、そこはジャガーの市販モデルだ。右足へ確実に理性が届いているかぎりにおいて、それほど扱いに困ることはないはず。
市中で扱う際に気になるのは、むしろ前後に長いオーバーハングだ。容易に想像できるだろう。恐ろしく取り回しが悪い。
一旦走り出してしまえば、極上のグランドツーリングカーである。レース仕様のXJ220Cにも乗ったことがあるが、ル・マンを戦った個体でさえクルージング中のライドフィールは眠気を誘うほど快適だ。
本気で350km/hオーバーを狙ったジャガーXJ220。夢だけを語っていた1970年代的スーパーカーの時代から、夢の実現を約束した1990年代以降のスーパースポーツカー時代へ。その節目にあって、XJ220は、ラグジュアリー・レーシングを極めた貴重な一台だと言っていい。
* * *
●JAGUAR XJ220
ジャガーXJ220
・全長×全幅×全高:4930×2220×1150mm
・ホイールベース:2640mm
・エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
・総排気量:3500cc
・最高出力:542ps/7000rpm
・最大トルク:65.7kgm/4500rpm
・トランスミッション:6速MT
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