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【名車への道】‘52 フィアット500C

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【名車への道】‘52 フィアット500C

天才エンジニアが手がけた知る人ぞ知る初代モデル、名車“トッポリーノ”

——2021年の年始めはちょっとばかりいつもと違う名車予備軍にしたんですよ。今後名車になる、というより名車なんだけど、実はあまり知られていない車。隠れた名車みたいなモデルです。

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松本 僕が提案する車はなかなか見つけられないみたいだしね。

——はい……。松本さんのオーダーに沿って探してはいるんですが、台数が少なくて難しいんですよ。そこでいっそのこと珍しいモデルにしてみようかなと。毎度お世話になっているコレツィオーネさんに素敵な1台があったんで。

松本 ちゃんと企画の趣旨に合ってるの?

——これでも企画立案者ですからわかってますよ! 今回はですね、1930年代からあるフィアットの通称トッポリーノです。

松本 それはいい車を探してきたね!

——このモデルって2 代目が有名すぎて忘れられがちで、実は知らない人が多いかなって。

松本 紛れもない名車だよ、それは。 ——良かった! 僕はほとんど見たことないんですよ。あ、これがそうですね。この木目パネルが珍しいんですか?

松本 こんな車はめったに見られないんだからちゃんと覚えておくんだよ。これは“FIAT 500Cジャルディニエラ”のウッディモデル。僕も日本では初めて見たね。まぁそれは後で説明するとして、まずアニメのルパン三世「カリオストロの城」にも登場した有名な500(チンクエチェント)が2代目なのは知ってるよね? 1957年から77年に作られた“NUOVA500”。

——知ってます。今販売されているFFの500が3代目になるんですよね?

松本 そう。500の初代が、1936年に登場した通称トッポリーノと呼ばれるこのマイクロカーだったんだ。最も価格を抑えた最も経済的な車ということをキャッチフレーズに販売されて大好評だったんだよ。

——順番を知っている人はいても、この車を見てこれが初代500だとわかる人は少ないでしょうね。

松本 そうだと思うな。500Aを作ったのはダンテ・ジアコーサという天才なんだよ。なんと、当時30歳という若さで技術責任者に抜擢された彼が機械的な部分を作ったんだ。すごいのはこの当時に油圧ブレーキだからね。しかもフロントは独立懸架でリアはリーフリジッド。まだ機械式のワイヤーブレーキがあった時代に大衆車が油圧式ブレーキだからね。いかにこの車が進歩的だったか、よくわかるよ。 ——長い期間販売したんですか? 今回の車は1952年式のようですが。

松本 人気を博したトッポリーノはエンジンをサイドバルブからOHVに変更して1955年まで生産されたんだ。20 年間作られたんだけど1949年にボディをモダンにしたんだよ。それが今回紹介する500Cだね。

——なるほど。サスペンションとブレーキはわかりましたが、基本的なスペックはどんな感じなんですか?

松本 エンジンは水冷4気筒で初期はサイドバルブ、1948年からはアルミ合金製のシリンダーヘッドを採用していたんだ。排気量は569cc。登場した当初は13馬力だったんだけど、進化を続けて16.5馬力まで出力はアップしたんだ。燃費はこの当時の測定法でのものだけど、500Cタイプはメーカーのアナウンスによるとリッターあたり20kmとされているようだね。

——それってこの時代の車としては驚異的な数字ですよね?

松本 当時としては飛び抜けた数字だったろうね。フロントエンジン・リアドライブのFRで、このパッケージングを使って小さなレースカーも作られたりしたんだ。燃料タンクはフロントに搭載されていてね。昔、僕が運転させてもらったのはフューエルポンプが付いていない自重式の供給システムだったよ。ひと昔前のバイクと一緒だね。

——この500Cは違うんですか?

松本 500Cはポンプ付きなんだよ。進歩してるでしょ? それとラジエターが特徴的でフロント前方ではなく後方に取り付けられているんだよ。ドイツのDKWもそうだったね。水冷式というとウオーターポンプが当たり前だと思う人が多いけどサーモサイフォン式といって温まった冷却水が上に行き、冷めた冷却水が下に行く循環システムなんだ。これを初めて見たときは、壊れていると思ったよ(笑)。

——ちょっとわかる気がします(笑)。

松本 実は最初に登場した500Aというモデルは、ジアコーサがメカニズムとボディデザインにも関与していたんだけど、デザインに関してはすべての権限を発揮することはできなかったんだ。でも今回紹介する500Cはジアコーサ自身がすべて関与している。だからデザインが一気にモダンになっているんだよ。

——このジャルディニエラというのは?

松本 500Cには様々なボディスタイルがあったんだけどジャルディニエラは貴重なんだ。これはガーデナー、つまり庭師という意味で、それを彷彿させるようなウッディモデルだったんだよ。その後1952年からはジャルディニエラは廃止されてベルヴェデーレとなり、そのときウッディモデルも消滅してしまったんだね。

——ここまで広いエリアにウッドを使われると……自動車とは思えない雰囲気になりますね。

松本 そうだね。我々自動車ジャーナリストにとって神様みたいな存在のポール・フレール氏がフィアット500C ジャルディニエラを所有していたね。素晴らしくきれいにレストアしてあった。色はソリッドのダークグリーンだった。さすがポール・フレールが選んだ1台だけあるよ。そしてフィアットの技術の基礎を作った天才エンジニア、ジアコーサがすべて手にかけて作り上げた最初の傑作車。2代目の陰に隠れてはいるけど、知る人ぞ知る名車であることは間違いないと思うな。 

フィアット500C

1936年に登場した500の初代モデル、通称トッポリーノと呼ばれるマイクロカー。1949年からはボディをモダンに仕立てた500Cへと改良されている。FRを採用。フロントサスペンションに独立懸架を用いるなど、先進的なモデルだった。 ※カーセンサーEDGE 2021年3月号(2021年1月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています文/松本英雄、写真/岡村昌宏

【取材協力】コレツィオーネカーセンサーEDGE.netはこちら

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