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【試乗】初代ティグアンはフォルクスワーゲンらしいバランスのいいコンパクトSUVだった 【10年ひと昔の新車】

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【試乗】初代ティグアンはフォルクスワーゲンらしいバランスのいいコンパクトSUVだった 【10年ひと昔の新車】

2008年、世界的にコンパクトSUV人気が高まる中、フォルクスワーゲンから初代ティグアンが登場した。日本でも手頃なサイズで、実生活に密着しそうなこのモデルには大きな注目が集まった。Motor Magazine誌では「特集フォルクスワーゲンとアウディ」の中で、ほぼ同時期のデビューとなったアウディQ5と比較しながら、日本上陸を果たした初代ティグアンの魅力に迫っている。ここではその興味深いレポートを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年11月号より)

いよいよ欧州車メーカーも小型SUV市場に本腰
やはり欧州の自動車作りは保守的なんだなあと、最近改めて思う。今回紹介するティグアンも、そうした有り様を如実に映し出している1台だ。

クルマとゴルフの最新モデルが丸わかり。まったく新しいタイプのオンラインイベントが始まった

SUVは、この10年間大きな変化の波にさらされたカテゴリーである。1997年に日本国内でハリアーが登場し、翌年レクサスからRXとして北米デビュー。乗用車のプラットフォームをベースとしたこのクルマは、とくにアメリカにおいて、従来からあったトラックベースのSUVとはまったく異なる顧客層を開拓した。生活臭が強くなり過ぎたステーションワゴンやミニバンに代わる新たなファミリーカーというポシジョンを築き上げたのだ。

これに触発されたのが欧州のプレミアムブランドで、レクサスRX以降各社が投入したブランニューSUVはBMW X5、フォルクスワーゲン トゥアレグ、ポルシェカイエン、アウディQ7など枚挙に暇がない。

Mクラスをハリアーに先行して出していたメルセデス・ベンツは、やや軸足に迷いのあったこのクルマを2世代目で見事に再生。現在はより大きなGLクラスまでもラインアップする。さらに、BMWからはX6なるクーペクロスオーバーまでも登場。熟成期に移り、バリエーションの裾野を拡大しつつあるのが、プレミアムSUVと呼ばれるジャンルだ。

しかし日本市場に新たに登場したティグアンは、これらとはサイズ的/車格的な存在感が若干異なる。もっと手頃でヨーロッパや日本の実生活に密着しそうなコンパクトSUVだ。

実は、こうしたジャンルにも先達がいる。ここでも始祖となったのは日本車で、1994年にトヨタが登場させたRAV4と、翌年登場のホンダCR-Vだ。

小型車が得意な日本メーカーが、そのプラットフォームに軽便な4WDシステムを積み込む手法でこれらの小型SUVは作られた。そして、世に出してみるとこれが日本よりも海外で好評を博すこととなった。欧州ではハッチバックに代わるクルマとして受け入れられたし、北米では若い女性ユーザーの需要も多かったと聞く。

理由は、モノスペースキャビンのもたらす使い勝手の良さ、高いアイポイントと堅牢そうな車体から来る安心感、そして適度なサイズ感から来る使いやすさといったところ。プレミアムがウケた理由とそう大きく異なるとは思えないし、コンパクトSUVは北米のみならず欧州でも人気が高まった。にもかかわらず何故かこのコンパクトSUVに名乗りを上げる欧州メーカーは多くなかった。だから欧州市場は保守的なんだなあという、冒頭のつぶやきが出てしまうわけだ。

コンパクトSUVに対し敏な動きを見せたのはBMWが唯一。2004年にはX3を投入しており、プレミアムブランドでは一人勝ち状態を続けている。

折しもの原油高騰や、フリート燃費の低減など、SUVと言えど小型化が望まれる要素は多い。実際市場での人気が盛り上がりを見せており、メーカーも静観してはいられなくなった。で、ここにきてメルセデスGLK、アウディQ5、そしてティグアンの登場となったのだ。

大型車を得意とするプレミアム勢はともかく、小型実用車を中心とするフォルクスワーゲンは、このジャンルにもっと早く着手しても何も不思議はなかった。その意味でも「待っていたぞ」の想いは強い。

170ps仕様の2.0TSIながら予想を大きく上回る動力性能
そのティグアンに乗ってみる。エクステリアは期待通り、フォルクスワーゲンらしく奇をてらわず、必要以上に押し出しを強めずといったケレン味のない仕上がり。奥行きのある独特のヘッドライトはイオスやトゥアレグなどとの共通性を思わせる一方で、横長のテールライトは新しいゴルフ6も彷彿とさせる。この時期に登場するフォルクスワーゲンのニューモデルとしては自然なデザインと言えよう。

ボディサイズは全長4460mm×全幅1810mm×全高1690mm。コンパクトと言うにはややためらいも感じるが、実は先達のRAV4やCR-Vよりも幅方向では小さい。もはや日本でも手頃と言うべきサイズ感で、実際に狭い市街地を走り抜けても、車幅感覚のつかみやすい良好な視界と相まって苦労はまったく感じられなかった。

ところで、今回試乗に連れ出したティグアンは、トラック&フィールドというグレード。これはオフロード走行などSUV本来のアクティブな使い方を想定したモデルで、そのためフロントバンパー下を斜めにザックリと削り上げて28度ものアプローチアングルを持つ。ちなみに搭載されるのは170psの新世代の2.0TSIエンジンだ。

ティグアンは将来的に2つのモデル展開になる予定で、2009年半ばにスポーツ&スタイルが追加登場する。これは厚みのあるバンパースポイラーを備え、エンジンも200ps仕様、装備類もより充実したオンロード寄りの上級モデルという設定になる。

そんな予備知識もあって、トラック&フィールドは大人しめの味付けなのかと思っていたらとんでもなかった。ゴルフのベースモデルであるTSIトレンドラインがとてもそうは思えないほど快活な走りを見せるのと同様、170psのティグアンもまた、予想を大きく上回る動力性能を味わわせたのだ。

その理由は2.0TSIのトルク特性にある。パサートに搭載される200ps仕様のCAW型エンジンに対し最高出力こそ抑えてはいるものの、最大トルクは280Nmで変わらず。そのゆとりのトルクを1700~4200rpmの間でフラットに出すというのがこのエンジンのキャラクター。低速域のトルクはまさに十分で、トルクコンバーター式6速ATと組み合わされることもあって出足は非常に軽快だ。

また、中速域のゆとりあるトルク感も過給エンジンならではで、特に3000~5000rpmあたりでは胸のすくような加速が楽しめる。さらに、6速ATはステップ比も適切で、この心地よい加速が長く続く。

今回は参考比較車として同じ170psを1.4TSIツインチャージャーから引き出すゴルフトゥーランのTSIハイラインも試したのだが、やはりベースとなる排気量が違うため、差は歴然としていた。ベースの排気量を2LとしているCAW型エンジンは、2.5Lから3Lエンジン並みの実力を備えているのである。

200ps仕様が登場する前にこんなことを断じてしまうのはどうかとも思うのだが、おそらくトラック&フィールドとスポーツ&スタイルの性能差はさほど大きいものにはならないと思う。170ps仕様の出力特性は燃費面で不利となる高回転域の出力をマネジメントで抑えているに過ぎないからだ。もちろん仔細に乗り較べれば伸びに若干の差はあるだろうが、現状の170psでも十分に満足のいく動力性能をティグアンは有している。

ところで、このティグアンに少し遅れて、僚友のアウディもQ5というコンパクトSUVを登場させている。トゥアレグがカイエンやQ7とプラットフォームをシェアしていたのは周知の事実で、だったらコンパクトクラスもと考えたくなるが、ティグアンとQ5はまったく別のクルマだ。

ティグアンはフロントセクションからアッパーボディまでをパサート、リアセクションはゴルフをベースに開発されたと解説されている。つまりは横置きエンジンだ。一方のQ5は縦置きエンジンで、これはアウディオリジナル。A4/A5に採用の最新プラットフォームを使っている。

アウディがDセグメント以上を縦置きとするのは、大排気量エンジンを横置きにした際にどうしても出てきてしまうパワーユニットの揺動と、それに伴うステアフィールの悪化を嫌ったためと考えられる。つまりプレミアムブランドとして走りの質にこだわった結果だ。ティグアンのように2.0TSIを上限とする場合、あまり大きな問題とはならないが、A4やQ5はV6エンジンを搭載するので切実である。

ちなみにパサートは、V6エンジンを横置きするため、やはりこの問題を完全には克服できていない。そこで後輪にも駆動力を分散させる4MOTIONとの組み合わせが主流なのだ。

ところでその4WDシステムだが、これもティグアンとQ5では方式が異なる。ティグアンの4MOTIONは前後の回転差に依存しない、電動式の専用油圧ポンプを備えた新世代のハルデックスカップリング。反応速度の速さと後輪のトルク制御を自在にできるのが自慢だが、基本的には前輪が主に駆動を受け持ち、必要に応じて後輪にトルクを回すオンデマンド式だ。

コンパクトSUVの分野でも作り込みの真面目さは健在
そんなわけで、今回オンロードを主体として走っている限りでは、4WDを意識することはまったくなかった。唯一、センターコンソールにあるオフロードボタンがその存在を主張しているだけだ。これは、押すと降坂の駆動力制御を自動的に行うヒルディセントアシストがアクティブになり、併せてトランスミッション、スロットル/デフロック/ABSの特性をオフロード走行に最適化するというものである。

一方、Q5はもちろんセンターデフを備えたクワトロシステムが採用される。興味深いのはフロントを40%、リアを60%と、駆動力の多くを後輪に振り分けていること。これは4つのタイヤのグリップ力をより効率よく使えるため、とくにオンロードのハンドリングが向上する。これもQ5ならではのこだわりと言って良いだろう。

最後にトランスミッションだが、ティグアンはティプトロニック付き6速AT、Q5は新開発の7速Sトロニックだ。トルクの増幅を行いシフトチェンジも滑らかなATはオフロードに向くアイテム。一方のSトロニックはシャープなレスポンスが身上と、この辺にも性格の違いがよく表れている。

つまり、ティグアンはフォルクスワーゲンが満を持して送り出すコンパクトSUVとしてオン/オフ両面のバランスに配慮し万能性を強調。一方のQ5はプレミアムSUVの末弟として、それもとくにオンロードにおいての質にこだわった。両車は性格が明確に異なるのだ。もっともティグアンのスポーツ&スタイルでは、やや重複する部分が大きくなる気もするのだが。

さて、ティグアンのインプレッションに戻ろう。背が高いSUVとしてはボディの動きがよく抑えられておりフットワークは非常に軽快。今回試乗したトラック&フィールドは16インチのマルチパーパスタイヤを履いており、ペースが上がるほどにそのグリップ力に不満が出るほど。もっともこれが良いヒューズになっているのも確かで、限界が近づいたときの「お知らせ」はわかりやすく安心感が高い。

その分乗り心地はやや硬めとなるが、それも路面の感触が明確に伝わる程度で荒さとはなっていない。

キャビンは使われるパーツにゴルフプラスとの共通点が多いものの、フォルクスワーゲンらしい作り込みの良さは健在。5名がゆったり過ごせる居住性を備える上に、ワンアクションでフラットにフォールドするシートなど利便性もよく考えられている。

フォルクスワーゲンのブランド力とバランスの取れた機能、そして360万円という現実的な価格を考えると、このティグアン、かなりのヒット作となりそうだ。(文:石川芳雄/写真:永元秀和)

フォルクスワーゲン ティグアン トラック&フィールド 主要諸元
●全長×全幅×全高:4460×1810×1690mm
●ホイールベース:2605mm
●車両重量:1640kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:125kW(170ps)/4300-6000rpm
●最大トルク:280Nm/1700-4200rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・63L
●10・15モード燃費:9.7km/L
●タイヤサイズ:215/65R16
●車両価格(税込):360万円(2008年当時)

[ アルバム : フォルクスワーゲン ティグアン トラック&フィールド はオリジナルサイトでご覧ください ]

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