■アルミ合金をブレンドする、アルミブレンダーの存在
2014年の新登場から3代目となるヤマハ「MT-09」は、2021年型でフルモデルチェンジとなり、その生産にはヤマハ独自の鋳造技術が採用されています。なかでも「SPINFORGED WHEEL(スピンフォージドホイール)」という、回転塑性(フローフォーミング)加工を用いて製造される軽量で強靭なアルミ合金製のホイール開発に至っては材料にもこだわり、そのアルミ合金の調合にはヤマハ独自のレシピがあるようです。
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アルミホイールの場合、およそ10種類前後の合金から成り、それらの比率をコンマ数%刻みで変えたり、加える熱も数度ずつ上下させて性能を出していく、気の遠くなるような研究がなされています。
その研究者が、社内でも「ヤマハ発動機が誇るアルミブレンダー」と称される大島かほりさん(生産技術本部 材料技術部 先行開発グループ)です。大島さんはアルミニウムのことを「ほんの少しの条件を変えただけで、性格がまったく変わってしまう。本当に繊細で、遊びの幅もない相手」と言い、入社以来、研究部門でアルミ一筋に向き合ってきたそうです。
「MT-09」のアルミホイールは、大島さんの研究成果の中でも代表作と言える存在となっています。「素地のアルミを強くすれば、製造の現場から革新を起こすことができる」という野心から、設計・製造部門と力を合わせてプロジェクトに没頭し、先人のレシピにもない専用のアルミ合金のブレンドと熱処理を生み出しました。
回転塑性加工による2輪車用ホイールは量産車初であり、「スピンフォージドホイール」は厚さ2mmという超肉薄(前モデルは3.5mm)を実現、前後合わせて約700gの軽量化に成功しています。高速で回転し続ける前後ホイールの700g差は絶大なもので、ハンドリングに差が出ることが容易に想像されます。
アルミ合金のブレンドに向き合う大島さんは、「スピンフォージドホイール」の開発について次のように振り返ります。
「会社には先人たちが積み上げてきたアルミのレシピが豊富にあって、それが当社の強みになっています。“アルミは負けられない領域”という風土の背景には、鋳造を自前でやり続けてきた自負や誇りがあるんだろうと思います。
たとえば、強さだけなら鉄に敵わない。でもアルミには軽さや腐食のしにくさ、加工の自由度、そして美しさといった長所があります。この先ものづくりが変わっていっても、アルミはいつまでも選ばれていくはず。そしてその力を発揮させるのが研究の役割だと考えています」
※ ※ ※
ヤマハ発動機では、独自のものづくりの風土、こだわりと技をかたちにする非合理なひと手間を「ヤマハの手」と呼び、鋳造技術に限らず塗装や研磨、成型など、ひとの手によるクラフトマンシップはヤマハ発動機の企業サイトでも紹介されています。惜しまれつつも生産終了となった「SR400」や「セロー」などに代表されるように、ユーザーに長く支持される製品づくりが、今後もヤマハ発動機の基盤となるのかもしれません。
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