ハイブリッドの金字塔
text:Richard Lane(リチャード・レーン)
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
この3台を一堂に並べて眺めていると、どれくらいの研究開発費が注ぎ込まれたのか考えずにはいられない。テスターのマット・プライアー曰く、新車当時は未来のクルマで、必ずしも投資の回収が保証されている、割に合うジャンルとはいえないとのことだ。
われわれとしては、どれが一番理に適ったクルマかということを明らかにしたいのだが、その答えは明白だ。理想主義的なプリウスのレガシーは、今では複数のオーナーの手を経てくたびれてしまったかもしれない。室内には得体の知れない匂いがつき、使い古されたダンパーにより乗り心地は悪化しているだろう。
それでも、プリウスは4世代累計で600万台以上、トヨタのハイブリッドを中心とした電動車全体では1700万台以上が世界中で売れた。費やしたコストの元は取れたはずだ。
対する初代インサイトは、1万7000台ほどで生産を終了。営業的な圧力に屈し、プリウスのコピーのような2代目に跡目を譲ることとなった。
XL1に至っては、技術力を示すためだけのプロジェクトで、250台のみの限定生産だった上、その20%ほどがフォルクスワーゲンの手元に残った。ディーゼル偽装問題があった後となっては、環境対策を講じているというアピールに過ぎなかったようにさえ思える。
自動車史を編纂するなら、プリウスには1章を割くことになるだろうが、インサイトとXL1はその脚注程度にしかならないだろう。
とはいえ、初代プリウスは完璧なクルマだというわけではない。今回の13万km近く走っている個体に積まれた1.5Lアトキンソンサイクルエンジンはうるさいしゃがれ声を放つ。とりわけ加速中に、効率を最大限に確保しようとしながらもCVTが速度を上げようとして、4000rpm付近をキープしているときがそうだ。
大きなステアリングホイールを操作してからのレスポンスもきわめて遅く、乗り心地もよくはない。
シートは、インサイトよりは着座位置が高く、XL1よりは明らかにフワフワしている。しかし、厚いパッドをベロアで包んだそれはこの上なく快適だ。ゲームボーイを思い出すようなディスプレイは楽しげで、車内からの見晴らしはよく、すべてが気楽な雰囲気に満ちている。
プリウスのプロジェクト立ち上げ時、トヨタは日本の高齢化を強く意識しており、そのことが走りに表れている。ゆったり走るときのさまは、もはや芸術の域だ。
当時のトヨタでこの先進的なクルマを手がけたエンジニアたちは、生産開始ギリギリまでかけて複雑な駆動系の問題を解決したという。それを考えると、この作動のなめらかさはまさにアメージング。ギアのセレクターは見た目もフィールも線路のポイント切り替えレバーのようだが、強く引けば電力で走り出し、その後は巧みにふたつのエネルギー源のバランスを取る。
モーターは空走時にエネルギー回生を行うが、最近のハイブリッドカーのようにブレーキペダルを踏んだ際に回生効果が立ち上がることはなかった。そのため、ペダルそのものの作動が損なわれることなく、フィールはファンタスティック。精確で、パフォーマンスカーのようにカッチリしている。これには驚かされた。
燃費もその代償も桁違い
ただし、プリウスはスポーティさに物足りなさがあるだろう。だとすれば、その点でまったく異なるのがXL1だ。
実際、本質的にスポーツカーとするのに最適なパッケージに目をつけ、フォルクスワーゲンは興味深いプロトタイプを製作している。トレッドを拡大し、115幅の低抵抗タイヤを履き替え、200psを叩き出すドゥカティ1199スーパーレッジェーラのLツインを積んだXLスポーツがそれだ。
この試作車が市販化されたらさぞかし楽しませてくれたことだろう。ただし、70psのディーゼルハイブリッドを搭載したXL1でも、走らせると深い満足感が得られる。
乗り心地は荒っぽいが、速度が上がれば減衰がなめらかに効き、ノンアシストのステアリングとフロントのダブルウィッシュボーンが相まって、すばらしいコミュニケーションをもたらしてくれる。
決して速いというほどではなく、25psのモーターアシストが効いたところでスロットルレスポンスは曖昧だが、挙動はどこかロータス・エリーゼを思わせるものがある。スイスイ走るが、ドライバーはちょっとばかりワークアウトのような体験を味わうことになる。
ただし、111km/Lという驚異的な燃費は、かなりの犠牲の上に成り立つものだ。モノコックの剛性が高く、遮音材などは省かれ、インテリアはウッドパルプのダッシュボードなどで80kgと軽く仕上がっている代わりに、ロードノイズが激しい。ほとんど風切り音はないのだが。
2気筒ディーゼルは、ポロの1.6LアルミTDIを半分にしたもので、振動はあまり伝わってこなかったが、音に関しては船外機用の2ストロークエンジンのようだ。
ミラー代わりのカメラが捉えた映像は、コースターくらいの大きさのディスプレイに映し出される。ただし、万が一それらが故障すると、後方視界はランボルギーニ・アヴェンタドールSVJ以下だ。
ほとんど重さを感じないガルウイングドアはすばらしくドラマティックなアイテムだが、跳ね上げるとそこには美しくも幅広いカーボンのシルが現れる。多少身をかがめながらそれを跨いで、窮屈なコクピットに潜り込むのはおっくうになる。
スーツケース並みに大きい充電用インバーターを持ち歩かなくてはならないのもめんどくさい。それさえなければ、ラゲッジスペースはポルシェ911より大きい。もっとも、とりたてて使いやすいというわけではないが。
ある意味、エコカーの理想形
XL1に比べれば、インサイトのほうがずっと普通のクルマだ。おそらく、こういっては不公平だが、パイオニアスピリットの度合いは低い。まず、その寸法からしてそうだ。きれいなテーパーで、空力性能を高めているティアドロップ形状だが、それほどおおげさではない。
XL1は、その点がもっと極端だ。プライアーが乗って後方を走っていたとき、坂を越える際にインサイトのルームミラーへ前後輪の間がすべてハッキリ映り込んだのは驚きだった。
とはいえ、インサイトのパッケージングが普通のクルマのようだとしても、ドライビングポジションだけは低い。そこだけは同時期に同じ工場で造られていた、S2000やNSXに近いものがある。
走らせると、ほぼプリウスと同様にイージーゴーイングだが、打てば響くところはXL1に近い。敏感なステアリング、サスペンションから聞こえてくる音、豊かなハンドリングバランスがあり、さらにはうれしいことに3ペダルで、精度の高いMTのシフトレバーが備わっている。
スロットルレスポンスは最新のマツダ・ロードスターにさえ肩を並べ、ほかの2台の及ぶところではない。これはいいホンダ車だ。ただし、乗り心地には難ありだが。
となると、インサイトはスイートスポットな一台だといえるだろうか。物理的にはクレバーだが、近寄り難いというほど突き詰められたものではない。洗練されているが、ユーザーの95%を門前払いにするほど高価ではない。驚くほど経済的だが、その気になれば走りも楽しめるに十分なエンジニアリングのクオリティも持ち合わせている。そして、軽量だが非現実的ではない。
今見ても、各メーカーは初代インサイトを見習うべきだ。1500kgもあるコンパクトEVなど造っている場合ではない、というのが個人的な感想だ。クルマを評価する仕事を抜きにして、買う立場であっても同じことを言うだろう。
エコカーの未来は
そうはいっても、このアイデアが各メーカーに採用されることはなさそうだ。というのも、安全基準の要件は軽量シャシーと両立できず、アルミ以上に特殊な素材を使ったらXL1の領域に入ってしまう。
またクロスオーバー全盛の時代にあっては、空力に優れた2シーターボディは20年前ほど人気を得られないだろう。トヨタが証明しているように、たとえ型破りななにかを生み出しても、やはりコンサバティブなパッケージは必要なのだ。
では、今後はどうなるのか。興味深いのは、歴史は緩やかに繰り返されるということだ。かつてのフォルクスワーゲンはディーゼルに固執していたが、今はウォルフスブルグのイーロン・マスクを自認するヘルベルト・ディースCEOの指揮下で、電動化戦略に賭けている。手段は違っても、方法論は同じだ。
ホンダはまだ試行錯誤の中にあり、ときどきコンパクトEVのEのように白紙から立ち上げた斬新な商品を発表している。しかし、ミレニアムの頃から、あまり確信なくそうした革新的な方向性を探っている印象だ。
トヨタはといえば、いまだEVなどの大幅な電動化には消極的で、中心に据えているのは初代プリウスのレシピに基づくハイブリッドだ。それでいて、時流に逆らうかのように、真剣に水素エネルギーにも取り組んでいる。社会的な転換点を迎えた時点で、対応できる準備を整えているのだ。
その一端がミライだ。表面上は普通だが、その下には普通ではないテクノロジーが隠れている。未来はこうなるのかもしれない。
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みんなのコメント
特にリアハッチのガラスなんかアイデア丸パクりだし。