■強力な武器によって走りの性能を高めたクルマを振り返る
クルマが持つ性能は、どういう用途で使うかによって求められるものが異なります。たとえばスポーツカーは速く走ることであり、ミニバンは居住性、コンパクトカーならば経済性などさまざまです。
そうした性能を高めたクルマは、それだけでも個性豊かなモデルといえるでしょう。
なかでも、走りの良さを求めたクルマといっても、速く走ることだけでなく、あらゆる路面状況でも走れることや、走行フィーリングなど、重要視するポイントは多岐にわたります。
そこで、走りを突き詰めるために強力な武器を持ったクルマを、3車種ピックアップして紹介します。
●日産「プリメーラ」
1980年代に日産は、「1990年までに走りの性能で世界No.1を目指す」という開発目標を掲げました。通称「901活動」と呼ばれ、この目標を具現化したモデルが、日本市場では「R32型 スカイラインGT-R」、北米市場では「Z32型 フェアレディZ」、そして欧州市場をターゲットとしていたのが「プリメーラ」です。
1990年に誕生したプリメーラは、セダンとしての基本性能を高め、優れたハンドリングのFF車というコンセプトで開発されました。
外観は比較的シンプルなスタイルながら、欧州市場での競争力を意識したスポーティなフォルムを採用。空力性能も重視して、各部のフラッシュサーフェイス化がおこなわれていました。
ボディサイズは全長4400mm×全幅1695 mm×全高1385mmと、日本の道路環境にもマッチした大きさで、室内は前後長に余裕を持たせて良好な居住性を確保し、荷室もゴルフバッグ4つが収納できる容量とするなど、優れたパッケージングを実現。
エンジンは1.8リッターと2リッターの直列4気筒DOHC自然吸気で、トップグレードの「2.0Te」には最高出力150馬力を発揮する、パワフルな2リッターのスポーツユニット「SR20DE型」を搭載。トランスミッションは5速MTと4速ATが設定されました。
そして、プリメーラがとくにこだわっていたのが足まわりで、フロントはFF車では画期的なマルチリンク式、リアはパラレルリンクストラット式の4輪独立懸架を採用。高い直進安定性と運動性能、乗り心地の良さを高度にバランスさせており、高く評価されました。
それまでのFFセダンの概念を大きく変えた初代プリメーラは、日本と欧州でヒットを記録し、1995年に生産を終了。初代からキープコンセプトとした2代目にバトンタッチしました。
●ホンダ「バラードスポーツ CR-X」
ホンダは4輪車製造の黎明期に「Sシリーズ」という本格的な小型スポーツカーを開発しました。その後、より実用的なモデルの生産にスイッチし、1972年には初代「シビック」が誕生して大ヒットを記録。
そして1983年に、新時代のスポーツカーである「バラードスポーツ CR-X」が登場しました。
バラードスポーツCR-Xは、3代目シビックと主要なコンポーネンツを共有して開発された3ドアファストバッククーペで、外観はセミリトラクタブルライトのフロントフェイスと、洗練されたスポーツカーらしいフォルムが特徴です。
トップグレードの「1.5i」には、最高出力110馬力(グロス)の1.5リッター直列4気筒SOHCエンジンを搭載し、闇雲にパワーを追い求めるよりもわずか800kg(MT)と軽量な車体によって、優れた走行性能を発揮。
昭和のコンパクトカーというと装備が簡素で、現在のクルマと比べて軽量なのは当然でしたが、バラードスポーツ CR-Xではさらに軽量なボディを実現するために、フロントマスク、ヘッドライトフラップ、フロントフェンダー、ドアガーニッシュ、サイドシルガーニッシュなど、軽量で耐久性の高いプラスチックを採用しました。
また、軽量なボディだけでなく、ホイールベースをシビックよりも180mm短くするなど、コーナリング性能を重視した設計です。
その後、1984年に最高出力135馬力(グロス)を発揮する1.6リッターDOHCエンジンを搭載した「Si」グレードが追加されましたが、とにかく軽量化にこだわった初期の1.5iこそ、バラードスポーツ CR-Xのコンセプトを体現していたといえるでしょう。
●三菱「ジープ」
悪路走破性に特化したクルマといえばクロスカントリー4WD車(以下、クロカン車)で、現行モデルではトヨタ「ランドクルーザー」シリーズとスズキ「ジムニー」が代表的な存在です。
一方、かつては各メーカーからクロカン車が多数販売されており、なかでも伝説的な存在なのが三菱「ジープ」です。
ジープはアメリカ軍の軍用車を1953年に三菱が受注(ノックダウン生産)ことから誕生し、1956年には民生用に販売されました。
車体は強固なラダーフレームにボディを架装するクロカン車の基本となる構造で、ボディバリエーションはソフトトップのオープンタイプにメタルトップのバン、ワゴンがあり、ホイールベースはショート、ミドル、ロングを設定していました。
外観は機能優先でデザインされており、なかでも縦格子の鋼板プレス製グリルに丸目2灯ヘッドライトのフロントフェイスは、ジープのアイデンティティです。
足まわりは乗り心地よりも耐久性を重視した前後リーフスプリングのリジッドアクスルを採用し、最低地上高を高くすると同時に長いサスペンションストロークを確保して、良好な路面追従性を実現。
搭載されたエンジンは世代とボディタイプによって多岐に分かれ、直列4気筒ガソリンが2リッターから2.6リッター、直列4気筒ディーゼルが2リッターから2.7リッターと幅広いラインナップで、さまざまなニーズに対応しました。
ジープは自衛隊の小型トラックに採用されるなど、とにかく悪路走破性と耐久性を高めることが使命のモデルとして愛され、1998年に「最終生産記念車」が発売したのを最後に長い歴史に幕を下ろしました。
※ ※ ※
プリメーラは優れた足まわりによってハンドリング性能を高め、バラードスポーツ CR-Xは軽量化による運動性能の向上。そしてジープは堅牢さとシンプルな構造で、高い悪路走破性を発揮しました。
一見すると3車に共通点はありませんが、どのモデルも明確な個性を主張したモデルであり、これからも語り継がれる存在です。
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