1962年に発売された3種の英国スポーツ
戦争は社会を狂わせる。終戦から10年以上が経った1957年、当時の英国首相、ハロルド・マクミラン氏はかつてない好景気だと発言したが、一般市民が実感できたのは1960年代以降。ビートルズが歌うラブ・ミー・ドゥが、上向きの気持ちを支えてくれた。
【画像】トライアンフ・スピットファイア、ロータス・エラン、MGB 3種の英国スポーツ 全102枚
調子を取り戻しつつあった自動車メーカーは、新時代の到来を告げるモデルを次々にリリースした。好景気に沸く北米市場の、強い購買意欲を持つ若い層へアピールする必要があった。
今回ご紹介する1962年発売の3台は、10年以上に渡ってブリティッシュ・スポーツのイメージを強く牽引した。トライアンフ・スピットファイアにMGB、ロータス・エランが、英国車の1つの顔になった。
歴史的なスポーツカーの登場から、60年が経過する。その魅力をオーナーとともに確かめるのに、グッドウッド・サーキットほど最適な場所はない。スピットファイアと倍以上の価格差があったエランが並んでも、不思議なほど違和感もない。
スタンダード・トライアンフ社がスピットファイアの構想を練り始めたのは、1956年。同社の小型サルーン、ヘラルド用シャシーを利用することで、適切な改良を加えつつ開発費を抑えることが目指された。
ヘラルドの948ccエンジンを搭載した、「ザ・ボム(爆弾)」という仮称のプロトタイプは1960年に仕上がった。以前から関わりのあったジョヴァンニ・ミケロッティ氏が、量産モデルへ非常に近い、小柄でチャーミングなスタイリングを描き出した。
ヘラルドのシャシーを短縮し流用
一方でその頃、経営的に厳しい状態にあったスタンダード・トライアンフ社は、レイランド・モーターズ社によって救済される。1961年4月に完全な傘下となり、「爆弾」はデザインスタジオの隅へ一度は追いやられてしまった。
しかし、ひっそりカバーの掛けられたプロトタイプを、上層部のスタンリー・マークランド氏が発見。無事に量産化への道を歩むことになった。
スピットファイアは、実際以上にスタイリッシュだと見る向きもある。それでも、1960年の映画「甘い生活」を彷彿とさせる、陽気なロードスター的な雰囲気は当時の大きな魅力だったに違いない。
主任技術者のハリー・ウェブスター氏は、ヘラルドのシャシーを約215mm短縮。サイドメンバーを置き換え、2シーターとして適した構造へ作り変えた。小柄なシートを、フレーム中央の低い位置へ搭載できるようにした。
ボディは溶接で組み立てられ、12の固定ポイントでシャシーと結合。スプライトとは明らかに異なる、ゆったりした車内空間と実用性を実現した。
ただし、洗練性は不十分でもあった。ラック&ピニオン式のステアリングに、コイルとウィッシュボーンという構成のフロント・サスペンションも、ヘラルドから流用だった。
横向きのリーフスプリングとスイングアスクルのリアも同様。歓迎されない特徴だったのが、コーナリング中のアクセルオフでキャンバー角が大きく変化すること。長いモデルライフで、改良を受けたけれど。
ブレーキは、フロントにディスクが与えられていた。当時は自慢できる装備といえた。
MGAよりはるかに優れたMGB
エンジンは、トライアンフの1147cc 4気筒オーバーヘッド・バルブ。スタンダード・エイトとう小型サルーンのために、12年前に設計されたユニットだった。
最高出力は94ps足らず。ツインSUキャブレターで吸気音は勇ましく、車重は721kgと軽かったが、リアタイヤからスモークが立ち上ることはなかった。
ライトブルーに塗られウエストラインの絞られたスピットファイアが、同じくライトブルーのMGBと、グッドウッド・サーキットで肩を並べる。改めて、その2台の端正なスタイリングに見とれてしまう。
MGBは、スピットファイアより100mm以上長い。発売時に試乗したAUTOCARは、「先代のMGAより遥かに優れたクルマであることは、疑いようがありません」。と、称賛している。
このスタイリングを描き出したのは、デザイナーのドン・ヘイター氏。バランスが良くハンサムな容姿は、北米での成功に不可欠だった。新車時の価格は949ポンドと、スピットファイアより200ポンド高かったとはいえ、洗練性では明らかに勝る。
ボディはひと回り大きく、車重は972kgと軽量。スチールモノコック構造を採用し、剛性にも優れていた。ボディにはクラッシャブル・ゾーンが与えられ、安全性にも気が配られている。シートベルトはオプションだったが。
主任技術者のシドニー・エネバー氏は、MGAの基本構成を登用することでコストを抑えつつ、現代的なデザインと優れた操縦性を両立。ステアリングラックと、リアがリーフスプリングにリジットアクスルというサスペンション構造が引き継がれた。
技術的に確かな血筋を持つエラン
MGBのエンジンも、スピットファイアと同様に実績のあるもの。MGが属していたBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション社)のモデルが重宝していた、4気筒のBシリーズ・ユニットだ。
排気量は1798ccへ拡大され、ヘッドは簡素なオーバーヘッド・バルブ。ツインSUキャブレターを搭載し、最高出力96ps、最大トルク15.1kg-mと悪くない数字を発揮した。
当時のAUTOCARでは、先代のBシリーズからの進化を確認。簡単に160km/hのスピードへ届くと書き残している。
そしてもう1台、グッドウッド・サーキットのパドックを賑わせるのが、ブリティッシュ・グリーンに塗られたロータス。伝説のドライバー、ジム・クラーク氏が「喜びのためにロータス・エランを運転します」。と広告で言葉を残したスポーツカーだ。
スピットファイアとMGBは、少なくない妥協で開発された。しかし、エランはその対極。スタイリング的な華やかさは控えめでも、技術的な血筋は確かなものだった。
車重は688kgしかなく、ロータスの創業者、コーリン・チャップマン氏の軽量化に対する哲学を具現化していた。エリートと交代するように登場した、スチール製バックボーンシャシーとグラスファイバー製ボディで構成された、公道用モデルだ。
サスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン式、リアがチャップマンストラットと呼ばれる、ロータス独自のストラット式。ブレーキは前後ともにディスクが奢られている。
この続きは後編にて。
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