英国人ライターに愛された小さなスズキ
古くからAUTOCARをお読みいただいている英国人なら、ライターの故LJK.セトライトをご記憶かもしれない。技術的な知識で右に出る者はおらず、ブリストルを好み、多くのクルマ好きから愛された紳士だった。
【画像】英国ライターのお気に入り スズキSC100 英国で提供される今のスズキ車 全128枚
そんなセトライトは、スズキSC100のオーナーだった。短い休暇を楽しむために購入したそうだが、周囲へ大きな影響を与える発言を残しつつ、結果的に気に入って長い期間所有していた。
筆者も、彼から影響を受けた1人だった。本人から直接、SC100を購入したほど。10年落ちくらいだったが、それから7年間、筆者も楽しく運転していた。その後に手放してしまったのだが、今でも胸が苦しくなるほど後悔している。
個性的な小さなスズキは、英国ではすっかり貴重な存在になってしまった。現存する例は、極めて僅かだ。
SC100の起源は、1971年に発売された日本の軽自動車、フロンテ・クーペ。かのジョルジェット・ジウジアーロ氏が、2ドアボディのデザインを手掛けている。目を細めて遠くから見れば、ポルシェ911に見えるかもしれない。好意的な印象を持つ人には。
フロンテ・クーペの全長は2995mmと短く、ボディの後方に356ccの2ストローク3気筒エンジンを積んでいた。1977年に軽自動車の規格が変わり、全長は3190mmへ伸ばされ、エンジンは539ccへ拡大。セルボへ名前が改められている。
英国仕様は970cc 4ストローク4気筒
そのスズキ・セルボがグレートブリテン島の土地を踏んだのは1979年。SC100というモデル名が与えられ、ウィズキッドという愛称を得ていた。
英国の環境に合わせて、エンジンは970cc 4ストロークの4気筒へアップデート。最高出力は47psしかなかったが、比較的低い4500rpmで発揮した。最大トルクは8.4kg-mと充分に太く、2500rpmで達した。
4速マニュアルのギア比が離れており、活発に運転するには相当な唸りを放ったものの、車重は630kgと軽量。軽快さを味わわせてくれた。
メーカーが主張した最高速度は132km/hと、当時としても低かった。とはいえ、追い風の状態でドライバーが勇気を奮い立たせれば、それ以上速く走れることをオーナーは密かに楽しんだ。もっとも、一般的な交通環境でもそれなりの勇気は必要だったが。
タイヤの空気圧を調整し、フロントサスペンションのキャンバー角を最適化すれば、ある程度はカーブも攻められた。しかし、予期せぬ挙動に面食らう場合も珍しくなかった。特性を学ぶには、時間が必要だった。
42:58というリア寄りの重量配分で、加減速時のピッチングが大きく、ブレーキング時は特に不安定に。乗り心地も独特。小さなリアエンジン車らしい、特徴といえたけれど。
筆者はかつてロータリー交差点の入り口で、意図せず360度ターンを決めたことがある。幸い歩行者はおらず、他のクルマとの接触もなかったが、肝を冷やした体験だった。
アナログでシンプルなスズキ
SC100は、英国では1982年までスズキ・ディーラーに並び、約4700台が売れている。今でもナンバー登録され、走れる状態にあるのは僅か21台。ほかに81台が一時抹消状態にあると思われる。ただし、これ以外にも多くのマニアが日本から個人輸入している。
希少になった現在では、アナログでシンプルなスズキを愛するマニアの間で特に注目度が高い。改めて、往年のチャーミングさに触れてみるのも悪くないと思う。
新車時代のAUTOCARの評価は
高速道路を選ばなければ、市街地でも郊外でも運転は楽しい。ステアリングホイールは軽快に回せ、感触も充分。活発な操縦性自体がエンターテイメントといえる。ボディロールは抑制され、リアタイヤをスライドさせることも簡単だ。
キビキビとシャープなレスポンスが爽快。ミニと同じくらい、楽しいドライビング体験を得られる。(1980年3月8日)
オーナーの意見を聞いてみる
アラステア・クレメンツ氏
「13歳の時にウィズキッドを見て以来、ずっと欲しいと思っていました。自分の父は、まったく関心を示しませんでしたが。10年後に経済的な普段用のクルマを探していた時に見つけて、即決したんです」
「そのクルマを気に入っていましたが、婚約指輪を買うために惜しみつつ売りました。しかし、しばらくして別の1台を妻がプレゼントしてくれたんです。結婚して良かったと思った瞬間でしたね。それから18年、今でも大切にしています」
「優れたステアリングを備えた、リアエンジンのミニクーパーのようです。ヒルクライムやラリーにも出ました。ボディのサビが進行し、修復して以降は穏やかに乗るようにしています。今では4台所有していますが、このスズキなしでは生きていけません」
購入時に気をつけたいポイント
エンジン
適切にメンテナンスしていれば、4気筒エンジンは堅牢。既に40年以上前のクルマだからコンディションを優先し、これまでの整備記録をさかのぼり、不自然なノイズがないか確かめたい。タイミングベルト交換の履歴は要確認。
燃料ポンプはメンテナンスフリーではない。エグゾースト・マニフォールドなどは入手が難しい。リアシート側の小さな点検口から状態を確認できる。オーバーヒートの痕跡や、排気ガスが青白く煙っていないかも観察する。
トランスミッション
4速MTは、感触が良いわけではないものの高耐久。リンケージ部分のゴムブッシュをポリウレタン製に交換すると改善できる。クラッチは消耗しやすく、交換部品は高めだ。
ブレーキ
不具合を抱えやすく、修理にはそれなりの金額が必要。特にフロントのブレーキディスクは腐食して駄目になる。ブレーキホースの状態も要確認。
ハンドブレーキやリア・ドラムブレーキのシリンダーが固着することも。ドラムブレーキの交換部品は発見が難しい。試乗時は、ブレーキング時に真っ直ぐ進むかも確かめたい。
電気系統
新車時は信頼性に優れていたが、既に40年以上経つため、トラブルが起きても不思議ではない。ハーネスの不良などで出火する場合もあるようだ。
ボディとサビ
多くの古い実用車と同様に、SC100のアキレス腱となるのがサビ。サイドシルやフロアパン、リアピラー周りが特に錆びやすく、修理も難しい。リアフェンダーやサブフレーム・マウント周辺、ドアのエッジ部分も弱点。
リアフェンダーは、初代フォード・フィエスタのパネルを流用できる。実は形が近い。
知っておくべきこと
英国のSC100は、装備が充実したGXのみの設定だったが、他の国では安価なCXと、豪華なCX-Gも提供されていた。GXではシガーライターにリクライニング・フロントシート、独立懸架式サスペンションが備わっていた。
1980年にマイナーチェンジを受け、ダッシュボードとステアリングコラムのスイッチが変更されている。全長は3190mmしかないため、リアシートへの乗り降りは簡単ではない。長時間のドライブは、大人なら避けたいと思うはず。
後ろ寄りの重量配分を改善するべく、SC100ではフロントにバラストが追加されている。それでも、リアが重く気まぐれな挙動は抑えきれていない。フロントストラット・マウント部分へシムを挟むと、多少は改善できる。
英国ではいくら払うべき?
1000ポンド(約16万円)~3999ポンド(約63万円)
この価格帯の上限付近なら、状態の悪くないSC100を英国では探せるが、細部までしっかり確認したい。整備記録がある程度確かめられれば、購入を考えてもいいだろう。
4000ポンド(約64万円)以上
適度にレストアが施されたSC100を、英国では購入できる価格帯。そのまま普段の足として活躍してくれるはず。日本から並行輸入されたセルボも含まれる。
英国で掘り出し物を発見
スズキSC100 GX 登録:1981年 走行距離:7万5600km 価格:3500ポンド(約56万円)
数年間放置されていたクルマで、簡単なレストアと整備が必要。塗装の状態は褒めにくく、ブレーキもオーバーホールが必要そうだが、走れる状態にはある。シャシーのサビも酷くはないようだ。
ウインドウトリムは、サビの修復目的で数年前に取り外されている。部品は残っているとのこと。ボンネットとフェンダー、フロントグリル、エンジン関係など、多くのスペアパーツも付属するという。
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