どんなクルマ?
text:Shigeo Kawashima(川島茂夫)
【画像】トヨタ・ヤリス ガソリン/HV【細部まで撮影】 全99枚
photo:Masanobu Ikenohira(池之平昌信)
安全性やストレスフリーの運転感覚はすべてのクルマに必要だが、残念ながら一昔前は車格に比例するような部分があった。
今ではなくなったとは言い切れないが、安全&運転支援機能の進化は下克上をもたらす結果となった。
古い設計の上級クラスより最新設計の小さなクルマが充実した安全&運転支援機能を備えるのは「よくある話」。ここで試乗したヤリスはそんな下克上カーを代表する一車である。
1L車には設定されないが、1.5L車とハイブリッド車は全モデルにACCと走行ライン制御型LKA(レーンキーピングアシスト)を標準装着。ACCは30km/h以上の対応になってしまうが、LKAはレーダーによる前走車追従ライン制御を併用する高機能型。
ACCとLKAは高速長距離走行の運転ストレス軽減効果が高く、上級クラスが得意とする長距離適性向上の要点の1つだ。
リアはトーションビーム
プラットフォームは新設されたGA-B。TNGAプラットフォームでは最小クラスとなり、カローラ(GA-C)以上では全仕様のリアサスにダブルウイッシュボーンを採用するが、ヤリスはFFにトーションビーム、4WDにダブルウイッシュボーンを用いる。
軽量化とコスト管理を考えれば当然だが、操安性などの狙い所は共通している。
ただし、ファミリー&レジャー用途向けのユーティリティには消極的である。
内装 前席・後席は?
後席や荷室周りを絞り込んだスタイルは、4名乗車時の実用性よりもスポーティ&カジュアルなイメージを優先した結果。
軽乗用や1Lクラスのハイト系を見慣れた目には非実用的に見えるが、同クラス世界基準に準拠したと考えれば理解できる。ここは車格を強く意識させられた。
圧迫感のある後席に対して、前席周りは「おもてなし」が利いている。
圧迫感を減らした小径ステアリングとインパネ。中央には存在感を示すDA(ディスプレイ・オーディオ)。しかも、全車標準装着で、ディスプレイのサイズはX系に7インチ、G系以上は8インチを採用。
パッドPCを思わせるデザインや通信の拡張機能など、DAはネット時代のクルマの象徴でもある。
前席シートも見所の1つ。ヘッドレスト一体型の標準仕様、イージーリターン仕様、ターンチルト仕様を用意。標準仕様以外は乗降性向上が狙いだ。
高齢ドライバーにもオススメな訳
イージーリターン仕様は運転席へ設定され、手動型ながらスライド位置のメモリー機能を備えるのが特徴。ターンチルト仕様はシート全体を車外方向に回転させると共に前傾させ、運転席と助手席に設定されている。
とくに高齢ドライバーはイージーリターン機能に注目したい。
以前、後期高齢者と同じように脚捌きを制限する拘束具を装備して運転したことがある。
アップライトかつ適切なドラポジ設定では運転の支障は皆無だったものの、乗降時の脚捌きが厳しく、乗降と按配をつけたドラポジにするとペダル操作が怪しくなる。
つまりワンタッチでシート退避とドラポジへの復帰は利便性だけでなく、安全面でも有用なわけだ。個人的には運転席イージーリターン/助手席ターンチルトの組み合わせが好ましく思われたが、残念ながらその組み合わせは設定されない。
これらのことからプレ&ポストファミリーを意識しているのが容易に理解できる。
プレファミリーには、クルマのある生活の楽しさと可能性をもたらすエントリーカーに。ポストファミリーには、2人の日常とレジャーに最適化を図るダウンサイジングに向けたモデルなのだ。
乗り心地は?
乗り味は、ちょっと硬めのスポーティ&カジュアル。
リアサス形式の違いもあって4WD車のほうが段差などの付き上げが目立ち、パワートレイン別に重くなるほど浮つくような揺れが減少するなどの違いが見られたが、フットワークに関してはざっくり9割方は共通。
ハイブリッドの4WD車が最も良質とはいえ、乗り味向上のために支払うには価格差が大きすぎる。
操縦特性は軽快感よりも安定を重視している。
低中速域では軽量小型車ならではの軽快感、気軽と表現したくなるような操縦感覚を示すが、高速あるいはコーナリングで横Gが高まるほどに反応が抑えられていく。
切れ味を求めるなら鈍く感じられるかもしれないが、入ったコーナーが予想よりきつい半径で追い舵を入れたり、ブレーキを踏むにも安心の操縦特性である。
シャシー性能はグレードによる差が少ないが、パワートレインは適応用途に影響が大きい。
1L、1.5L、1.5Lハイブリッド
3タイプのエンジンが設定されるが、1.5Lとハイブリッドはヤリスが皮切りとなる新型。
1Lだけは従来の改良型を採用する。パワースペックを見ても1L車はタウンユース向けの印象だが、試乗した印象も同様である。
エンジン回転を抑えたり、車速変化と一致感を維持しながら変速線勾配を緩くするなどCVTの制御は今風だ。しかし、走行速度が高くなれば小排気量のトルクの細さは誤魔化しが利かず、回して加速力を稼ぐしかない。
タウンカーとして経済性に優れるが、乗り心地も含めて廉価仕様の感は否めない。
1.5L車とハイブリッドに採用されるM15A型は、大量クールドEGRや強タンブル流などにより熱効率を向上させたダイナミックフォースエンジン(DFE)第4弾として開発。
RAV4にも搭載されている4気筒のM20A型から1気筒減らして3気筒化したもので、ヘッド周りの構造やボア×ストロークは共通。
ただし、高回転の使用頻度が高くなりやすい小排気量車の特性に合わせて高回転側へトルクバンドを拡大し、高速域での燃費と動力性能の向上が図られている。
燃費に驚く 30km/L超え
ハイブリッド車用ユニットは専用設計となり、エンジン稼働時の回転数は高めに制御されるが、回転数と速度上昇の一致感も配慮され、高速まで安定したドライブフィールを示す。
ただし、発電時の効率を重視した制御もあって、従来のTHS II系と制御特性に大きな違いは感じられない。
しかし、燃費は驚異的だ。
WLTC総合モードで36.0km/L(ハイブリッドX)達成。車載燃費計の簡易計測ながら、穏やかな運転なら実用走行でも30km/Lを超えてくるほど。
省燃費のスウィートスポットも広く、リアルワールドの「燃費王」とでも呼びたくなるほどだ。
一方、1.5L車はDFEの底力を実感する。
アクセルの踏み込みとエンジン回転数を抑えるのは省燃費時代のパワートレインのセオリーだが、ヤリスは見本のような走りを示す。
1.5Lガソリン “自然な走り”
浅いアクセル開度でも踏み増した瞬間にトルクを立ち上げ、ごく初期の反応のよさと踏み込み量に適切な加速度が、過剰なアクセルの踏み込みを抑制する。
また、踏み込み直後のダウンシフト制御も巧み。巡航ギア維持力は上級クラスのDFE車ほどではないが、ダウンシフトする時は早いタイミングで少し回転を上げる。
緩加速での使用回転レンジは2000rpm以上。巡航回転数から300~500rpmくらい上昇するが、この領域のカバーレンジが広く、滑らか運転なら大体を3000rpm以下で済ませる。
全開加速でも5000rpm以上を長々と使うことはなく、高速走行もスモール2BOX車としては常用回転域が低い。しかも、無理に回転を抑えているような感も皆無。
車格を超えた余力感と自然体で燃費に優しい運転ができるドライバビリティを備えていた。
「買い」か?
4名乗車の機会が多いユーザーには不向き、というか一部を除けばスモール2BOXカーというカテゴリーそのものが4名乗車での実用性に消極的。
ヤリスも例外ではない。同車の本領は高速長距離走行で発揮され、その用途では1.5L車かハイブリッド車が望ましい。必須とは言わないまでも、1L車では高速もちょっと安心なタウンカーの域を出ない。
しかも生活密着型タウンカーは肌身感覚の使い勝手や嗜好的な要素も大きく、ヤリスはそこで存在を際立たせられるような決め手を備えていない。乗降性向上型シートには光るものもあるが上級グレード限定であり、コスパで見るタウンカーとしての実力は凡庸でもある。
ヤリスを選ぶならタウンユース以上の用途は必須。具体的にはタウン&ツーリングのどちらも欠かせないユーザーが使ってこそ活きる。
ただし、前記したとおり、動力性能や運転支援装備の面から長距離用途を前提にすると1.5L車以上を狙わないと旨味がない。
1.5L車(CVT)は159.8万円、ハイブリッド車は199.8万円がスターティングプライス。グレードはベーシックのXだが、トップクラスの操安/動力性能/燃費/運転支援を揃えてこの価格である。
最上級のZ(試乗モデル)は、Xより30万円前後高いが内外装のグレードアップに加えてフルLEDヘッドランプやイージーリターンシートなどを標準採用。価格相応の充実した装備設定だ。
スモール2BOX車として性能も装備内容も贅沢で、その分だけ同カテゴリーでは高価でもあるが、長距離ツアラーとして選ぶならコスパは相当高い。
1.5Lガソリン 試乗車スペック
トヨタ・ヤリスZ(FF/ガソリン)
価格:192万6000円
全長:3940mm
全幅:1695mm
全高:1500mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費:21.6km/L(WLTCモード)
CO2排出量:107g/km
車両重量:1020kg
パワートレイン:直列3気筒1490cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:120ps/6600rpm
最大トルク:14.8kg-m/4800-5200rpm
ギアボックス:CVT
乗車定員:5名
ハイブリッド 試乗車スペック
トヨタ・ヤリス・ハイブリッドZ(FF)
価格:229万5000円
全長:3940mm
全幅:1695mm
全高:1500mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費:35.4km/L(WLTCモード)
CO2排出量:66g/km
車両重量:1090kg
ドライブトレイン:直列3気筒1490cc+モーター
使用燃料:ガソリン
最高出力(エンジン):91ps/5500rpm
最大トルク(エンジン):12.2kg-m/3800-4800rpm
最高出力(モーター):80ps
最大トルク(モーター):14.4kg-m/
ギアボックス:電気式無段変速
乗車定員:5名
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