■漫画「頭文字D」は脇役にも印象深いクルマが多数登場
自動車漫画の金字塔である「頭文字D」には数々のクルマが登場しますが、主人公の藤原拓海の駆るハチロクこと「AE86型」トヨタ「スプリンタートレノ」をはじめ、主役級の扱いであった高橋兄のマツダ「サバンナRX-7」、高橋弟のマツダ(アンフィニ)「RX-7」など、いまも人気のクルマが数多く登場します。
実車はいまでも走り好きに絶大な人気! 「頭文字D」登場の名車5選
そこで「頭文字D」で描かれたクルマのなかから、とくに印象に残るクルマ5台を紹介します。今回は第2弾ということで、あのレアキャラが乗っていたクルマも登場します。
●日産S13型「シルビア」(池谷浩一郎)
頭文字Dといえば、忘れてはならないのが池谷先輩こと池谷浩一郎です。物語の重要な転機において絡むことが多いものの、その人物描写に対してやや影が薄いのが愛車の日産S13型「シルビア」です。
ボディカラーは上半分がライムグリーン、下半分がグレーのツートンカラーで、グレードは「K’s」であることが判明しています。
モディファイのポイントはSSR製の4本スポークホイール、日産純正のエアロパーツを装着。ボンネットには自身がリーダーを務めるチーム「秋名スピードスターズ」のステッカーを貼っています。
S13型シルビアは1988年に発売され、グレード構成は「J’s」「Q’s」「K’s」があり、「K’s」のエンジンは1.8リッター4気筒ターボで最高出力175馬力を発揮します。
発売当時はクルマでデートすることが一般的な時代でしたので、S13型シルビアは「デートカー」とも呼ばれていました。後に走り屋に注目されるようになった背景には、手頃な価格で購入できるFR車が少なくなったことが推測されます。
バブルが弾け、それまで大量に出回っていたシルビアが中古市場になだれ込み、相場が下がったことも理由のひとつでしょう。
しかし、その後多くのメーカーがスポーツクーペから撤退すると、シルビアのような「安価・軽量・FR」というクルマが中古市場で再注目されることになり、いまでは価格も高騰して100万円以上の値をつける個体も珍しくありません。
●「シルエイティ」(180SX/佐藤真子&沙雪)
碓氷峠最速の2人組と言われた佐藤真子&沙雪のコンビは、佐藤真子はドライビングに徹し、沙雪がナビゲーター役を務めるという、ラリーカーのような分担で活躍しました。
彼女たちが乗っていた「シルエイティ」とは、日産「シルビア」と「180SX」を合体させた通称名ですが、その名の通りにS13型シルビアのフロントフェイスを移植した180SXを指します。
これが可能となったのは、シルビアと180SXは共通のシャシだったため、同一の車体構造となっていたからです。
逆に180SXのフロントフェイスをシルビアに移植した、通称“ワンビア”も存在しますが、こちらはいまひとつ人気がありません。
なぜシルエイティがメジャーになったのかというと、走り屋が破損させる可能性の高いフロント部を安く修理するために、台数が多く中古も豊富なシルビアのパーツを流用したのが起源という説。180SXのリトラクタブルヘッドライトの開閉用モーターが重いので、取り外すことで軽量化し、運動性能を向上させたかったなどの説があります。
作品に登場する佐藤真子&沙雪のシルエイティは「インパクトブルー」という明るい青のボディカラーで、大型のリアスポイラーを装着し、ホイールはBBS製のメッシュへと交換しています。
●三菱「ランサーエボリューションIII GSR」 (須藤京一)
頭文字Dでは、様々な峠を拠点として活動する走り屋チームが登場しますが、日光いろは坂をホームとする「エンペラー」でリーダーを務めるのが須藤京一です。
須藤京一はハイパワーエンジン+4WDが勝利に不可欠だという信念を持っており、そのためエンペラーは「ランエボ」こと三菱「ランサーエボリューション」のみで構成されるという硬派なチームです。
須藤京一の駆る「ランサーエボリューションIII GSR」は1995年発売のクルマで、須藤京一の個体には、「ミスファイアリングシステム」が搭載されていることが特徴です。
このシステムはレース用で、ターボエンジンで一度アクセルを緩めた後、再度アクセルを踏んで加速しようとしてもパワーが出るまで時間がかかる「ターボラグ」を防ぐためのもので「アンチラグ」とも呼ばれます。
公道を普通に走るぶんには不要なもので、排気騒音が大きく、かつ燃費を悪化させてしまいます。市販モデルのランサーエボリューションIII GSRに標準装備されていますが、普段はシステムが作動しないようにされており、競技中のみ使用可能な設定となっています。
作中で須藤京一はミスファイアリングシステムを使えるようにして、バトル中に「パンパン」と音を立てる描写があります。
本来は一般には知られていなかったミスファイアリングシステムですが、頭文字Dではじめてこの存在を知った、という人も多いかもしれません。
■あのレアキャラが乗っていたS15型「シルビア」
●トヨタSW20型「MR2」(小柏カイ)
今回、紹介する5台の中では唯一のミッドシップレイアウトなのがトヨタSW20型「MR2」です。MR2の二代目となり、初期は225馬力でしたが、マイナーチェンジで245馬力にアップしたハイパワーなターボエンジン搭載モデルをラインアップしていました。
ルーフ構造には固定式の「ノーマルルーフ」と、中央だけバーが残る取り外し式の「Tバールーフ」の両方が用意され、後者は取り外し式のグラストップとなっています。当然ながらノーマルルーフのほうがボディ剛性は勝り、もちろん小柏カイが乗るMR2もノーマルルーフとなっています。
SW20型MR2は1989年から1999年、つまり10年にわたって生産された長寿モデルですが、その間に4回のマイナーチェンジを受け、いわゆる「V型」にまで進化しています。
作中に登場するMR2はパワーが上がったIII型、グレードはG-Limited、ボディカラーは「ストロングブルーメタリック」です。
このMR2を運転する小柏カイは幼少期よりレーシングカートで走り込んでいたという設定で、カートでは必須である「左足ブレーキ」を駆使することで主人公の藤原拓海を苦しめます。
さらには「インベタのさらにイン」という、下りのヘアピンカーブ内側をジャンプしてショートカットし、拓海を抜くという離れ業を見せますが、実際に行なったら着地の衝撃でクルマを壊すか、バウンドしてあらぬ方向へと飛んでいってしまう可能性もあります。
●日産S15型「シルビア」(東京から来た2人)
作中では名前が登場することはない「東京から来た」とだけ称する日産S15型「シルビア」に乗った二人組がいます。
たった一回の登場ながらも、その様子が頭文字Dファンに語り継がれる存在であり、彼らには「地方を小馬鹿にした」「自分のクルマとテクニックに必要以上のプライドを持つ」「スペックでクルマを語る」「理論が先行する」傾向があるようです。
乗っていたのはシルビアspec.Rで、最高出力250馬力を誇る名機「SR20DET型」エンジンを搭載。2世代前のS13型シルビアに乗る池谷浩一郎とのバトルに勝利しますが、性能差を考えると「勝って当然」といえます。
直後にはバカにしていた武内 樹の愛車「AE85型カローラレビン」(拓海のドライブ)に抜かれ、挙げ句は土手に乗り上げ自滅してしまうという自業自得な最後を迎えています。
いかに優れたスペックのクルマに乗っても、そしてクルマを走らせるのは「人」であり、スペックだけが速さを決する要素ではないということを反面教師的に教えてくれる二人です。
なお、このS15型シルビアは、それまでのS14型シルビアでは不評だった3ナンバーサイズのボディを5ナンバーサイズに戻したことが大きなトピックスでした。
また、販売期間も3年と短かったためか中古市場での人気もS13型シルビアに続く高さで、spec.Rだと程度の良い個体で200万円を超える価格をつけることも珍しくないようです。
※ ※ ※
頭文字Dは登場人物の人間模様のほかに、「運転技術」「クルマのメカニズム」に関しても見どころが多く、この漫画を通じてクルマに関する知識を高めたという人もいると思います。
そのリアルな描写は、クルマ好きはもちろん、そうでない人も楽しめる作品といえるのではないでしょうか。
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