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6.3L V8エンジンのGTサルーン メルセデス・ベンツ300 SEL 6.3 ジェンセンFF 前編

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6.3L V8エンジンのGTサルーン メルセデス・ベンツ300 SEL 6.3 ジェンセンFF 前編

巨大なV型8気筒エンジンを積んだ2台

漆黒の艶を放つ、フォーマルでエレガントなドイツ製4ドアサルーン。リアに記された6.3という数字を見なければ、大きなV型8気筒エンジンを載せた獰猛な乗り物だとは、想像できないかもしれない。

【画像】6.3L V8エンジン メルセデス300 SEL 6.3とジェンセンFF 同時期の名車 ミウラと2002も 全72枚

その隣で金色に輝くのは、スタイリッシュなグランドツアラー。アメリカンなエンジンとイタリアンなデザインを組み合わせ、ブリティッシュ・クーペとして完成されている。

フロントフェンダーの後ろに開けられたエアアウトレットが、世界初となる四輪駆動の高性能オンロードモデルだったという事実を控えめに主張する。ルーフは錆びにくいステンレス製だ。

今回ご紹介するのは、メルセデス・ベンツ300 SEL 6.3とジェンセンFF。比較しにくい2台に思えるが、スポーツカーに乗るほど若くはないものの、裕福で運転好きな人へ訴求できる能力という点では共通していたと思う。

そして何より、巨大なV型8気筒エンジンが載っている。排気量は6.3Lもある。

英国での販売価格は、300 SEL 6.3が7273ポンドでFFが6857ポンドと、そこまで大きな開きもなかった。当時はロールス・ロイス・シルバーシャドー級に高く、4シーター以上の高性能モデルとしては最高額の1台だった。

自動車移動のストレスを和らげ、裕福な身分にあるというプライドを不足なく満たしてくれる、実用的なクルマといえた。イタリアのエキゾチック・ブランドのように、ファッショナブルではなかったとしても。

リアシートの空間は同じくらいゆとりがある

この比較では、リアシートの広さとドアの枚数は無視することにしよう。オーナーが日常的に運転する限り、後ろに誰かが乗るという機会は少なかったはず。どちらも走りを楽しむための、ドライバーズカーとして提供されていた。

FFのリアシート側の空間は、実際に座ると300 SEL 6.3と同じくらいゆとりがある。座り心地もいい。当時のジェンセンは、このFFを親密なサルーンと呼んでいた。駐車場に並んでも、メルセデス・ベンツに負けない風格を持ち合わせてもいる。

今回の2台は、どちらもオートマティック。車重は300 SEL 6.3が1724kgで、FFが1820kgある。最高速度は210km/h以上が出た。リアアクスルのファイナルレシオは同じだ。

1969年の平均的なファミリーカーが100km/hまで加速する時間で、この2台は160km/hまで加速できた。ハイオクタンのガソリンを沢山燃やして。実際の燃費は300 SEL 6.3で5.5km/L前後。FFなら、3.5km/Lも走れば良い方だろう。

今から60年前に、7000ポンドの新車を買う余裕のある人が、ガソリン代を気にすることはなかった。CO2の排出量も。とはいえ、満タンで320kmも走れないFFの航続距離には、不満を感じていたかもしれない。

大きなボディはスチール製。2台の共通点としては、この程度かもしれない。

アメリカとイタリアの個性が英国で融合

300 SEL 6.3には先進的なエアサスペンションが搭載され、機械式インジェクションで燃料を供給。量産技術が導入され、モノコック構造を採用している。事故時に衝撃を吸収するクラッシャブルゾーンが設けられ、安全性も高かった。

一方のFFはイタリアのカロッツエリア、ヴィニャーレ社によるボディパネルが、パイプで組まれたシャシーへ溶接されている。英国の職人によって、1つ1つ手作業でアメリカとイタリアの個性が融合されている。

直線が速いだけではなく、安全で豪華なグランドツアラーを作りたいという、アラン・ジェンセン氏とリチャード・ジェンセン氏という兄弟の想いがカタチになっている。ディスクブレーキを他社に先駆けて採用し、シートベルトが標準装備されていた。

もともと、メルセデス・ベンツ300 SELは速いクルマではなかった。同社の技術者が、老人向けのモデルを生産しているという評判を耳にし、それを払拭するために6.3が追加されたという。

リムジンの600に搭載されていたV型8気筒エンジンが、W109型の300にも積まれることになった。技術者のエーリッヒ・ワックスバーガー氏が導き出したシュツットガルトのマッスルカーは、小さなきっかけから生まれた。

1968年から1972年までの間に、メルセデス・ベンツは300 SEL 6.3を6526台製造している。特に北米での人気が高く、1965年に発表されたW108型とW109型はモデルライフの後半に入っていたが、経営陣を驚かせるほど売れた。

ジョージ・ハリスンやミック・ジャガーも所有

当時の自動車雑誌、ロード&トラックは1968年11月に試乗テストを実施。300 SEL 6.3を「世界で最も偉大なサルーン」だと讃えている。

英国では、ザ・ビートルズのジョージ・ハリスン氏やローリング・ストーンズのミック・ジャガー氏といった大スターが、オーナーに名を連ねた。多くのF1ドライバーも。

かたや、FFは1967年から1971年という短期間に320台が生産された。アウディがクワトロで四輪駆動の可能性を証明する、13年も前に登場した異端児といえた。

ジェンセンがFFに頻発する初期トラブルを解決でき、1500ポンド手頃だった後輪駆動版のインターセプターと同じペースで量産できていれば、ブランドは生き残れたかもしれない。だが、それは叶わず1976年に廃業している。

欧州本土や北米大陸へ輸出するには、左ハンドル仕様が必須だった。だが、前後で37:63のトルク分配率を持つセンターデフとトランスファーを積む構造上、シャシーには大きく手を加える必要があった。

1971年には、アメリカの衝突試験テストが少量生産モデルにも求められるようになり、ジェンセンの運命は決定づけられた。「世界で最も安全なクルマ」だと同社が主張したFFは、皮肉にも安全に関わる規制を理由にアメリカ上陸が叶わなかった。

1967年に製造されたFFは、僅か25台。1969年までに初期型のMk Iは195台がラインオフした。Mk IIは110台。最終型のMk IIIは15台に留まっている。

この続きは後編にて。

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