■ファミリーカーをベースに高出力エンジンを搭載した「レビン/トレノ」は日本の小型スポーツカーの代表格
クルマ好きな人であれば、一度は耳にしたことがある「ハチロク」。このクルマの正式名称は、トヨタ「スプリンター・トレノ」で、車両型式を「AE86型」とするためこの愛称が付きました。
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この「ハチロク」は、「スプリンター・トレノ」シリーズの4代目にあたるクルマです。今回は、初代から7代目まで約28年間さまざまな形で続いたこのモデルの歴史を振り返ります。
トヨタは、1970年(昭和45年)12月に初代「セリカ」を発売することで、まだ日本では一部のスポーツカーにしか搭載されていなかったDOHCエンジンを“高性能の象徴”として世間一般に認識させることに成功しました。
2年後の1972年(昭和47年)3月には小型大衆車だった“カローラクーペ”と“スプリンタークーペ”にもDOHCエンジンを搭載したスポーツグレード「カローラ・レビン/スプリンター・トレノ」を設定(OHVエンジンもラインナップ)し、スポーツカーに対する敷居を下げました。車両型式がTE27型だったため、発売から45年以上経った今でも「ニイナナ」の愛称で親しまれています。
通常のクーペとの外観上の識別点は、より太いタイヤを収められるオーバーフェンダーが装着されている点ですが、エンジンは上級車種である「セリカ1600GT」と同じ1.6リッターDOHCヘッドを持つ「2T-G型」が搭載されています。
ハイオクガソリン仕様の場合には最高出力115ps/6,400rpm、レギュラーガソリン仕様では110ps/6,000rpmと高い性能を発揮するエンジンを搭載した同モデルは、約860kgの軽量なボディと相まって、スポーツドライブ愛好家たちからは「スカイラインやセリカより速い」といわれ人気となりました。
1974年(昭和49年)4月にカローラとスプリンターがモデルチェンジされたことで、レビン/トレノも2代目にフルモデルチェンジ。カローラに2ドアハードトップボディが与えられたことで、カローラ/レビンの型式はTE37型、スプリンター・トレノはクーペボディーのTE47型となりましたが、搭載される2T-G型エンジンが昭和50年排出ガス規制をクリアできずに製造が打ち切られてしまいます。
また、スプリンター・トレノは後継となるTE61型が同じボディを有しているのに対して、TE51型カローラ・レビンはトレノと共通のクーペボディーに統一。そのため2ドアハードトップボディのTE37型レビンは稀少な存在で、『最後のツインキャブ2T-G搭載車』ということもあり、マニアの間では高値で取引されています。
■51年排出ガス規制をクリアした「2T-G」エンジンが待望の復活
1977年(昭和52年)1月、カローラとスプリンターのマイナーチェンジに併せ、2T-Gエンジンの復活を望む声に応えるべく、EFI(電子制御燃料噴射)と酸化触媒を用いて昭和51年排出ガス規制に適合させた「2T-GEU型」エンジンを搭載して、再びレビン/トレノの販売が開始されました。
カローラ・レビンはスプリンター・トレノと共通のクーペボディーとなり、両車ともに最高出力110psを発揮。大型バンパーの装備などもあり950kgまで車重が増えてしまいましたが、1.6リッタークラスで当時唯一のDOHCエンジン搭載車だったためにスポーツドライブ愛好者から高い評価を得ています。
1978年4月のマイナーチェンジでは、EFIと三元触媒の組み合わせで2T-GEU型エンジンを昭和53年排出ガス規制にクリアさせ、レビンはTE55型、トレノはTE65型へと発展。外観上ではフロントグリルの形状が若干変わっている程度ですが、最高出力は115ps/6,000rpmまで高められています。
そして1979年3月、カローラとスプリンターのモデルチェンジに併せて、レビン/トレノも3代目が登場。型式は両車共通のTE71型となり、TE55/TE65型と同じ2T-GEU型エンジンが搭載されました。
3ドアハッチバックのみのスプリンターとは異なり、カローラのボディは2ドアハードトップ、3ドアハッチバック、3ドアリフトバック、4ドアセダンの4タイプがラインナップされていましたが、レビンの名を冠したのは2T-GEU型エンジンを搭載した3ドアハッチバックのみとなり、ほかの2T-GEU型搭載車は「GT」とされています。
また3代目ではリアサスペンションがリーフスプリングから4リンクコイルスプリング式に進化し、操縦性が大幅に向上。この形式は後継車であるAE86型にも継承されていたことで共通部品も多く、TE71型の改修にはAE86型のパーツを流用することが可能です。
1981年8月には、エンジンの燃焼室形状を変更し、圧縮比を高めた2T-GEU型が搭載されますが、このパワーユニットは中速トルクが太かったため、最高出力130psを発揮するレビン/トレノの後継モデル「4A-GEU型」エンジン搭載のAE86型をスタートダッシュで置いていくほどの性能を誇っていました。
■16バルブDOHCの4A-Gエンジン採用で、胸のすく高回転を味あわせてくれた「レビン/トレノ」
カローラとスプリンターのFRレイアウトシャーシに2T-G型DOHCエンジンを搭載したレビン/トレノですが、1983年(昭和58年)5月のカローラ/スプリンターのフルモデルチェンジにより、E80系のセダンと5ドアハッチバックはFFレイアウトに変更。四代目となるレビン/トレノには先代TE71型のシャーシを流用したFRレイアウトの2ドア、3ドアの2タイプが発売されました。
E70系までは2T-GEU型エンジンを搭載した3ドアハッチバックのみがレビン/トレノの名称を与えられていましたが、E80系では1.5リッターSOHCの3A-U型エンジン搭載の3ドアハッチバックモデルもレビン/トレノとなったことで、従来のようにDOHCエンジン搭載車を呼称で判別することができなくなります。
そのため、DOHCエンジン搭載車の車両型式のAE86型を「ハチロク」、SOHCエンジン搭載車のAE85型を「ハチゴー」と呼ぶようになりました。
外観面においては、レビンの2ドア車では当時のトヨタの人気車種「ソアラ」同様の固定ヘッドライト、トレノの3ドア車は「セリカXX」のようなリトラクタブルヘッドライトを採用。
最高出力130ps/6,600rpmを発揮するトヨタ初の1.6リッター16バルブDOHC「4A-GEU型」を採用したAE86は、古典的なTE71型のシャーシゆえに路面追従性は高くありませんが、限界の低さを逆手に取ればドリフト走行の練習にも適していたことから、多くのレーシングドライバーがスポーツドライビングの基本を学んだといわれています。
■伝統のFRからFF駆動へと切り替えられた5代目レビン/トレノ
1987年(昭和62年)5月、レビン/トレノはFF化されたAE92型(1.5リッターエンジン搭載車はAE91型)にモデルチェンジされ、2ドアのみの展開となります。AE86型2ドアのレビンも“ミニチュアソアラ“と呼ばれていましたが、AE92型レビンではさらにソアラに似た外観が与えられ多くのユーザーから支持を得ました。
先代と同様に、レビンは固定ヘッドライト、トレノにはリトラクタブルヘッドライトを採用した5代目モデルでは、最高出力120ps/6,600rpmの4A-GE型NAエンジン仕様の他、スーパーチャージャー付の「GT-Z」をラインナップ。最高出力は145ps/6,400rpmまで高められています。
1989年(平成元年)5月のマイナーチェンジでは、NAの4A-GE型エンジンの圧縮比を高めたことで、最高出力140ps/7,200rpmまで高出力化。同時にスーパーチャージャーモデル「GT-Z」も高圧縮化することで、最高出力165ps/6,400rpmまでパワーアップされました。
■熟成が図られた6代目モデル/歴史を閉じた最後の7代目モデル
1991年(平成3年)6月に、レビン/トレノはAE101型(1.5リッターエンジン搭載車はAE100型)にモデルチェンジされました。非連続可変バルブタイミング機構を吸気側カムシャフトに装備した1.6リッター20バルブDOHCヘッドを搭載する同モデルは、純正で4連スロットルを装備することでNAながら最高出力160ps/7,400rpmを発揮。16バルブのスーパーチャージャー付エンジン採用車も最高出力を170ps/6,400rpmまで高めました。
またスーパーチャージャーモデルのGT-Zには、サスペンションがストロークする際に発生するキャンバー角変化を抑えてグリップ力や操縦安定性を高める「スーパーストラットサスペンション」や「ビスカスLSD」が標準装備されるなど、速く走るための車として十分な装備を奢られています。
1995年(平成7年)6月、レビン/トレノはフルモデルチェンジされ7代目のAE111型(1.5リッターエンジン搭載車はAE110型)が誕生しましたが、このモデルからトヨタが伝統的に使用していたスポーツグレード名称「GT」は廃止されました。
搭載される4A-GE型エンジンは制御方式の変更やスロットル径拡大、燃焼室形状変更、高圧縮比化などの改良により最高出力は165ps/7,800rpmまで高められ、83年から続いた4A-G系エンジンの熟成が完了しました。
1997年(平成9年)のマイナーチェンジでは4A-GE型エンジン搭載車に6速MTが採用され、よりスポーツドライブに適した車になりましたが、2000年(平成12年)8月にコンパクトスポーティークーペの販売不振を理由に、1972年から続く歴史に幕を閉じることとなります。
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