最もサーキット・フォーカスな仕様
執筆:Tom Morgan-Freelander (トム・モーガン・フリーランダー)
【画像】フォード・マスタング マッハ1とマッハE ライバルのカマロとチャレンジャーも 全112枚
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
フォードの関係者へ質問すれば、内燃エンジンを載せたマスタングも当面は生き延びることができると話す。しかし、欧州全体で提供されるモデルのすべてを、2026年までに純EVかプラグイン・ハイブリッド(PHEV)へ切り替える計画も進められている。
自然吸気V8エンジンの寿命は、残り数年間に限られていると考えざるを得ない。最新のポニーカーが素晴らしい完成度にあることを知ると、いささか残念な事実だ。
今回試乗したマッハ1は、昨年北米で発売されたGT350を置き換える高性能版マスタング。スタイリング・パッケージで飾っただけのモデルではない。
ボディにも手は入っているが、サスペンションやトランスミッションなども改良。フォードが公式に欧州市場へ導入したマスタングの中で、最もサーキット・フォーカスといえる仕様へ仕立てられている。
フロントマスクは、マッハ1専用のフロントスポイラーが凛々しい。サイドスカートの下部にもスプリッターが伸び、リアディフューザーが後ろ姿を引き締める。通常のマスタング比で、22%増しのダウンフォースを生み出すという。
空力特性を最適化させるよう、フロントバンパーもデザインし直された。通常のマスタングとの見た目の差別化は充分だろう。
シャシー側では、前後のサブフレームが専用品になり、マグネライド・アダプティブダンパーはマッハ1専用に再調整。サスペンション・スプリングとアンチロールバーも、より硬いものが組まれている。
全体的なバランスの良さに驚く
パワーアップに主眼は置かれていないとはいえ、自然吸気の5.0L V8エンジンもそのままというわけではない。インテークマニホールドは新しいものに置き換わり、最高出力はマスタングGTより11ps上昇。最高出力460ps、最大トルク53.8kg-mを発揮する。
増えた熱量に対応するべく、オイルクーラーとオイルフィルターもアップグレード。トランスミッションは、シェルビー社が供給する6速マニュアルを採用する。よりシャープに変速できるよう、レブマッチング機能とショートシフターも追加された。
内容にはかなり期待が持てる。発進させると、アップグレードの狙いが効果的に活きていることは明瞭。ステアリングにもマッハ1独自の調整が加えられ、人工的な重みを感じることなく、多くの感触が手のひらに伝わってくる。
確かに車重は軽くないし、フロントヘビーなことにも変わりはない。だが、全体的なバランスの良さには驚かされた。
アルミホイールは、フロントが9.5Jから10.5Jに、リアが10Jから11Jにワイド化。タイヤの接地面積を大幅に増加させている。ドリフトの角度より、タイムの短さにチューニングの軸があり、ネット動画で見るような派手なテールスライドへは持ち込みにくい。
とはいえ、まだまだヤンチャぶりは健在。ステアリングを深く切った状態でアクセルペダルを踏み込めば、グリップの限界はすぐに超えてしまう。
一般道でのマナーの良さに感心
V8エンジンは、速度域に関わらず騒々しい。アイドリング状態でも周囲を威嚇するような迫力があり、レッドライン目掛けて回転数を高めれば、轟音を周辺に撒き散らす。
変速はレブマッチ機能で滑らか。不要なブリッピングもない。シフトノブの動きには、素晴らしく正確な感触がある。
ターボチャージャーで過給されるエンジンのような、低回転域からのトルクはない。だが加速は線形的でたくましい。アクセルペダルの操作に対し、完全に一致した勢いを生んでくれる。
V8エンジンとマスタングという組み合わせは、多くの人にとって魅力的なもののはず。マッハ1でも、それは変わらない。
さらに感心させられたのが、一般道でのマナーの良さ。チューニングの洗練度を確かめるのに、ギリギリまで攻め込む必要はない。最も快適なモードを選んでいれば、アダプティブ・サスペンションは英国の殆どの路面を上手にいなしてくれる。
高速道路との相性もバッチリ。リラックスしたクルージングに浸っていられる。
スポーティなモードへ変更すれば、郊外の路面の悪さをつぶさに感じ取ることができる。舗装したての道を積極的に走れるような状況でない限り、切り替える必要はないだろう。
活発に走らせれば、そのぶん燃費は著しく悪化する。サーキット走行を楽しんだ後にガソリンを満タンにし直したら、走行可能な距離は133kmと表示されていた。
NA V8エンジンを楽しめる最後のフォードか
インテリアは、マスタングGTと大きな違いはない。アルミニウムの内装トリムが追加され、ビリヤード・ボールのようなシフトノブが与えられる程度。メーターパネルはモニター式だが、昔ながらのアナログメーター風グラフィックを上手に融合させている。
ダッシュボードには実際に押せるハードスイッチが沢山並び、シンク3で動くインフォテインメント用タッチモニターのサイズは小ぶり。グラフィックもベーシックだ。観察してみると、硬質なプラスティックが多く用いられていることもわかる。
車内は広々としており、大人4名での移動が可能な空間がある。荷室容量も充分。だが、英国価格5万ポンド(760万円)以上のスポーツカーに期待する通りのインテリアとは、いえないかもしれない。
各所にチューニングが施されたマスタング・マッハ1。サーキットを走らなくても、一般道でその進化ぶりは体感できる。マッスルカーとしての魅力が損なわれてもいない。
フォードはPHEVと純EVの販売で、モデル平均でのCO2排出量を減らしている。それでも、自然吸気のV8エンジンを楽しめる最後のモデとなる可能性は高い。新車で購入できるNA V8のスポーツカーは、既に希少だ。
誘惑されたのなら、今のうちに入手しておくべきだろう。通常のマスタングGTより約1万1000ポンド(167万円)高いマスタング・マッハ1を購入したのなら、時々はサーキットを走らせて、マッスルカーの真価を発揮させて欲しい。
フォード・マスタング・マッハ1(英国仕様)のスペック
英国価格:5万5255ポンド(839万円)
全長:4784mm
全幅:1916mm
全高:1381mm
最高速度:267km/h
0-100km/h加速:4.8秒
燃費:8.1km/L
CO2排出量:284g/km
車両重量:1754kg
パワートレイン:V型8気筒5038cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:460ps/7250rpm
最大トルク:53.8kg-m/4900rpm
ギアボックス:6速マニュアル
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もっとアメリカンなデザインで頑張ろうよ。