現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 「これは、もはやM3か?」E92型 BMW 335iクーペとM3の、近すぎた性能【10年ひと昔の新車】

ここから本文です

「これは、もはやM3か?」E92型 BMW 335iクーペとM3の、近すぎた性能【10年ひと昔の新車】

掲載 更新 7
「これは、もはやM3か?」E92型 BMW 335iクーペとM3の、近すぎた性能【10年ひと昔の新車】

M3に匹敵するパフォーマンスを持つBMW 335iクーペに、2009年、M DCTのメカニズムに近い7速スポーツATが搭載された。これによって335iクーペはM3クーペにさらに近づいた。ではその走り味はどうなのか。Motor Magazine誌ではM3クーペと比較しながら、335iクーペはどんなクルマなのか探っている。ここではその模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年4月号より)

日常的なシーンではM3よりもトルクフルな最新の直6エンジン
335iは「もはやM3」ではないのか? このフレーズはBMW社とM社が、共に「最も耳にしたくない」もののひとつかも知れない。

●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか

元を辿ればモータースポーツの場にエントリーすることを前提に生まれたM3が、しかし現実には戦う場を失ってから久しい。そもそも、一般には「高級車」の記号と受け取られかねない8気筒エンジンを積むに至っては、そんなモデルが『M』の称号を名乗る資格があるのかと、そんな厳しい意見が聞こえるようになっても不思議はないだろう。

一方で、BMWのブランドからは、出力スペック上で『M』の存在を脅かしかねないハイパフォーマンスなエンジンが姿を現しつつある。その最たるものが、昨今は下二桁に『35』の数字を名乗る各モデルに搭載されるツインターボ付き3L直噴6気筒エンジン。何となればこの最新ユニットは、わずかに1300rpmからというまるでディーゼルエンジンのような低回転域から、実に400Nmという最大トルクを発生し続ける。

この回転力は、奇しくもM3に積まれる8気筒エンジンのそれとまったくの同数値ということになるが、例によって高回転・高出力型で、ピークトルクに達するのは3900rpmと遥かに高い。すなわちこれは、日常的なシーンではむしろBMW車に積まれる6気筒ユニットの方がM車用8気筒ユニットよりもずっとトルクフルであることを示唆してもいる。これだけでは、冒頭掲げたフレーズも「さもありなん」ということになってしまいかねないわけだ。

そんな両エンジンを搭載するモデルの中でも、3シリーズのセダンとクーペの場合には基本ボディ骨格を共有する「BMW車」と「M車」が存在するために、なおのこと「競合関係」が発生しやすそうに思えてくる。それにしても、335iは本当にM3を脅かす存在なのだろうか。

徹底したキャラクター分け、それは性能の近さも意味する
実際に335iクーペとM3クーペを目前にすると、まずはその見た目の雰囲気が大きく異なることに改めて驚かされる。

「ドア以外のパネルはすべてオリジナルデザイン」というM3のボディは、「パワードーム」と称する大きなフードバルジやマッシブなフェンダーなどで、335iクーペを確実に凌ぐダイナミックな印象を見る人にアピールする。さらに、太いタイヤや4本出しのテールパイプ、カーボンファイバー製のルーフや2本の支柱で支えられた(ように見える)ドアミラーといったディテールのデザインが「このモデルはただ者にあらず」という迫力を演じる大きな要素になっている。

それゆえに、こうしたオリジナリティ溢れるルックスに強い魅力を感じるという人が現れる一方で、「こんな繊細さに欠ける雰囲気はイヤだ」という人が生まれることも避けられないだろう。すなわち、335iクーペとM3クーペは、すでにこうしたルックスの点で「相容れない存在」なのだ。

仮に、この両者の走りのパフォーマンスがまったく同一だとしても、その顧客層は明確に分かれることになるだろう。M3の、ちょっとばかり「これみよがし」の雰囲気も漂う各部の化粧には、そんな思いも込められているのではないだろうか。一見は同じようでいて、実は明確に異なるデザインは、BMW社とM社の綿密なマーケティングの結果にも基づいているはずだ。

さて、そんな両者の最新モデルにそれぞれ設定されたDCT(デュアルクラッチトランスミッション)は、実は構造的には同一のユニットだ。サプライヤーはゲトラグ・フォード社で最大トルク容量は520Nm。9000rpm(!)までのエンジン回転数に対応するという。

が、335iとM3に搭載のそんなDCTユニットが、カタログ上ではそれぞれ「7速スポーツAT」、「M-DCT」と敢えて呼び名を変えている点に注目したい。結論から先に言えば、335iのそれは「あくまでもAT」で、一方のM3では「発展型のMT」という扱いなのだ。

そうしたキャラクターの違いを象徴しているのが両車のブレーキペダルのデザイン。335iには既存のAT車が採用してきた幅広タイプが用いられる一方、M3では幅の狭い通常のMT用をそのまま流用する。

また、生粋のスポーツモデルとしてのキャラクターが与えられるM3では、変速制御を任意に変更できる「ドライブロジック」が付加されるのに対して、335iにはそうした可変プログラムは用意されていない。

さらに、335iでは通常のAT車同様のクリープ現象が発生するのに対して、M3はそれが敢えて消されているといった違いもある。基本ユニットは共有しつつも、操作ロジックやプログラムをここまで変更するというのは、他のメーカーでは考えられないことだろう。

興味深い操作ロジックの違い
日本初上陸となった、「7速スポーツAT」を搭載する335iクーペで走り始めてみる。なるほどこのモデルの走りは、オーソドックスなトルコン式ATに対する違和感を消し去ろうと尽力したことが実感できる仕上がりだ。

前述のように、M3では静止後アクセルペダルを軽くクリックしないと発生しないクリープ現象が、こちらではブレーキペダルのリリースで発生。それによる前進(後退)力は一般的なトルコンAT車に比べるとやや弱めだが、ブレーキ力を緩めると同時にタイムラグなく発生するので、トルコン車から乗り換えの多くの人もまず違和感を覚えることはないだろう。

一方で、トルクコンバーターによるトルク増幅効果が望めないこともあってか、スタートの瞬間の力感は想像していたよりも優しいものだった。むろん、アクセルペダルを踏み込めばわずか1500rpm付近から早くもターボブーストの効いた力強いトルク感が味わえるのだが、この部分でトルコン車との差を感じる人はいるかも知れない。けっして「加速が鈍い」わけではないのだが、かすかな違和感と受け取られる可能性はあるように思う。

変速動作のスムーズさ、そして、パドル(もしくはフロアのシフトレバー)にコマンドを入力してから、実際に変速が行われるまでのタイムラグの小ささは文句ナシだ。タイムラグは、むしろM3よりも小さいようにさえ思える。M3の「M-DCT」はマニュアル操作でシフトを行った際のタイムラグが、時に気になる場面があるからだ。

ところでここでも、両者には興味深い操作ロジックの差別化がある。

ステアリングホイールに設けられたパドルによるシフト方法が、M3での「右パドルを引いてアップ/左パドルを引いてダウン」というものに対して、335iは「左右パドルは操作法が対称で、引いてアップ/押してダウン」とされていることだ。そもそも、BMW社とM社は血縁関係にありながら、時に異なる意見を押し通そうとする場面が見受けられる。

例えばランフラットタイヤやアクティブステアリングなどBMW社が最先端のアイテムと位置づけたものを、M社は「それはウチの考え方には合致をしない」と採用を拒む例が少なくない。シフトパドルのデザインに対する考え方もこれと同様ということだろう。ちなみに、M社が前述の方式に拘るのは「モータースポーツの世界ではそれが当たり前だから」という理由によっている。

BMWの、とくに6気筒エンジンが生み出すフィーリングの良さはつとに有名なポイントだが、そのテイストを余すところなく堪能できるのは「スポーツAT」の所以だろう。「それでも、ギアのセレクトはやはり自分の手で行いたい」と今でもオーソドックスなMTを熱望する人の気持ちもわからないではないものの、こうしたトランスミッションを知ってしまうと「それはもはや時代遅れなのかも」という一節を自問自答したくなってくるのもまた事実だ。

それにしても、この2台のここまで徹底したキャラクター分けへの拘りぶりには脱帽だ。その拘りとはもちろん、俊足ながらもあくまでも優雅なプレミアムモデルを演じようという335iクーペと、刺激に富んだ走りこそがその使命というM3クーペというものである。(文:河村康彦/写真:小平 寛)

BMW 335i クーペ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4590×1780×1380mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1630kg
●エンジン:直6 DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:225kW(306ps)/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●トランスミッション:7速DCT(7速スポーツAT)
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●10・15モード燃費:8.9km/L
●タイヤサイズ:前225/45R17、後255/40R17
●車両価格:713万円(2009年当時)

BMW M3 クーペ(M DCT Drivelogic) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4620×1805×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1650kg
●エンジン:V8 DOHC
●排気量:3999cc
●最高出力:309kW(420ps)/8300rpm
●最大トルク:400Nm/3900rpm
●トランスミッション:7速DCT(M DCT Drivelogic)
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●10・15モード燃費:8.0km/L
●タイヤサイズ:前245/40ZR18、後265/40ZR18
●車両価格:1063万円(2009年当時)

[ アルバム : BMW 335i クーペ とBMW M3 クーペ はオリジナルサイトでご覧ください ]

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

マツダ『ロードスター』リコール情報…障害物検知が正常に働かない
マツダ『ロードスター』リコール情報…障害物検知が正常に働かない
レスポンス
【累計生産100万台を達成】三菱 インドネシアの生産拠点 2017年4月から生産開始で約50カ国へ輸出
【累計生産100万台を達成】三菱 インドネシアの生産拠点 2017年4月から生産開始で約50カ国へ輸出
AUTOCAR JAPAN
あの“マールボロ・マクラーレン”よりはるかに長い43年のスポンサーシップに幕。IMPUL星野一義総監督「カルソニックは俺の人生そのもの」
あの“マールボロ・マクラーレン”よりはるかに長い43年のスポンサーシップに幕。IMPUL星野一義総監督「カルソニックは俺の人生そのもの」
motorsport.com 日本版
【アメリカ】トヨタの「小型SUVコンセプト」がスゴかった! 全長4.3m級ボディに“ゴツ顔”採用! “次期FJクルーザー”ともいわれた「FT-4X」とは?
【アメリカ】トヨタの「小型SUVコンセプト」がスゴかった! 全長4.3m級ボディに“ゴツ顔”採用! “次期FJクルーザー”ともいわれた「FT-4X」とは?
くるまのニュース
チェックするタイミングはいつ!? バイクのチェーンとスプロケの点検頻度は?
チェックするタイミングはいつ!? バイクのチェーンとスプロケの点検頻度は?
バイクのニュース
【スポーティグレード追加】ノート・オーラに「オーテック・スポーツ・スペック」 走りをチューン
【スポーティグレード追加】ノート・オーラに「オーテック・スポーツ・スペック」 走りをチューン
AUTOCAR JAPAN
疲労を軽減する「インテリシート」オペルが開発、新型SUV2車種に採用へ
疲労を軽減する「インテリシート」オペルが開発、新型SUV2車種に採用へ
レスポンス
ヤマハの電動アシスト自転車『PAS』、2025年モデル「11車種の特徴と違い」を比較チェック!
ヤマハの電動アシスト自転車『PAS』、2025年モデル「11車種の特徴と違い」を比較チェック!
レスポンス
トヨタ アルファード、ヴェルファイアに6人乗りPHEVを新設定
トヨタ アルファード、ヴェルファイアに6人乗りPHEVを新設定
Auto Prove
BYD、佐賀県初の正規ディーラーをオープン
BYD、佐賀県初の正規ディーラーをオープン
レスポンス
どんな由来があるのか知ってる? バイクにまつわる専門用語
どんな由来があるのか知ってる? バイクにまつわる専門用語
バイクのニュース
モデリスタやば!! 新型アルファード専用エアロが鬼カッコいい件
モデリスタやば!! 新型アルファード専用エアロが鬼カッコいい件
ベストカーWeb
車のナンバー 謎の「2784」どんな意味? 読めたら「天才」! まるでパズルのような難解「語呂合わせナンバー」に込められた思いとは
車のナンバー 謎の「2784」どんな意味? 読めたら「天才」! まるでパズルのような難解「語呂合わせナンバー」に込められた思いとは
くるまのニュース
ホンダ青山ビル、建て替えで2025年5月に業務終了 新本社は2030年完成予定
ホンダ青山ビル、建て替えで2025年5月に業務終了 新本社は2030年完成予定
日刊自動車新聞
【TAS2025】スズキ 「SUZUKI BOOST GARAGE」をテーマに参考出品を含め7台を展示
【TAS2025】スズキ 「SUZUKI BOOST GARAGE」をテーマに参考出品を含め7台を展示
Auto Prove
トヨタ『MIRAI』が動力源の水素キッチンカー、汐留クリスマスマーケットに出店へ…12月21-22日
トヨタ『MIRAI』が動力源の水素キッチンカー、汐留クリスマスマーケットに出店へ…12月21-22日
レスポンス
ついに1000万円超えた、トヨタ『アルファード』『ヴェルファイア』に初のPHEV…510万円からの入門車も
ついに1000万円超えた、トヨタ『アルファード』『ヴェルファイア』に初のPHEV…510万円からの入門車も
レスポンス
とうとう1000万円超え!! 新型アルファード/ヴェルファイアが衝撃の姿に
とうとう1000万円超え!! 新型アルファード/ヴェルファイアが衝撃の姿に
ベストカーWeb

みんなのコメント

7件
  • 当時335i 所有していました(カブリオレですが)が、良くも悪くもM3とは全然違うし、Mモデルと比較するという発想すら全く浮かばなかった。(ので、この記事には違和感しかない)
    ただ、贅沢かつ操って楽しいストレート6で、振り返れば当時が正統BMWの進化では頂点だったのかも。
  • 335iとM3はサスペンションの設定も違うでしょ。そこが知りたいのに1行も書かれていない…。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

468.0729.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

27.0930.0万円

中古車を検索
3シリーズ クーペの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

468.0729.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

27.0930.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村