BMW「5シリーズ・セダン」をもとにアルピナが仕立てた「D5S」に小川フミオが試乗した。最新の超高性能ディーゼル・セダンの魅力とは?
スポーティで快適
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アルピナのアッパーミドルクラスセダン「D5S」がすごい。6気筒ディーゼルエンジン搭載で、燃費がよく、快適、そしてもうひとつ、スポーティなのだ。さらにいえば、このクルマに似ているものはそうそうない。ほかに類のないスポーティ・セダンとして注目してほしい。
BMW「540d」をベースに、ドイツのアルピナ社がチューニングしたのがD5S。5シリーズがマイナーチェンジを受けたため、D5Sもあたらしくなり、2020年6月に日本でも発表された。それにようやく乗れたのだ。
ひとことで「たいへんすばらしい」と、言いたい出来ばえのモデルだ。独自のセッティングの足まわりにより、かなり快適な乗り心地が味わえるいっぽう、その気になれば、スポーツカーなみの駿足ぶりを見せてくれる。ディーゼル・エンジン車とは思えないダッシュ力で、いわゆる”2つの世界のベスト”を併せもった仕上がりなのだ。
搭載するエンジンは2992cc直列6気筒ディーゼルターボ。BMW「540d」や「X6 xDrive 35d」に搭載されているものと基本的にはおなじものだ。日本の場合、5シリーズのディーゼル版は、140kWの2.0リッター直列4気筒搭載の「523d xDrive」のみになるので、D5Sはパワフルなディーゼル・セダンとして存在価値がある。
ディーゼルらしからぬスムーズさ
X6とおなじ型式のエンジンなので、D5Sにも、インテグレーテッドスタータージェネレーター、つまり電気モーターでエンジンの出力軸にトルクを積み増すマイルド・ハイブリッド・システムが採用されている。かつ、BMWでは195kW(265ps)の最高出力がアルピナでは255kW(347ps)に引き上げられ、最大トルクも620Nmから730Nmへ増している。
数値だけでもかなりの高性能。SUVの「XD4」などとおなじように、アルピナは、BMWのディーゼル・エンジンをベースに、より高回転までまわるよう上手に調整。かつ、フラット・トルクによる広い回転域での、アクセル・ペダルの踏みこみに対する反応のよさを追究している。
BMW開発の「B57D30」型3.0リッター直列6気筒ユニットは、走り出しはモーターを利用してすっと発進し、そののち1750rpmから2750rpmで最大トルクが得られる設定だ。トルクが部分的に落ち込む”谷”はまったく感じさせない。最高出力は4000rpmから4200rpmで発生するだけあって、ディーゼルらしからぬスムーズさでまわるのも気持ちがいい。
中間加速も驚くほどのパワフルさだ。アクセル・ペダルを少しだけ強めに踏み込むと、4つの車輪に大きな駆動力がかかり、まさにロケットのような強い加速力が味わえる。かつ静か。かつ、すばらしく乗り心地がいい。
1358万円の価値
D5Sのメカニズム上の特徴として、ドライブモードに「コンフォートプラス」というモードを追加していることがあげられる。
自社開発の電子制御ダンパーをそなえているからこそのモードで、この設定がみごとなのだ。路面の細かい凹凸もきれいに吸収し、まさに空飛ぶじゅうたんにたとえたくなる快適さだ。
標準の「コンフォート」も悪くないし、ワインディングロードで積極的にとばしたいときは「スポーツ」とか「スポーツプラス」といったモードを試すといい。
でもサーキットでリアを流すような操縦を楽しむときいがいは、コンフォートプラスが万能だ。3シリーズベースのB3や、D3Sにもそなわる。
高速巡航でコンフォートプラスを選択してドライブしていると、疲れ知らず。2975mmのロングホイールベースを活かした室内は、広いうえに静粛性も高く、りっぱなリムジンだ。
アダプティブ・クルーズ・コントロールを作動させていると、あまりにも平穏で、これが自動車にとって、ひとつの究極のすがたなのだろうか? と、思えてくる。
アルピナでは、自社の製品に乗るユーザーを「アンダーステイテッド(ひかえめ)」と、定義する。アンダーステイトメントというのは、たしかに、目立たないことをよしとする価値観だ。
いっぽう、趣味性の高さや選択眼のたしかさが前提だ。アルピナD5Sは、まさにそんな通人のためのモデルとして、あきらかに進化している。価格は1358万円。その価値がある製品であると思う。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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