日産自動車と日立ビルシステムは、2023年1月、電気自動車のバッテリーに貯めた電気からの給電で、停電時のオフィスビルやマンションのエレベーター利用を可能にする「V2Xシステム」の普及に向けた協創を開始すると発表。日産サクラと日立標準型エレベーター「アーバンエースHF」を繋ぎ、サクラのバッテリーでエレベーターを継続運転させる実証実験を実施した。EV時代ならではの災害対策が、大きく一歩進んだといえる。
文/ベストカーWeb編集部、写真/ベストカーWeb編集部
これいいなー!! EVで天災に強い社会に!! 停電+エレベーター停止時にEVから給電する仕組みを日産と日立が開発
■EVのバッテリーを54%使ってビルのエレベーターを10時間使用可能に
震度1以上の地震が年間2000~3000回(過去12年間の平均頻度)起こっている日本、そうでなくても昨今の大寒波や台風など、「災害対策」はあらゆる分野で長年の懸念材料となっている。
そんななか、日産と日立ビルシステムが画期的な取り組みを開始した。ビルやマンションが災害などで停電した場合、電気自動車のバッテリーから給電してエレベーターや給排水ポンプ、空調や照明などを動かす仕組みを開発、実証実験を開始して、2023年中の実用化を目指すという。
東京都葛飾区亀有にある日立ビルシステムのオフィスビルで実験。6階建てのビルのエレベーターを10時間動かし続けることに成功した
今回公開された実証実験の内容と結果は以下のとおり(日産公式リリースから引用)。
【今回の実証実験】
実験目的:電気自動車の電力を利用したエレベーターの実稼働データの計測
実験環境:エレベーターの稼働電力を電気自動車からの給電に切り替え、停電時に使用する低速運転モードにて、6階建ての試験棟で10時間連続往復運転を実施(1階および6階でドア開閉、実利用を想定した重り搭載)
使用車両:軽電気自動車「日産サクラ」(バッテリー容量20kWh)
使用エレベーター:日立標準型エレベーター「アーバンエース HF」
測定項目:エレベーターの連続稼働時間および昇降回数、電気自動車のバッテリー残量
【実証実験結果】
エレベーターの連続昇降回数は263回(往復)、「日産サクラ」のバッテリー残量(100%⇒46%)となり、10時間連続にてエレベーターを稼働可能なことを実証しました。なお、同条件で「日産リーフe+」(バッテリー容量60kWh)を用いてエレベーターの10時間連続稼働を行った場合の理論値は、連続昇降回数263回(往復)、バッテリー残量(100%⇒72%)となります。
(日産公式リリースからの引用ここまで)
これまで「V2H」(ビークル・トゥ・ホーム)で、EVから自宅(一戸建て)の電気を供給する仕組みはあったが、巨大なオフィス用やマンション用の仕組みはなかったので、日産と日立でその開発をスタートし、実験してここまでうまくいきましたよ、ということ。
停電すると、エレベーターは自動的に最寄りの階に停止して扉を開けてから、停止する(法令でそういうふうに動くよう決められている)。今回の実験では、EVからの給電で、エレベーターは省電力で動き続けられるようになる
■オフィスビルだけでなく高層マンションにも
この仕組みの最大の利点は、電気自動車とオフィスビルやマンションを繋ぐことで三相200Vでの給電が可能な巨大バッテリーを大量に用意できる可能性があること。今回の実験はエレベーターだったが、マンションの給排水ポンプや照明、オフィス用空調の電源にも利用できる。
東日本大震災の時に高層マンションの上階に住んでいる住民が、給排水ポンプが止まったことで階段を何度も往復して水を汲みに行くことになった苦労を覚えている読者諸兄も多いのではないか。
この仕組みが一般化すれば、EVが都心部で増えれば増えるほど、(この仕組みが入った)EV用充電器が設置されればされるほど、停電時の備えが増えることになる。
現時点ではまだ社会実験中の段階だが、上述のとおり、日産と日立は「2023年中の実用化」を目指している。「充電器とエレベーターの内部プログラムを変更する必要があるため比較的最近設置されたものに限るが、すでに設置されている充電器とエレベーターでも(この仕組みを入れるよう)改良可能」とのこと。
2022年6月に発売した日産 サクラは、発売から約4ヶ月半で3万3,000台以上を受注した。EVが急速に広まるなかで、社会インフラがその変化スピードに追いついていない印象が強い。しかし今回の実験はその追走の強力な一歩
今回の実験は日産サクラで実施されたが、給電(放電)を許可していて、かつCHAdeMO(チャデモ)規格の充電が可能なEVであればどれでも接続可能というのも嬉しい(つまりトヨタやホンダのEVでも接続可能だが、テスラ車は放電を許可してないので現時点では接続できない)。
日本における電気事情は「特に都心部において、昼間(夕方)は使う人が多くて社会全体で逼迫するけど、夜間や早朝は使う人が少ないので余裕がある」という状況。
もしこの仕組みが広まれば、(緊急停電時だけでなく)たとえば「電力が逼迫している時間帯はEVに貯めておいた電気で生活して、あまり使わない時間帯にEVへ充電する」なんて使い方もできる。
「EVが普及する」ということは「巨大なバッテリーが街中に増える」ということで、その社会的なポテンシャルは計り知れない。
今回の実験に使用された日立ビルシステムのオフィスエレベーター(シートマットに今回の企画が描かれている)。停電時に配電盤を操作すると、低速運転でエレベーターが動く。ビルやマンションの管理人さんが操作可能だそう
2022年中の日本新車市場におけるEVの販売比率は2%に届かなかったが、中国市場では新車販売のうちEV比率は約20%、欧州市場では約10%、アメリカでも5%程度まで広がっている。
2023年初頭時点、社会全体にEVが普及してゆくか(どれぐらい普及するか)はまだまだ分からないし、普及にどれくらい時間がかかるかも分かっていないが、こうした「災害時に生活を支えるために大いに役立つ仕組み」が広がることで、社会的心理的環境的なシフトは速度を上げて進んでゆくだろう。
何よりこの仕組み、実現化したらぜひ弊社のビルと自宅のマンションに入れてほしい。
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