日本ではあまり広まっていないが、90年代後半から、欧米やオーストラリアなどでは、信号を必要としない交差点「ラウンドアバウト(環状交差点)」が急速に普及している。
日本でも、2014年9月に施行された道路交通法改正によってラウンドアバウトの法整備がなされたが、2021年3月末時点で全国126箇所と、まだまだ設置数は少ないのが現状だ。
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なぜ日本ではラウンドアバウトが普及しないのか。ラウンドアバウトのメリット・デメリットを考えつつ、検証していく。
文:エムスリープロダクション、立花義人
アイキャッチ写真:Adobe Stock_pe-foto
写真:写真AC、Adobe Stock
【画像ギャラリー】なぜ日本では普及しない!? 欧米で普及が進む、信号を必要としない交差点「ラウンドアバウト」のメリットデメリットをクイックチェック!!
ラウンドアバウトとは?
「ラウンドアバウト」は、1960年代からイギリスで、導入に向けた調査・研究が進められ、それらをもとに1993年に発行されたガイドラインに基づいて、各国で導入が進んだ新しい交通制御方式だ。
交差点の中央に円形の島があり、その周囲を時計回り(右側通行の国は反時計回り)でクルマが進む環状道路と、そこに進入するための複数の道路によって構成されている。
福岡県にあるラウンドアバウト(PHOTO:写真AC_isa_kitaQ)
右ハンドルの日本の場合、具体的な通行方法は、交差点に進入する前に道路の左側に寄りながら減速。その後、環状道路を進むクルマの通行を妨げないように、交差点に進入する。
目的のポイントまでそのまま環状道路を通行し、出口が近づいたら左ウインカーを出し、交差点を出るまでウインカーを使用しながら出口に進む。慣れてしまえば、通行方法はいたってシンプルだ。
事故リスクの低減が最大のメリット
ラウンドアバウトには信号機がないため、枝側の道路からスムーズに交差点にクルマが進入し、そのまま目的の方向に進むことができる。クルマの流れがスムーズな交差点を作ることができるのだ。
出る道が分からなくなったらもう一周すれば良いし、来た道に戻ることだってできる。「環状道路を通行しているクルマが優先」というルールに慣れれば、戸惑うこともないだろう。
「環状道路を通行しているクルマが優先」と覚えておけば、戸惑うこともないはず(PHOTO:AdobeStock_ YK-image)
ラウンドアバウト最大のメリット、それは、「事故のリスクを減らすことができる」という点だ。ある町の信号機付き交差点をラウンドアバウトにしたところ、その交差点での事故が一年で1800件から300件まで減少したという。
筆者の住むイタリアでは90年代半ばごろから急速にラウンドアバウトが普及し、都市部はもとより交通量の少ない地域でもよく見かける。これだけ急速に普及が進んだ背景には、この「事故リスクの低減」という点が大きい。
枝の道路同士は直接交差しないため、十字交差点より一箇所の衝突点に車が集中しないことや 、常にステアリングを切っていることで速度の抑制につながること、クルマが常に一方向からしか来ないため、安全確認が容易であることなどが、事故を抑制した理由だと考えられる。
その他にも信号機を設置する必要がないため、災害などの停電時にも交差点として機能すること、信号待ちがないので騒音問題や環境対策にも有効、景観を損ねない(中央島に緑地帯を設けることも可能)といったメリットもある。
最大のメリットは、事故リスクの低減。他にも、信号機が必要がないことで、災害時にも有効であり、騒音も減らせること、また、中央島があることで景観もよくなる、などメリットは多い(PHOTO:写真AC_ Koenig)
円形交差点ではスムーズな流れはつくれない
似たような仕組みに円形交差点というものがある。フランス・パリにある凱旋門の周りをぐるっと囲んでいる、あの道路のことだ。
凱旋門にある円形交差点。環状道路を回っているクルマは進入しようとするクルマのために道を譲らなければならず、スムーズな流れを作るのは難しい(PHOTO:AdobeStock_ espiegle)
ラウンドアバウトと円形交差点の違いは交通ルールで、円形交差点では左側から来るクルマが優先=交差点に進入してくるクルマが優先になる。つまり、円形交差点の場合は、環状道路を回っているクルマは進入しようとするクルマのために道を譲らなければならず、スムーズな流れを作るのは難しい。
また、「交差点に入るときは一旦停止しなければならない」というルールもあるため、枝側の道路に停止線や一時停止標識、または信号機が設けられるケースが多く、結果としてラウンドアバウトのようなメリットは得られなくなるのだ。
「広い場所」が必要なほか、日本の考え方も普及の妨げに
もちろんメリットばかりではない。歩行者にとっては、道路の横断が複雑になって長い距離を歩かなければならず、信号機がないため視覚障害者が一人で横断するのが難しくなる。そして、最大の懸念点が、ラウンドアバウトを設置するためには「広い場所が必要」という点だ。
ラウンドアバウトは中央島が必要なため、十字型の交差点よりも広い場所を必要とする。住宅街のように交差点のスペースが広く取れない場所では、簡単に改修することはできない。そしてこれが、日本で普及が進まない最大の理由だ。
ラウンドアバウトの設置には広大なスペースが必要。これが、日本で普及が進まないもっとも大きな要因だ(PHOTO:写真AC_ ぶんぶん丸)
広いスペースが必要なため、既存の交差点を改修するのは難しく、仮にスペースが取れたとしても、事故の多い交差点でない限り、費用をかけて大掛かりな改修をしよう、という動きにまでは結び付かない。
より手っ取り早くかつ費用もかからないのは、既存のロータリーをラウンドアバウトに改良するという方法だが、国土交通省の資料によると、ロータリーからラウンドアバウトへ改修された交差点に対する調査で、「改修前よりも危険になった」と感じる人は歩行者で2割、自転車で4割いたそうだ。
実際にはクルマの通過速度が落ち、安全性は向上しているはずだが、「慣れていない」ことで、ロータリーより危険であるかのように感じてしまうことが、積極導入の足を引っ張っている可能性もある。
こうした理由からか、日本のラウンドアバウトのなかには、環状道路への進入路に「一時停止」標識を置き、流れを殺しているラウンドアバウトもある(もちろん、状況によって設置が必要な場合もあるが)。
ラウンドアバウトの標識と共に、一時停止の標識が設置されているところも(PHOTO:Adobe Stock_YK-image)
ラウンドアバウトは「合流」に近い考え方で交差点へのスムーズな進入を実現するための形式なので、これではメリットがほとんどないと言ってもいいだろう。
「とにかく止めた方が安全」という日本の考え方と「クルマを止めずにゆるやかな流れを作ることで安全を確保する」という欧米の考え方の相異も、普及が進まない理由のひとつかもしれない。
◆ ◆ ◆
まだまだ日本では見慣れないラウンドアバウト。初めて走る道で急に目の前に現れたら「どんな風に通ったらいいかわからない」 「どのタイミングでウインカーを使ったらよいかわからない」と戸惑うこともあるだろうが、日本でその光景を見る日は、もう少し先になりそうだ。
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日本の都市部の交通量だと機能しない