ASTON MARTIN DB11
アストンマーティン DB11
マクラーレン 720Sで辿る、しまなみ海道ロードトリップ。720psのスーパースポーツはGTたりうるか? :後編
新生DBの世界
アストンマーティンの伝統を今に受け継ぐDBシリーズ。その最新作“DB11”の試乗が遂に実現することになった。新CEOにアンディ・パーマーを迎えた一作目となるだけに、その完成度はファンならずとも気になるところだろう。3名のジャーナリストがレポートする。(前編/後編)
「最新のスーパースポーツと互角! 意欲に溢れた本気度が伺える」
2013年に100周年を迎えたアストンマーティンが次の100年に向けて動き始めた。その第1作にあたるDB11は、新しいボディ構造と新設計のV12ツインターボエンジンを搭載した彼らの“新世紀”に相応しい意欲作である。
2003年にDB9とともに誕生したVHボディ構造は、少量生産メーカーのアストンマーティンが多品種化を実現するうえで欠くことのできない柔軟性と汎用性を備えており、ONE-77など一部モデルを除く多くのアストンマーティンがこの骨格を採用した。それはまさに、モダン・アストンマーティンの屋台骨そのものだったといえる。
しかし、いまその成り立ちを冷静に見つめ直せば、小さなアルミ・ブロックを数多く積み重ねたVHボディ構造は、柔軟性には優れていても軽量・高剛性という相反する要件を両立させるのは難しいであろうことが容易に想像できる。別の言い方をすれば、この10数年でライバルたちははるかに軽量かつ高剛性のボディを完成させていたのである。
「DB9との比較ではボディシェル単体で39kg軽く、剛性は15%向上」
こうした時代の要求に応えるべくアストンマーティンが考案したのは、アルミパネルを接着やリベットでつなぎ合わせていく手法を、さらに発展させることだった。いわば最新のアルミモノコックに近い形態だが、ボディの基本構造部分はリベットと熱硬化性エポキシ接着剤で強固に固定し、アウターパネル類は冷間でも硬化する接着剤で貼り付けて完成させる点に特徴があるという。
このボディ構造にはまだ正式な名称が与えられていないものの、DB9との比較ではボディシェル単体で39kg軽く、剛性は15%向上したとの説明を受けた。それでいてVHボディ構造と変わらない汎用性を備えており、コストも上昇していないというのだから、アストンマーティンにとってはまさに理想的なボディ構造といえるかもしれない。
パワープラントは彼らが「社内で開発した」と主張するV12 5.2リッターツインターボエンジンで、最高出力ならびに最大トルクは608psと700Nm。ドイツ・ケルンのアストンマーティン・エンジン工場で生産されるこのエンジンは、DBシリーズ史上もっともパワフルであると同時に、低負荷時には片バンクを停止させるシリンダー・ディアクティベイションやスタート&ストップ機構を搭載し、省燃費化やCO2排出量抑制にも留意されている。
「スイッチを2~3秒ほど長押しするとクワイエット・モードが起動」
そのほか、足まわりやドライブトレインをGT、スポーツ、スポーツ+の3段階で切り替えられるダイナミック・ドライブモード、ボディ後端から高速のエアフローを吹き出すことでリヤウイングと同等の効果を得るアエロブロードなる空力デバイスなども装着されているのだが、これ以上、読者諸氏をじらすのはあまりにも酷というもの。そろそろ、DB11のコクピットからそのインプレッションをお届けしたい。
例によってダッシュボード上に設けられた、4つのシフトセレクターボタンに挟まれる格好のスタート/ストップ・スイッチを押し込んでエンジンを始動する。ちょっとした裏技めいた話だが、このときスイッチを2~3秒ほど長押しするとクワイエット・モードが起動し、冷間時の始動でもエンジン回転数を最低限に抑えることで周囲の人々に迷惑をかけずに発進できるという。
プッシュボタンでDレンジを選び、DB11でいよいよ路上を走り始める。すると、大げさでもなんでもなく、本当に1m走っただけでボディ剛性が飛躍的に向上したことを実感できた。ソリッドなボディに取り付けられたサスペンションがスムーズかつ自在にストロークするとともに、段差を乗り越えたときにタイヤが発生するショックも見事に吸収することで、実に快適な乗り心地を実現しているのだ。この点は、やや頼りない印象のボディから様々な周波数の振動が混在して伝わってきたDB9とはまったくの別物。いや、私が知るアストンマーティンのどの近作とも異なる、実に洗練された印象が得られたのである。
「舗装が傷んだワインディングロードを流している時の安心感は格段に向上」
ボディが強固でサスペンションがしっかりした仕事をこなしているとなれば、走りへの期待が高まるのも当然のこと。実際、DB11は荒れた路面を強行突破してもサスペンションがしなやかにストロークし、優れたロードホールディングを発揮する。この点も、時にボディ剛性不足のためリヤのグリップが瞬間的に抜ける傾向が見られたDB9とは対照的な部分。おかげで舗装が傷んだワインディングロードを流している時の安心感は格段に向上している。
3段階で設定できるダイナミック・ドライブモードは、切り替える度にその違いがはっきりと感じられるものの、大きな枠組みでいえばいずれもGTカーとして期待される範囲内に収まっている。言い換えれば“これはサーキット以外で使い道がない”と思わせるような極端にハードな仕様はなく、どれも一般公道上で使いたくなる設定ばかり。たとえば路面の荒れ具合や車速によってハーシュネスを優先するか、ボディのフラット感を優先するかでモードを選ぶ使い方が相応しいように思う。
新開発のパワープラントは、ボトムエンドからたっぷりしたトルクを生み出す一方で、2000~3000rpmから“ジワリ”とスロットルペダルを踏み込むと、みっしりと中身が詰まったV12エンジンでしか味わえない上質なパワーの高まりを堪能できる。そのままさらに踏み続ければ“フォーッ”という吸気音とともにリニアにパワーが立ち上がり、DB11は空気を切り裂きながら鋭く加速していく。その力強さには目を見張らされるが、しかし劇的な速さのなかにどこか上品さが認められるのは、アストンマーティンという高貴な生まれゆえのことだろう。
「最新のスーパースポーツカーと肩を並べるポテンシャルを得た」
このエンジンのもうひとつの美点はターボラグがほとんど感じられないところにある。5.2リッターの過給エンジンで最高出力608psだからターボは薄くしか効かせていないのだろう。おかげでレッドゾーンが始まる7000rpm付近までストレスなく吹け上がる特性を得ていた。
前述の通りロードホールディング性が格段に向上したDB11のコーナリングフォームは安定しきっている。高速直進性にも不満はない。ただし、最近のよくできたミッドシップ・スーパースポーツカーに対して大きなアドバンテージがあるかといえば、そこまでのことはない。また、引き続きトランスアクスル方式を採用しているものの、フル加速時にはトラクション不足を感じることもある。個人的には、極限状態でなければあらわにならないトラクション不足には目をつぶっても、高速直進性はさらに磨きをかけて欲しいと願わずにはいられなかった。それこそが、フロント・エンジンの優位性を活かす最良の道ではないか?
とはいえ、DB11はアストンマーティンが次の100年に向けて生み出した1作目である。細かな部分で熟成不足が認められるのは仕方ない。それよりも最新のスーパースポーツカーと肩を並べるポテンシャルを得たことのほうが、新世紀のアストンマーティンを語るうえではるかに重要なことではないか。私にはそう思えて仕方がなかった。
(後編に続く)
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/ASTON MARTIN LAGONDA LIMITED
【SPECIFICATIONS】
アストンマーティンDB11
ボディサイズ:全長4739 全幅1940 全高1279mm
ホイールベース:2805mm
車両重量:1770kg
前後重量配分:51/49%
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5204cc 圧縮比:9.2
最高出力:447kW(608ps)/6500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1500-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前400×36 後360×32mm
タイヤサイズ(リム幅):前255/40ZR20(9J) 後295/35ZR20(11J)
最高速度:322km/h
0-100km/h:3.9秒
※GENROQ 2016年 10月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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