クラウンの歴史=革新と挑戦の歴史 「革新と挑戦」に挑んだプロジェクトメンバーの奮闘
4つのボディバリエーションをラインナップする新型クラウン。「クロスオーバー」に続いて「新しいカタチのスポーツSUV」をコンセプトとする「スポーツ」がデビューした。
【画像】トヨタ・クラウン・スポーツと最新クラウン・ラインナップの詳細を見る。 全134枚
開発リーダーを務めた本間裕二は「見て/乗って/走って、お客様に“WOW”と感じていただけるようなエモーショナルなクルマを目指しました」と語る。
今回は「上質でありながらもワクワクするような俊敏な走り」/「走って」WOWを実現すべく力を合わせた、シャシー設計エンジニアと評価ドライバーを取材した。「もっといいクルマ」をつくるために「革新と挑戦」に挑んだ同車の開発プロジェクトメンバーへのインタビューだ。
さらに開発の実務を現場で率いた本間裕二に、クラウン・スポーツの開発の中で感じたトヨタのクルマづくりの現場の変化について話を聞いた。
クラウン スポーツにふさわしい走りの味を探求して……
「クラウン・スポーツの走りの方向性が決まるまでには、かなりの試行錯誤がありました」
同車の足まわりやステアリング系、さらに後輪操舵システム「DRS」の開発を担当したMSプラットフォーム設計部の松宮真一郎は、開発がスタートした当時をそう振り返る。
松宮:「クラウンが大事にしてきたDNAでもある『快適性』を確保しながら『スポーツ』というキーワードをどう走りで表現するのか、議論を重ねながら試行錯誤を繰り返しました。だからこそ『クラウン』×『スポーツ』という新しいカタチを足回りの硬いスポーツチューニングだけで終わらせたくなかった。クラウンとしてどういう『スポーツ』に仕上げるのが、お客様に一番喜んでいただけるのか? チーフエンジニアをはじめプロジェクトチームのメンバーや凄腕技能養成部の匠たちと議論や走り込みを重ねながら、方向性を探っていったのですが、何度も壁に突き当たりました。」
松宮たちは、クラウン・クロスオーバーをベースにホイールベースを短縮した先行開発車を用い、開発を進めたという。
松宮のパートナーとしてステアリングを握り、走り込みを重ねたのが、車両技術開発部に籍を置く塚田正男/伊藤竜平/山崎碧の3人の評価ドライバーである。エキスパートの資格を持つ塚田は1986年にトヨタに入社し、運転訓練の指導員を務めたこともあるベテランだ。一方、伊藤の入社は2015年、山崎は17年。いずれも20代半ばの若手であり、新型車の開発にメインで携わるのは今回のプロジェクトが初めてだという。
塚田:「伊藤と山崎からは『やってみよう!』という意気込みが感じられたので、とにかく2人を信じて任せてきました。私は指導役として彼らをサポートしたのですが、年齢的にも父親のような気持ちで見守ってきました(笑)」
伊藤:「私は入社以来、カローラ・スポーツやカローラ・セダン、そして先代クラウンなどの開発にサポート的に携わってきましたが、自分がメインで担当するのはクラウン・クロスオーバーとスポーツが初めてです。塚田さんに任せていただいたので、とてもモチベーションが高まりました。」
山崎:「私はもともと運転がうまい方ではなかったので、入社当初はサーキットでの訓練でどうしても恐怖心が抜けず、涙が出そうなときもありました。」クラウン・スポーツは、女性が運転席に座り、颯爽と走り出すイメージがぴったりだと思ったので、女性ならではの視点も活かしながらこだわって評価していきました。
3人の上司である組長の館郁夫は、あえて若手2人をメインとするチームを編成したという。
館:「もちろん人財育成という目的もありますが、クラウン・スポーツは新しいカタチのスポーツSUVなので、2人のような若い世代の感性が、開発するうえで必ず活きるだろうと考えました。」2人とも若いですが、評価ドライバーとしての能力が高いことは分かっていましたし、どんなクルマに仕上がるのか興味深く見守りました。」
彼らを中心とする開発メンバーは、クラウン・シリーズ全体を統括するチーフエンジニアの皿田明弘(当時)や、現場で開発をまとめるリーダーの本間たちとも議論を重ねながら、スポーツというキーワードを走りで表現すべく、快適性を確保しながら俊敏な動きを模索していった。
ところが、役員を含めて、走りの方向性を確認するために実施した先行開発車の社内試乗会で、「待った」がかかったという。
松宮:「試乗していただいた方々から『クラウンならではの上質さが感じられない』というフィードバックをいただきました。当時を振り返ると、まだまだ玄人向けの速く走れる素性に偏っていたと思います。その後、関係者でさらに議論を重ねた結果『やはりクラウンである以上、上質で快適な乗り味は譲れない。単なる速さではなく、スポーツとして運転する楽しさを追求する方向を目指そう』という結論に達しました。この時、硬いサスペンションだけがスポーツじゃないという価値観が『意のままに』『楽しく』というキーワードで明確になりました。」
テクニカルセンター下山で現地現物
クラウン・スポーツならではの走りの方向性を見出したプロジェクトチームは、上質でありながら、意のままに操っている感覚が得られる、ワクワクするような走りを目指し、開発を進めた。
21カ月という限られた開発期間で、理想とする走りを実現するためには、クルマづくりに変化が必要だったと松宮は語る。従来は、サスペンションやショックアブソーバーなど機械的な要素の仕様を決定してから、電子制御系の仕様決定に移行するなど、いわば数珠つなぎのように開発が進行していた。
一方、新型クラウンでは、機械系(メカ系)と制御系の開発を融合し、設計と評価部署が一体となったワンチームで進めたという。
伊藤:「制御系も含めて走り込みを行うことでチューニングの幅が広がったのが、評価ドライバーとしては画期的だと感じました。一方、お客様に違和感を抱かせないナチュラルな制御をつくり込むのが最も苦労した点です。制御のみに頼ったチューニングをすると、数値上は乗心地やハンドリングが良くなるのですが、どうしても自然な動きにならないのです。このような時にメカ系のチューニングで対応すると上手くいく。自身が両方のチューニングをマルチに対応することで、メカと制御の融合が非常に大切だと感じました。」
山崎:「DRSについては、テクニカルセンター下山以外にも士別試験場の積雪路やサーキットなどでも走り込んで、制御量を少しずつ変えるなどの調整とテストを繰り返しながらチューニングしました。結果的に、誰もが場所を選ばず安心して走りを楽しんでいただけるように仕上げられたと思っています。」
部署の垣根を越えた開発体制も、クルマづくりの現場における変化の現れだと、松宮は語る。
松宮:「我々のようなサスペンションの担当とブレーキの担当は別チームなのですが、クラウン・スポーツではサーキットでの走行テストを一緒に行って、お互いにとってベストな仕様を決め込んでいきました。部署を越えて互いを知り、みんなで情報共有をし、困った人がいたら助けるというワンチームの精神で開発してきました。これも非常に画期的な取り組みだと思っています。」
こうしたいくつもの新たな取り組みや挑戦を重ねながら、上質かつワクワクするような走りを目指してチューニングされた先行開発車。その方向性を再度確認してもらうべく、改めて社内試乗会が実施された。
塚田によると、そこでは高い評価を得ることができたという。こうして先行開発車での走り込みが一段落すると、プロジェクトメンバーたちは次のステップとして、実際にクラウン・スポーツのボディをまとったプロトタイプでの開発に注力。走りの完成度を高めていった。
開発最終段階では、モータージャーナリストや一般のお客様にサーキットで試乗していただく機会も設けられた。クルマのプロや実際に乗っていただくお客様の声を、量産車に反映させるためだ。松宮や塚田たちによると、そうした社外の方々からも想像以上に高い評価を得られ、メンバーみんなで胸をなでおろしたという。
伊藤:「塚田さんからチューニングを任せていただいて、たくさん失敗もしました。でも、そんなときは軌道修正していただいたからこそ、さまざまなチャレンジもできましたし、自分の成長につながりました。今回のプロジェクトで学んだことを次の『もっといいクルマづくり』に活かしていきたいと思います。」
松宮:「お客様に笑顔になっていただくため『もっといいクルマをつくる』ことが我々の使命ですし、実現するためには我々が本当に良いと思えるクルマを目指し、失敗を恐れずチャレンジしていく事が大事だと改めて気付かされました。」
新型クラウンの開発現場に広がった「圧倒的な当事者意識」とは!?
新型クラウンの開発現場における実務のリーダーとして「クラウン・クロスオーバー」/「クラウン・スポーツ」さらに今後デビューする「エステート」も担当している本間裕二。前述した通り、クラウン・スポーツでは内外装の意匠から走りに至るまで「見て/乗って/走って、お客様に“WOW”と感じていただけるようなエモーショナルなクルマ」を目指した。
プロジェクトメンバーの一人ひとりが失敗を恐れず、挑戦を続けることができたのは、クルマづくりの現場に「圧倒的な当事者意識」があったからだと本間は言う。その背後には「もっといいクルマづくり」を追求するために必要な「機能軸からの脱却」という考えがある。
本間:「『私はサスペンション設計です』/『私はデザイナーです』というスタンスが、いわゆる機能軸です。かつては、クルマづくりが各機能で分かれていたセクショナリズムの時代もあったと思います。でも『もっといいクルマをつくろうよ』『クルマ屋になろう』というトップの長年にわたるメッセージによる意識変革の大きな流れがあり、クラウンに限らず各プロジェクトが自然に呼応するようになってきたと感じています。『私はサスペンション設計だからサスペンションを見ます』ではなく『クラウンというクルマ軸で見ましょう』という意識です。」
2022年7月に開催された新型クラウンの発表会で中嶋副社長は、4つのモデルを並行して開発するのは至難の業であり、それを可能にしたのが「カンパニー制」と「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」だと説明した。
2016年に始まったカンパニー制では、これまで当たり前だった開発プロセスの見直しを実施。例えば製品企画と開発の各工程を一つのチームにし、全員がプロであるという意識を高め、従来以上に緊密なコミュニケーションがとれるようにした。
一方、2012年に構想が立ち上げられたTNGAでは、もっといいクルマづくりを実現するため、プラットフォームとパワートレインを刷新。一体的に開発することで、基本性能を飛躍的に向上させることを目指してきた。
こうした取り組みの成果が、クラウン・スポーツの開発現場にも、カタチとなって現れてきたのだ。ところで、新型クラウンでは、歴代モデルで初めて「クロスオーバー」/「スポーツ」/「セダン」/「エステート」という4つのボディバリエーションを展開する。
「人々の価値観が多様化した時代において、お客様それぞれのライフスタイルやライフステージに合わせて、一人ひとりに合ったクラウン、『マイクラウン』を提供したいとの想いを込めて、4車種を提案させていただいた」と本間は語る。
本間:「トヨタには『もっといいクルマつくろう』という全社員に共通する価値観がありますが、これはお客様に笑顔になっていただくためだと私は考えています。お客様の多岐に渡るライフスタイルに合った、笑顔になっていただけるクルマを提供するため『私たちが本当にいいと思える、今の時代に合ったクラウンとはなんだろう』というところからスタートし、さまざまなボディタイプを検討した結果、最終的に今回の4モデルに絞り込みました。」
これら4モデルをお客様にタイムリーに提供するために必要なのが、超短期開発だ。先述の通りクラウン・スポーツの開発期間もたった21カ月だった。そこで重要になるのが、TNGAとカンパニー制に加え、開発の「初期完成度」を高めることだと本間は強調する。
本間:「例えば外形デザインでいうと、デザイナーがスケッチを描いて、エンジニアが図面化し、実際にボディを試作して、量産フェーズに移るという流れになります。クラウンスポーツのリアフェンダー意匠に代表されるように、デザインフェーズの初期段階から設計者や生産技術メンバーも入り、図面化や量産化のことも鑑みながらデザインを進めていくと『初期完成度』が高まり開発期間がギュッと短縮できます。このように各部署がそれぞれの工程を数珠つなぎではなく一体となり『融合』させながら進めていく体制により、完成度を高め、開発期間を短縮させることが可能になりました。」
プロジェクト全体でこうした新しい挑戦ができたのは「もっといいクルマづくり」のためには「失敗を恐れてはいけない」という考え方が浸透してきたためだと本間はいう。
本間:「豊田会長の言葉に『バッターボックスに立とう』というものがあります。失敗をしているということは、チャレンジしていることであり、たとえ10打数0安打でも、打席に立つ人をみんなで応援する組織のあり方が大事だという考え方です。『ナイススイング』と言ってくれるリーダーがいて、失敗したらみんなで助け合う風土がトヨタのクルマづくりの現場に根付いてきていますし、それが新型クラウンにも結実していると感じています。」
本間によると、クラウン・クロスオーバーでは実務で頑張っていたメンバーが、スポーツではリーダーとして力を発揮したり、他車種の開発を担当したり、新型クラウンのプロジェクトで育まれたチャレンジ精神とチームワークの輪が確実に拡大しているという。
企画から開発、そして生産まで、あらゆる現場における「革新と挑戦」は、今後さらに大きな輪となって「もっといいクルマづくり」を進化させていくことだろう。
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