電動化を推し進めているランボルギーニのトップにインタビュー! 電気の力を得た“猛牛”は、どのように変貌していくのだろう……。
スーパーカーは次のステップへ
ステファン・ヴィンケルマンがランボルギーニに帰ってきておよそ2年が経った。ドイツ・ベルリン生まれ、イタリア・ローマ育ちというハイブリッドなバックグラウンドを持ち、彫りの深いニヒルな風貌を備えたハンサムガイ。長く経験を積んだフィアットからヘッドハントされた彼が2005年、40歳の若さでCEOに就任した際、「こういう手があるんだ!」と、膝を打ち、フォルクスワーゲン(VW)・グループが秘めたパワーに舌を巻いたのは記憶に新しい。
退任までの11年間でランボルギーニの販売台数を2倍以上に伸ばしたヴィンケルマンは、VWグループ内のアウディ・スポーツやブガッティのCEOを歴任し、2020年末にふたたびランボルギーニCEOとして戻ってきた。
多くのブランドや部門を持つ巨大グループにおいては、ポジションを移りながらヒエラルキーのトップへ上り詰めていくのが常道だ。実績のある彼が同じブランドの同じポジションに再任されるのは意外にも思えたが、実は彼がランボルギーニを離れている間に新型SUV「ウルス」の登場などにより販売台数は倍近くに伸びていた。つまりランボルギーニのVWグループ内の価値が大幅に高まり、ヴィンケルマンのキャリアアップとシンクロしたと言っていいだろう。
「2度目の就任は大変な名誉でした。ランボルギーニ復帰時の歓迎ぶりは圧倒的なもので、工場に入るときも、ランボルギーニ・レストランにいる人たちからも、拍手喝采を受けました。それは私にとってもっとも美しい贈り物であり、とてもとても感謝しています。これこそが信頼と、社内の家族的な雰囲気を示しています。私の意気込みは以前と変わっていません。製品は以前よりもさらに良くなっていますし、ブランドの成長に対して非常に熱心に取り組んでいます」
2014年に発売された「ウラカン」、2019年に発売された「ウルス」はともにヴィンケルマンの“ベイビー”だ。その成功ストーリーは彼いわく信じがたいほどのものであり、販売実績により自身が最良の方法で資金を投資したことを実感できたという。そしていま、ランボルギーニは電動化という新しい課題に立ち向かおうとしている。
「2023~2024年の間に、すべてのラインアップをハイブリッド化することを掲げました。よりサステナブルであると同時に、現在の世代よりも優れたパフォーマンスを実現したいからです。私たちの車はイタリアで生産され、世界中で販売されています。日本や中国、アメリカ、ヨーロッパなど各国の中でもっとも厳しい規制に準拠する必要があります。単なる技術面の適応だけでなく、本社のさまざまな部門や各国の販売店のコミットメントを育み、認識させることも伴います。このため、製品だけでなくブランドやコミュニケーションの面でも、明確な戦略を打ち出しました。この10年間で、電動化への投資はますます増えており、ハンドリングやパフォーマンスの面で、これが正しい方向性であることを証明しなければなりません。結果としてわれわれのコミットメントはお客様に受け入れられ、すでに新しいハイブリッド車の受注も大変好調です」
“サステナビリティの時代”にあっても、世のスーパースポーツカーはますますハイパワー志向になっているように思える。今後このマーケットはどのように発展していくと考えているのだろうか。
「より多くのパワーを追求する競争は終わってはいません。これは電動化の時代にも残り続けるものです。次のステップでは、スーパースポーツカーはパフォーマンスを総合的にデザインするパッケージであることを証明する必要があります。つまり、トップスピードやブレーキングタイムといったスペックは伸ばしつつ、エモーショナルな部分を備えなければなりません。内燃機関から電動化する際も、考え方は基本的に同じです。直線で速いというだけでは、私たちのお客様の要求は満たされません。前後方向の加速度はすでに開拓しつくされ、それだけだと気持ち悪くなってしまう場合があります。電動化の時代において重要なことは、コーナリングにおいてステアリングとペダルを通じた入力にクルマがどう反応し、横方向のGがどう変わるのか。完全に電気だけで走るスーパースポーツでは、まだ内燃機関車のレベルに達していません。幸い、すべてのクルマが完全に電動化されるまではまだ時間があります。私たちは単なる移動手段を売っているのではありません。ランボルギーニである必要があるお客様に、夢を売っているのです。自分たちが何をしたいのかがはっきりしているからこそ、私たちはこの準備を積極的に進めているのです」
素晴らしいサウンド、存在感にあふれたエンジン。そうしたもので実績を積み重ねてきたランボルギーニにとって、電動化したモデルを顧客に理解してもらうことは難しいと感じてはいないのだろうか。
「内燃機関とともに育った私たちの世代の中には、この業界においてこれからどう手を打てばよいかがわからないという人も多いでしょう。しかしいま、若い世代は『サステナブルでないなら、あなたの商品はいりません』と、明確に宣言しています。そのうえで、『パフォーマンスが悪いのであれば買いません』と。これは、昔から何も変わっていない概念です。逆にいえば、環境に優しい良いクルマでも面白味がなければ、そのブランドは生き残れずに消えていきます。電動化は私たちの歴史上、最大の投資であり、デジタル化よりさらに大きな変化で、難しい課題であることは間違いありません。しかし性別や年齢が異なる多くの方々と話している中で、新しい世代の人たちが私たちを信頼してくれていることが伝わってきます。彼らは、ランボルギーニがハイブリッド化を成功させると信じてくれているのです」
2035年に予定されたEU域内における内燃機関車、ハイブリッド車の販売禁止に至るまでにも、燃費や騒音規制の強化など、外部環境の細かな変化はありうるだろう。ランボルギーニとして今後の変化についてはどう予測しているのだろうか。
「どんな規則修正が起こりえるのか、きめ細かに把握しているわけではありませんが、電動化を軸とした大きな方向性は捉えられていると思っています。私たちにとって重要なのは当分の間、ウルスやそれに続くような、より日常的に使えるモデルで完全な電気自動車(BEV)に集中することだと考えています。またウラカンやアヴェンタドールの後継モデルでは、2030年以降に合成燃料を使ったハイブリッド化を進める機会を持ちたいと考えています。一方では法律がこのドアを閉ざすこと、つまり一切の内燃機関が禁止される可能性もありますが、他方では、合成燃料のコスト低減や流通がうまくいき、多くの資本を生み出すかもしれません。これらはすべてが可能性を秘めているので我々はそれを見極める必要があります。ただありがたいことに、いますぐに動く必要はなく、新しい環境技術に再度投資する必要があるとしても、何年か先の話になるでしょう」
これから自動車の最高級セグメントにおいて、マーケティングやブランディングはどう変化していくと捉えているのだろう。
「ブランドというのは、絶えず進化していくものです。ある瞬間を捉えたとしても、その姿はすでに古くなっているかもしれず、そのことは周囲の人々に混乱を招くことすらあります。それゆえ私たちは、その時々で伝える力を保ち続けるために、ある一定の期間は、いつも同じ最善のメッセージで発信し続けなければならないのです。2000年代には、妥協のない、イタリア的なことを試みました。明確なポジショニングを持つこと、あるいは非常にエッジの効いたものにすることなど、非常に戦闘的なコミュニケーションに努めました。そして今は、より人間的で、多くの人々の心を打つような手法を取っています。しかし結局のところ、同じメッセージを発信し続けるには、常に企業として外部環境に適応し、速いクルマを作らなければならない。つまり変化し続けなければならないのです」
電動化の時代に差し掛かるより前に、日米欧の伝統的な自動車産業以外からも新しい挑戦的なスポーツカー・ビルダーが参入し始めている。彼らの多くはランボルギーニを意識しているのかもしれないが、差別化を図るためにランボルギーニはどのような戦略をとっていくのだろうか。
「大衆車であれ、プレミアムカーであれ、電動化によってまったく新しいブランドを作ることは、以前より簡単だと思います。しかしスーパースポーツカーには有効ではありません。超高性能車を最低限必要な台数作り、ビジネスケースとして成立させるというハードルをクリアすることは、多くの企業にとって容易ではないのです。ランボルギーニのような車を購入する人は、単なる高品質プロダクト以上の何か、つまりブランドの歴史と、メイド・イン・イタリーである事実を欲します。われわれ経営陣は、すべての社員が、これこそ私たちの信じるべきものであることを示す必要があるのです。世界各国に出張して投資家やお客様などさまざまな人々と出会う中で、私はそれぞれの地域で何が変化し、彼らがランボルギーニに何を期待しているのかを注意深く観察し、マネジメントに活かしています。そんな中で、私たちが正しい方向に進んでいるとお客様が信じてくれていることを、身を持って実感しているところです」
時代の要求に合わせて進化を続けていくことで、ランボルギーニに恒久的に求められている“夢”を売る。きわめて強い確信と揺るがぬ決意をもったヴィンケルマンCEOの元で、ランボルギーニは着実な成長をこれからも遂げていくことだろう。
文・田中誠司
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みんなのコメント
少なくともトンネルに入った瞬間やたら吹かして、
五月蝿い音にしか価値を見出せていない方々は離れるでしょうね。