現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > ヤマハOBキタさんの「知らなくてもいい話」:MotoGPの4サイクルの技術規則はこうして決まった(前編)

ここから本文です

ヤマハOBキタさんの「知らなくてもいい話」:MotoGPの4サイクルの技術規則はこうして決まった(前編)

掲載 更新 1
ヤマハOBキタさんの「知らなくてもいい話」:MotoGPの4サイクルの技術規則はこうして決まった(前編)

 レースで誰が勝ったか負けたかは瞬時に分かるこのご時世。でもレースの裏舞台、とりわけ技術的なことは機密性が高く、なかなか伝わってこない……。そんな二輪レースのウラ話やよもやま話を元ヤマハの『キタさん』こと北川成人さんが紹介します。なお、連載は不定期。あしからずご容赦ください。

-------------------------------------
■MotoGPの4サイクルの技術規則はこうして決まった
 MotoGPの技術規則はどのように決められているかをご存じない方もおられると思うので、まずはそこから始めよう。

小林可夢偉と長島哲太の対談がパイオニアの企画で実現。世界を知る2人が語る2輪と4輪の意外な違い

 国際格式の二輪レースに関わる規則は、すべてFIM(Federation Internationale de Motocyclisme:国際モーターサイクリズム連盟)によって制定されており、各国のローカル規則も基本的にはこれにならっている。しかしMotoGPの技術規則に関してはFIMではなく、MSMA(Motor Sports Manufacturers Association:モーターサイクルスポーツ製造者協会)という団体によって議論され、原則多数決で決められるのだ。『製造者』とは、いわゆるファクトリーのことだ。

 これはFIMとMSMAのあいだにそのような契約関係が存在するからで、技術規則に関してはMSMAが唯一の立法機関であると明言されている。最終的にはFIM、MSMA、プロモーターからなるGPコミッションという会議で決定されるが、MSMAの決定事項が覆ることはない。したがってMotoGPに関してFIMは、決定事項をオーソライズして文書として発行するだけの機関なのである。

 MSMAがなぜこのような力を持つに至ったかというと、レースを統括し運営するFIMやプロモーターにとってはレースを開催するために必要なリソース、すなわちマシンとライダーという必須要素を身銭を切って提供してくれる大事な『投資家』の集まりだからである。当然ながらプロモーターからはMSMAメンバーの各社に対して出走台数に応じた参加助成金が支払われているのだが、莫大なマシンの研究開発費やライダーの契約金を賄うにはほど遠い額である。不足分は各社が独自にスポンサーを募り、それでも足りない部分は広告宣伝費として計上されるのが通例である。
 話を本題に戻そう。

 それまでMotoGPの前身である世界グランプリのプレミアクラスは2サイクルの500ccマシン(1949年~2001年)が主役だった。かつてはMVアグスタの3気筒マシンやらホンダNR500という革新的な4サイクルマシンも参戦していたが、先鋭化した2サイクル500ccマシンによって完全に駆逐されてしまったのだ。

 ところが20世紀も終りを迎える頃になると自動車の排ガス規制が厳しくなり、構造的にその浄化が困難な2サイクルエンジンは苦境に立たされ、市販車はどんどん4サイクル化されていった。そうなると「レースは市販車に技術を還元する研究開発の場である」という大義名分で、莫大な開発費用については目をつぶっていた各社の経営層のあいだにも不協和音が生じだす。

「社会的に受け入れられない技術開発に投資するのはステークホルダーの理解を得られない」とかなんとか言い出す輩が現れると、これがまた正論なので言い返すこともできない……。

 かくしてMSMAでもひそかに4サイクルマシンの技術規則の検討を始めたのだが、それは確か1997年の終わりごろだったと記憶している。ちなみにこの年は消費税が5%に引き上げられたのだが、本題には全く関係ない。

(中編に続く)

★プロファイル
キタさん:北川成人(きたがわしげと)さん 1953年生まれ。'76年にヤマハ発動機に入社すると、その直後から車体設計のエンジニアとしてYZR500/750開発に携わる。以来、ヤマハのレース畑を歩く。途中'99年からは先進安全自動車開発の部門へ異動するも、'03年にはレース部門に復帰。'05年以降はレースを管掌する技術開発部のトップとして、役職定年を迎える'09年までMotoGPの最前線で指揮を執った。
※YMR(Yamaha Motor Racing)はMotoGPのレース運営を行うイタリアの現地法人。

関連タグ

こんな記事も読まれています

バースレーシングプロジェクト、サンライズブルバードとともにニュルブルクリンク24時間挑戦へ
バースレーシングプロジェクト、サンライズブルバードとともにニュルブルクリンク24時間挑戦へ
AUTOSPORT web
スーパーGT第2戦富士のZFアワードはGT300でポール・トゥ・ウインを飾ったJLOCが受賞
スーパーGT第2戦富士のZFアワードはGT300でポール・トゥ・ウインを飾ったJLOCが受賞
AUTOSPORT web
新車価格は衝撃の63万円!!! 気分は[日本一速い男] 日産チェリーの正体とは?
新車価格は衝撃の63万円!!! 気分は[日本一速い男] 日産チェリーの正体とは?
ベストカーWeb
イタリアのSAはコーヒーが美味しい! ただしガソリンは日本以上に高いのでセルフサービスを活用しましょう【みどり独乙通信】
イタリアのSAはコーヒーが美味しい! ただしガソリンは日本以上に高いのでセルフサービスを活用しましょう【みどり独乙通信】
Auto Messe Web
新型トラックや多彩な架装など約150台が集結!ジャパントラックショー2024
新型トラックや多彩な架装など約150台が集結!ジャパントラックショー2024
グーネット
MotoGP:2027年に1000ccから850ccへマシン規則変更。空力パーツは50mm削減、車高調整デバイスは禁止
MotoGP:2027年に1000ccから850ccへマシン規則変更。空力パーツは50mm削減、車高調整デバイスは禁止
AUTOSPORT web
世界に1台!フェラーリ「812GTS」ベースのフルカーボン仕様車を披露 ノビテック
世界に1台!フェラーリ「812GTS」ベースのフルカーボン仕様車を披露 ノビテック
グーネット
時速6キロのお台場めぐり!トヨタの3輪BEV使った観光サービス「おさんぽ」スタート
時速6キロのお台場めぐり!トヨタの3輪BEV使った観光サービス「おさんぽ」スタート
グーネット
アウディの美点を「ギュッと凝縮」 更新版S3へ試乗 333馬力にトルクスプリッター 少し真面目すぎ?
アウディの美点を「ギュッと凝縮」 更新版S3へ試乗 333馬力にトルクスプリッター 少し真面目すぎ?
AUTOCAR JAPAN
日産「マーチ」ベースの「フェアレディ」!? 大人が驚く学生ならではの感性で仕上げたカスタムポイントとは
日産「マーチ」ベースの「フェアレディ」!? 大人が驚く学生ならではの感性で仕上げたカスタムポイントとは
Auto Messe Web
ルノーの名物イベント、今年は10月27日に決定! 「ルノー カングー ジャンボリー2024」開催概要を発表
ルノーの名物イベント、今年は10月27日に決定! 「ルノー カングー ジャンボリー2024」開催概要を発表
月刊自家用車WEB
宮田莉朋、無念のトラブルで勝利逃すも「全然ネガティブには思っていません」。原因はギヤボックス/ELMS第2戦
宮田莉朋、無念のトラブルで勝利逃すも「全然ネガティブには思っていません」。原因はギヤボックス/ELMS第2戦
AUTOSPORT web
ルクレール3位「マクラーレンの強さは予想以上。僕たちにはアップグレードが必要」フェラーリ/F1第6戦
ルクレール3位「マクラーレンの強さは予想以上。僕たちにはアップグレードが必要」フェラーリ/F1第6戦
AUTOSPORT web
800馬力のランボルギーニ「ウルスSE」は10種のドライビングモードで楽しめる! EVだけでも60km以上走れるクラス最速SUVです
800馬力のランボルギーニ「ウルスSE」は10種のドライビングモードで楽しめる! EVだけでも60km以上走れるクラス最速SUVです
Auto Messe Web
レッドブル&HRC密着:敗因はフロアのダメージとハードタイヤでの苦戦。勝つことの難しさを痛感したフェルスタッペン
レッドブル&HRC密着:敗因はフロアのダメージとハードタイヤでの苦戦。勝つことの難しさを痛感したフェルスタッペン
AUTOSPORT web
高速道路を走りながら「EV充電」現実に! 本線で「走行中給電」実証やります NEXCO東日本
高速道路を走りながら「EV充電」現実に! 本線で「走行中給電」実証やります NEXCO東日本
乗りものニュース
合法カスタムでも「デコトラ」では仕事ができない現代! デコトラ野郎たちは「マイトラック」で楽しんでいる
合法カスタムでも「デコトラ」では仕事ができない現代! デコトラ野郎たちは「マイトラック」で楽しんでいる
WEB CARTOP
盗難車犯罪の温床「違法ヤード」 解体された自動車が海外輸出される残酷現実、規制強化で本当に防げるのか
盗難車犯罪の温床「違法ヤード」 解体された自動車が海外輸出される残酷現実、規制強化で本当に防げるのか
Merkmal

みんなのコメント

1件
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村