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3代目アウディA8は一見キープコンセプトだが中身は一新されていた【10年ひと昔の新車】

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3代目アウディA8は一見キープコンセプトだが中身は一新されていた【10年ひと昔の新車】

2009年12月にアウディA8がドイツ本国で6年ぶりにフルモデルチェンジされて登場した。アウディのフラッグシップは3代目でどう進化したのか。ここではスペイン・マラガで開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年4月号より)

スタイリングは正常進化だが旧型と比べれば違いは明確
2009年の秋、アウディの軽量化技術に関するワークショップに参加したときのこと。エンジニアに「アウディはこうした技術によって何を成し遂げたいのか」と訊いたところ、その答えは「これまでと同じ重量でも、クルマをより豪華に快適にしたいのだ」というものだった。

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もちろん、クラスによって変わってくる部分もあるだろうが、この新しいA8を目の前にして「なるほど」と思った。

とにかく大きく立派になった。ホイールベースが48mm伸びて2992mmに、全長は75mm伸びて5137mmになり、幅ももちろん拡大して1949mmになった。しかし、ASF(アウディスペースフレーム)によって、ボディのねじり剛性が25%アップしているにもかかわらず、重量増は基本ボディでわずか6.6kgに留められている。

A8のASFというとフルアルミ製というイメージがあるが、実は最新のものはスチールとのコンポジット構造だ。アルミとスチールを巧みに使い分けることによって、大切なポイントの剛性を保ちつつトータルで軽量化することができるようになった。接合技術の進化によって、こうしたさらに効率のよいASFができるようになったのだ。

さて、そのスタイリングを見てみよう。全体的には意外性がなく正常進化と言える。プレミアムブランドとして快進撃を続けるアウディとしては、ここでフラッグシップにデザイン的な冒険をさせる必要はなかったということだろう。しかし、細部にはいくつかの新機軸が見られる。

まずはオプション設定だが、フルLEDヘッドライトを用意したことだ。ロービームが10個、デイタイムランニングライトが22個、ターンシグナルが22個、ハイビームが2個のレンズモジュールで構成される。このデイタイムランニングライトの形状はなかなか個性的で、威圧感は与えないが迫力のある堂々としたイメージをA8にもたらしている。

ヘッドライトユニットの間にあるシングルフレームグリルは、より迫力あるタイプとなった。横桟を強調するとともに、これまでより平面的になっている。フロントマスク全体から受ける印象は、従来モデルよりかなりアグレッシブになった。

リアはどうだろうか。コンビネーションライトのデザインはA4との共通性があるが、全体的にはロー&ワイドで落ち着いた感じだ。アンダーボディの空力対策をしっかりと行ったので、トランクエンドを高くしなくて済んだためだ。

MMIはタッチパッドを採用するなど大幅に進化
スタイリングが正常進化とするなら、インテリアは「革命的な変化」を遂げたと言っていいだろう。インテリアデザインは完全に新しい世代へと切り替わった。このデザイン変革は新世代のMMI(マルチメディアインターフェイス)の導入とセットになっていることがポイントだ。

MMIは従来から操作性についての評判はよかった。しかし、担当エンジニアによると「他メーカーが追いついて来た。さらに一歩先へ行くために新たな文字入力システムを開発した」と言う。それはMMIタッチというパソコンのタッチパッドのようなもので、手書きで文字入力が可能だ。手元を見る必要がないので運転中でも操作が容易にできる。アルファベットを使う言語はもちろん、キリル文字、日本語、中国語、韓国語も認識する。

日本のアルプス電気との共同開発であるこのシステムは、漢字やひらがなについては書き順もわかっているので、認識に間違いは少ないのだという。「右ハンドル車だと左手で書くことになるが大丈夫か」という意地悪な質問に対して、エンジニアはこの書き順の話をしてくれた。

アウディは「マン・マシン・インターフェイス」を非常に大切にしている。MMIに限らず各スイッチ類の操作感はとことん突き詰めたそうだ。実際にアウディでは取締役全員がこうしたスイッチ類の操作感のチェックをする体制になっているという。その成果は確実に新しいA8に表れていた。

フロントはこのMMIの操作系やシフトレバーがあるセンターコンソールが幅広いので、シートにはタイト感があり、スポーティな印象を受ける。逆にリアシートは余裕たっぷりだ。今後、ロングホイールベース版も登場するというが、標準ボディでもそのスペースは必要十分以上。またシートバックが高いので、体全体が包まれる感じでゆったり座れる。  

走りはしっとりと落ち着き、新たな方向性を感じさせる
次に走りに関することだが、まずエンジンは当初、4.2FSI(372ps)、4.2TDI(350ps)、3.0TDI(250ps)の3本立てとなる。すべて従来モデルよりパワースペックは向上しているが、エネルギー回生システムの採用やエンジン本体のリファインなどで、燃費は大幅に向上している。3.0TDIはアイドリングストップ機能も持つ。すべてクワトロシステムと組み合わせられる。

そしてニュースは後に追加されるというFFの3.0TDIで、これは最高出力は204psに抑えられるが、燃料消費量はEU複合サイクルで、16.7km/L、CO2排出量は156g/kmでしかないという。さらに2014年発効のユーロ6に対応するクリーンディーゼルも鋭意開発中だ。

トランスミッションはシフトバイワイヤコントロールのZF社製の8速ATが採用された。また、A4と同じように、フロントアクスルが前方へ145mm出された。これにより、前後の重量バランスは59:41から57:43になったという。

実際の走りだが、4.2FSIはとにかくスムーズだ。エンジンは力強いというイメージではなく、低回転から十分なトルクを出しつつ、そのまま高回転域まで伸びるといった感じだ。このスムーズさに大きく貢献しているのが8速ATだ。シフトショックはほとんど感じられず滑らか、トルコン式ATの味、ここに極まるといった印象。また8速ギアでの100km/h巡航時、エンジンは1600rpmでしかないので静粛性も非常に高い。このZF製の8速ATは、アウディ、BMWなどプレミアムモデルの走りの質感を一段上に引き上げたと言える。

スムーズさに対して、走りの躍動感という点はどうだろうか。そこにはアウディの新たな考え方が見えたように思う。具体的には「しっとり落ち着いていて、無駄に軽さを感じさせない」ということだ。これまではASFによって実現した軽快さを殊更にドライバーへ感じさせるようなところがあったが、新しいA8にはそれがない。そもそも重量増はほとんどないとは言え、ボディがかなり大きくなっているので乗り味は落ち着いた方向になるだろうが、それにしてもフィーリングは以前とかなり違う。明らかに目指す方向が変化した。

実はこうした変化を感じたのは、このA8に限ったことではない。熟成が進んでいるA4などでも、最近デリバリーされているものは「しっとりとした落ち着き」が出てきている。これはいい方向だと思う。

さて、もう残された誌面は少ないのだが、以上のことに加えてニューA8の特徴は、様々な最新技術が満載されているというところにもある。

それを簡単に説明しておくと、まず、「アウディプリセンスセーフティシステム」というカメラとレーダーを使った事故防止と損害軽減のためのシステムが投入された。また、ストップ&ゴー機能付きアクティブクルーズコントロールも用意された。さらに歩行者マーキング機能付きナイトビジョンアシスト、ダイナミックステアリングも設定されている。従来からあるアウディドライブセレクトなどがさらに進化していることは言うまでもない。

ニューA8にはアウディが持つ最新技術が惜しみなく投入されている。そして、それをいかにうまくユーザーに使ってもらうか。マン・マシン・インターフェイスが突き詰められている。このクラスはメルセデスのSクラスが圧倒的な強さを見せているのが現状だが、アウディはこの新しいA8で、その牙城を着実に崩していくのではないかと思う。アウディらしい高級車のあり方が鮮明なことが、市場で評価されるだろう。日本への導入は来年早々だそうだ。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之)

アウディA8 4.2 FSI クワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高:5137×1949×1460mm
●ホイールベース:2992mm
●車両重量:1835kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4163cc
●最高出力:273kW(372ps)/6800rpm
●最大トルク:445Nm/3500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●最高速:250km/h (リミッター)
●0→100km/h加速:5.7秒
※EU準拠

[ アルバム : 3代目 アウディA8 4.2 FSI クワトロ はオリジナルサイトでご覧ください ]

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