筆者よりいくらか年長の方から聞くところによれば、昭和50年代初期の厳しい排出ガス規制が適用された国産車は「死ぬほど遅かった」らしい。それこそ、箱根などの上り坂を満足に登れないほどに。
しかしその後、排ガスのマネジメント技術は長足の進歩を遂げた。そのため現在の自動車は当時以上に厳しい排ガス基準値を軽くクリアしながらも、当時のクルマの(体感的には)何十倍もの力強さでもって箱根や六甲の山を鋭く駆け上がっていく。
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しかしあまりにもエココンシャスになったがゆえに、つまり「薄めの燃料を効率的に燃やす」という正しい技術が発達したがために、心あるいは身体のどこかに若干の物足りなさを覚える瞬間もある。
「炸裂感」「爆発感」が足りないのだ。
こんなこと、今どき決してホメられた話ではないのは重々承知だ。しかし比較的大排気量のエンジンに、やや濃いめのガソリンと空気がたっぷり送られ、そしてその混合気が大爆発することによって生まれる強力なパワーと、その際の感触。
それは、今どきのダウンサイジング(小排気量な)ターボエンジンでは決して得ることのできない、背徳的かつセクシーな何かである。
そういった背徳を今この時代に堪能したいのであれば、当然ながら絶版車に乗るほかない。そしてその際の最有力候補のひとつは「V型6気筒エンジン搭載のアルファロメオ」ということになるだろう。
アルファロメオ。言わずと知れたイタリアの自動車ブランドだ。戦前は、後にフェラーリを創業したエンツォ・フェラーリがレース部門の総責任者を務め、その後の国有化と第2次世界大戦を経て、戦後はイタリア最大の量産車メーカーとしてさまざまなタイプの乗用車を──とりわけ多くのスポーティでセクシーな乗用車を──製造した。1986年以降はイタリア最大のコングロマリットであるフィアット・グループ傘下の企業となっている。
で、そのアルファロメオが作る(というか作っていた)V型6気筒エンジンに今、ある種の紳士は注目してほしいのである。
もともとは1979年の「アルファ6」というクルマに初採用されたアルファロメオのV型6気筒SOHCエンジンは、1983年に燃料噴射装置の変更は受けたものの、基本的には「1970年代そのまま」の形で2000年代半ばまで使用され続けた。端的に言ってしまえば、古くさい設計のエンジンである。
だが、それゆえに素晴らしいのだ。
今どきのエンジンと違って環境うんぬんのことをほとんど考慮せず、ただひたすら大爆発することだけを優先させた結果、図らずも「強烈な官能」がそこに生まれてしまっているのだ。
自動車用エンジンのフィーリングやクルマの挙動などを、性的な比喩をもって解説する書き手もいる。筆者は照れくさくてなかなかできないのだが、ことアルファのV6に関してだけはその手法を取らざるを得ない。
エンジンに火を入れ、ほんの少々の暖機をしたのち、アクセルペダルをそっと踏む。たったそれだけでのことで、アルファロメオ製V型6気筒SOHCエンジンは、その声(エンジン音および排気音)と動き(クルマを前方へと勧めるトルク)により、大層な「反応」をドライバーに示す。
「今からこれでは、このままアクセルを踏み続けたらどうなってしまうのか……」と、我が事ながら不安になる。しかし行くべき場所があるため、踏むよりほか選択肢はない。で、かまわずグッとペダルを踏みこむ。するとV6エンジンは……ここで文字にするのは少々はばかられるほどのモロモロでもって、長い長い「絶頂」に達することになる。
我ながら安直な比喩表現だと思う。著述業者としての力量不足を感じる。だが、アルファ製V6の「あの感じ」を文字でなるべく正確に伝えるためには、これ以上有効かつ的確な手法はないと考えているのも事実だ。
これと同種の強烈な官能性を感じるエンジンは、もちろんほかにもたくさんある。しかしそれはフェラーリあるいはランボルギーニなどのスーパーカー用に限定されており、こと「一般的な市販車用のV6エンジン」としては、アルファロメオのそれこそが世界最高峰であり、唯一無二だと言える。
過去、アルファロメオのさまざまなモデルに、この素晴らしいV型6気筒エンジンが搭載された。そのなかからどれを選んでも良いと思うが、中古車の流通量やメンテナンスの問題などを踏まえたうえでの現実的な選択肢は、以下の6モデルとなるだろう。
・アルファロメオ156(2.5リッターV6を搭載する4ドアサルーン)
・アルファロメオ156 GTA(上記のスペシャル版。特製の3.2リッター)
・アルファロメオ147 GTA(3.2リッターの特製V6を積むハッチバック)
・アルファロメオGTV(3リッターまたは3.2リッターV6搭載の2+2クーペ)
・先代アルファロメオ スパイダー(3リッターまたは3.2リッターV6搭載の2座オープン)
・アルファロメオGT(3.2リッターV6搭載の、後席がけっこう広い2ドアクーペ)
必要とされる乗車人数と好み、そしてコンディションとご縁に応じてお好きなモノを選んでいただければと思う。どれを選んだところで、結論として「最高!」以外の感慨はありえないからだ(ただし燃費以外。実燃費はリッター6~10kmぐらいだと覚悟してください)。
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