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ブーツェン・ジニオンに所属する日本人メカニック。「いつかはル・マンに」とヨーロッパで単身戦う

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ブーツェン・ジニオンに所属する日本人メカニック。「いつかはル・マンに」とヨーロッパで単身戦う

 GTワールドチャレンジ・ヨーロッパやランボルギーニ・スーパートロフェオで活躍するベルギーのレーシングチーム、ブーツェン・ジニオン・レーシング。元F1ドライバーのティエリー・ブーツェンとオリビエ・レインによって興されたチームだが、このチームでいま、ひとりの日本人メカニックがチーフメカニックとして活躍している。日本で実績を積んできた、木村祥吾メカニックだ。

 モータースポーツに携わり、海外で活躍する日本人は、特にイギリスではフォーミュラを中心としたレースエンジニアやメカニックが就労しているケースはいくつかある。ただ、ベルギーを拠点としてメカニックとして、しかも正社員として働く日本人はとても珍しい。日本から遠く離れたベルギーのブーツェン・ジニオン・レーシングで働く木村メカに話を聞いた。

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* * * * *

■鈴鹿でのSF&WTCRの併催で運命的な再会
──そもそもベルギーでメカニックとなった経緯はどんなものだったのでしょうか?
木村祥吾(以下木村):フリーランス時代に、アジアのレースでBMWで参戦するチームのメカニックとして働いていたときに、派遣エンジニアとして来ていたのがちょうどこのブーツェン・ジニオンのエンジニアでした。翌年の2018年、鈴鹿サーキットで開催されたWTCR世界ツーリングカーカップで来日していた彼と、スーパーフォーミュラでメカニックをしていた自分が偶然にも隣同士のピットで、そこで再会。「2019年から一緒に働かないか」とそのエンジニアが誘ってくれたのが最初のきっかけですね。

──仕事も私生活も、初めて住むベルギーという国で、どのように過ごしているのですか?
木村:いまはブーツェン・ジニオンのチーフメカニックというポジションとなり、GTワールドチャレンジ・ヨーロッパに参戦するBMW M6 GT3のファクトリーでの整備や管理、サーキットでのレース活動に従事しています。シーズン中は仕事が忙しく、ゆっくり町を散策するということはあまりありませんが、会社が手厚いサポートをしてくれているおかげで、仕事も日常生活も困ることなく、楽しくベルギー生活を送ることができています。

──ベルギーと言えばビールが有名な国ですが、いろんなビールを楽しんでおられますか?
木村氏:そりゃあもう、毎日のようにビールを飲んでいますよ。もうすでにチェッカーフラッグ後のビールを楽しみにみんなで仕事を頑張っています(取材はスパ24時間のレース中に実施)。ベルギービールは好きですし、たまにチームのみんなと仕事の後に飲みに行くこともあります。

──イギリスやドイツ、イタリア、フランス等、ヨーロッパの中にはモータースポーツが盛んな国がたくさんありますが、なぜベルギーを選んだのですか?
木村:声をかけてくれたこのブーツェン・ジニオンがたまたまベルギーだっただけですね。実はヨーロッパの各国で就職先を探していたのです。特に耐久レース、目標であるル・マン24時間レースに参戦しているチームを探していて、数多くのチームにアプローチをしていたのですが、唯一僕を拾ってくれたのがこのブーツェン・ジニオンで、とても感謝しています。メカニックとして就労し、チーフへと昇格して今年は3年目になります。

──チームとの関係はいかがですか?
木村:ベルギーはヨーロッパの中央に位置しており、どの国へ行くにもアクセスが良いので、2019年にKONDO RACINGがニュルブルクリンク24時間レースに参戦した際にスポットで呼んでいただくなど、チームの仕事以外にも理解を示してくださっていて、経験を積ませてもらっています。

──ル・マン24時間が目標だとおっしゃっていましたが、今もそれには変わりはありませんか?
木村:チームも僕がル・マンに行きたがっていることも、将来的にル・マンに参戦するチームへ移る可能性があることも理解してくれています。また、いまのチームに在籍しながらル・マン24時間レースにメカニックとして他のチームに派遣できないか、ということでチームオーナーやエンジニアたちが考えてくれている状態ですね。そんな感じでベルギー生活が3年目を迎えました。

■コロナ禍ではビザの苦労も
──ベルギーに来る前は、日本でどんなキャリアを積まれていたのですか?
木村:メカニックとしてのキャリアは、チーム・ルマンで始まり、セルモを経てスーパーGTやスーパーフォーミュラを経験させていただきました。当時はまだ富士SUPER TEC 24時間レースもなくて、日本で24時間耐久レースを経験することが難しい状態でした。耐久レースのメカニックになりたくていったんセルモを退社し、フリーランスになってからの2年間はアジアン・ル・マンやマカオGP等をやりながら、日本のチームの業務も請け負っている状態で、年間6~7カテゴリーをかけもちしながら、いろんなカテゴリの経験を積みました。

──さまざまな国の人々と仕事をする上で困ったことはありませんでしたか?
木村:アジアの国々の仕事をさせていただく中で、英語のスキルがまったくなかった自分にはヨーロッパのチームの就職先を探す上でそれがいちばんのネックとなっていて、これではいけないなと思い、そこでいったん仕事を全部休んで、語学の短期留学をすることにしました。留学から戻って、スーパーGTやスーパーフォーミュラにスポットで仕事をさせてもらっている時にたまたま出会ったのがこのブーツェン・ジニオンだったのです。

──新型コロナウイルスの影響で仕事にも影響はありましたか?
木村:昨年はいちばんコロナの状況が厳しく、ビザの申請中にいったん日本に帰国せざるを得ない状態にもなりました。去年の夏ごろにはベルギーから正式に就労ビザが発給されて、それからは正社員となりましたので、基本的にはブーツェン・ジニオン1本で仕事をしています。

──ヨーロッパのチームで働きたいというメカニックたちの話は聞きますが、実際にこれからヨーロッパで働こうと願っているメカニックにアドバイスをするとしたら?
木村:まだアドバイスをできるほどの経験を積んでいないのが実状ですが、まだいまはコロナの影響で就職活動はとても厳しい状況だと思います。特に外国であえて日本人を雇う理由を行政から指摘されるので、チームにどれだけ求められ、貢献できるのかということをチームが根気よく行政機関に説明し、経済的な証明も含めて正式に就労できるビザの発給までサポートしてくれるか、というところも大きなポイントだと思いますね。

 フリーランスビザにも大きな壁が沢山あると思いますし、ベルギーは他国言語の国ですので、どの地域で就労希望をするのかでも行政機関の対応も違うのではないでしょうか。

* * * * *

 単身でヨーロッパへ渡り、その腕と人柄が認められ、わずか1週間の内にチーフメカニックへと昇格した木村メカニック。「いつかはル・マンへ」という夢を求めて日本人メカニックとして活躍が楽しみでならない。

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みんなのコメント

5件
  • ティエリーブーツェン…懐かしい名前ですね
    F1ではベネトン、ウィリアムズ、リジェ
    ルマンては1999年トヨタで走ってくれましたね
    引退して飛行機の販売をしていると記事で見たことありますがまたレースの世界に戻ってきたんですね
    お元気そうで何よりです
  • 日本人?絶海の孤島からやってきたサバイバーみたいな顔だな
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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