すでに100名のパラモトライダーを輩出
事故や病気、または生まれつき身体に持った障がいによって、バイクに乗ることができない。もしくは、バイクを降りなければならなくなった人を対象にバイクの楽しさを認識してもらおうと、一般社団法人SSP(サイドスタンドプロジェクト)は「パラモトライダー体験走行会」を展開している。
広がりつつある「パラモトライダー」の輪。障害をもっていてもオートバイに乗れる体験走行会をレポートします
障がいに合わせてバイクをカスタム
サイドスタンドプロジェクトは、現在オートレーサーとして活躍している青木治親選手が立ち上げた団体だ。治親選手の兄である宣篤選手、拓磨選手とともに青木三兄弟として、ロードレース界では知らない人はいないレジェンドライダーで、1995年、1996年のロードレース世界選手権(WGP)GP125クラスで2度の世界チャンピオンに輝いている。
兄の拓磨選手がGPマシンのテスト中の事故によって脊髄を損傷し、1998年から車いす生活を余儀なくされている。その兄を再びバイクに乗せたいと、バイクに手元でシフト操作できるハンドシフトユニットを取り付け、周りが支えることでバイクに乗れるように企画した「Takuma Ride Again」を実施。実際に2019年に鈴鹿8時間耐久レースの直前イベントで青木拓磨選手のバイク走行を現実のものとした。
周囲に感動の渦を引き起こしたこの活動を、より多くの方にも知って体験してほしいと、「Takuma Ride Again」に続いて始めたのが「パラモトライダー体験走行会」である。毎回その障がいに合わせてバイクをカスタムし、さらにバイクを支えるボランティアスタッフを集め、拓磨選手と同様に脊椎損傷による車いす生活を余儀なくされている方から視覚障がいを持つ方まで、さまざまな方々を受け入れてきた。
「Let‘sレン耐」に参戦するメンバーも出てきている
「パラモトライダー体験走行会」は2020年の6月の初開催以来、このためだけに会場を借り切って、ボランティアスタッフみんなでバイクを支えながら、再びライダーとしてバイクにまたげる機会を創出してきた。
会場は、これまで「袖ケ浦フォレストレースウェイ」「富士スピードウェイ」「鈴鹿サーキット」「ホンダセーフティ&ライディングプラザ九州(HSR九州)」といったサーキット、そして「筑波サーキット」のオートレース選手養成所。さらには「群馬県自動車学校」「向ヶ丘自動車学校」「ファインモータースクール上尾」といった自動車教習所、ほかには「日本ミシュランタイヤ 太田サイト」や「さがみ湖リゾートプレジャーフォレスト」まで、各所から場所の提供を受けて開催してきた。
2022年9月には、一般道を借り切ってツーリングをするという大きな夢が「箱根ターンパイク」で実現した。さらにこの体験走行会を経て、ライダーとして再びバイクに乗り始め、ミニバイクレースであるLet‘sレン耐に参戦するメンバーも出てきている。この動きは大きな渦となり、協賛するサポーター企業も増えてききた。
青木治親代表が語るSSPの今後
そして、先日筑波サーキットで行われた25回目の体験走行会で、パラモトライダーの延べ参加人数がついに100名を超えることとなった。これについて、青木治親代表理事に話を聞いた。
「拓磨のプロジェクトを成功させた直後には、このサイドスタンドプロジェクトの構想を進めていて、2019年10月には法人を立ち上げていました。コロナの影響なんかもあったので、最初の体験走行会のスタートは2020年になってしまいましたが……いろんな方の協力もあって、これまで3年の活動をしてきました」
「僕らはバイクに乗ることが当たり前ですが、障がいを持った方はバイクに乗ることが当たり前ではない社会ですよね。今は教習所だったり、サーキットだったり、クローズドコースをお借りしながら、まずはバイクに乗ってみましょうという機会を作り開催しています。ですがパラモトライダーが求めていることは、昔のように公道で走ることです」
「現在はわれわれができることを最大限やりながら、公道で健常者の仲間と一緒にツーリングをする機会ももっと設けていきたい、と思っています。一度はバイクのツーリング仲間から外れてしまった人が、またバイクというツールを使って再びその輪に入っていく、それを目指していきたい、と思っています」
「昨年はアネスト岩田ターンパイク箱根をお借りして、初めてSSPのツーリングを実施しました。これからも箱根のツーリングを行っていきたいですが、箱根以外にも、北海道でも九州でも、他の自治体へも提案をしていきたいと思っています。たとえば自転車レースをやっているような一時的に道路を閉鎖することが可能なところで、健常者と障がい者が分け隔てなくみんなでツーリングできるような機会を今後も探っていきたいと思います」
健常者と分け隔てなく走行をする機会が、もっと数多く実現する、そんな日が来るのも近い。
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