マツダ渾身の技術として登場したSKYACTIV-Xエンジンだが、登場以降約4年間で搭載された車種は2モデルのみ。販売店筋では「近い将来、SKYACTIV-X車は生産中止に追い込まれるのではないか」と危惧しているとまことしやかに噂されているというが、その真相やいかに!?
※本稿は2023年4月のものです
文/国沢光宏、鈴木直也、写真/マツダ、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2023年5月10日号
登場から約4年で搭載車はわずか2モデル……マツダ渾身のSKYACTIV-Xは生産終了に向かうのか!?
■SKYACTIV-Xが全然売れていない!?
マツダがその持てる技術の粋を結集して開発した究極のエンジンがこのSKYACTIV-X。それが今、岐路に立たされている
驚いたことに最近、マツダ渾身の技術である圧縮着火エンジン、「SKYACTIV-Xは大失敗らしい」という話がジワジワ広まり始めているという。なぜ驚いたのか。そんなこと私は最初からわかっていたからだ。
そもそも発売前にSKYACTIV-Xのスペックを見た時点で「メリットあるの?」と私は書いた。そして価格が発表されるや、「売れるワケない」とさまざまなメディアでダメ押しした。このまま自然消滅に向かう可能性もある。
まず、販売状況をチェックしてみよう。マツダはSKYACTIV-X搭載車の販売比率を公表していないのだけれど、発売半年後で10%程度という話を聞いた。
現在、CX-30とマツダ3に搭載されているものの、そもそも搭載しているモデル数が少ないし、販売台数も少なく厳しい。販売比率は直近も10%と想像する。
走りのよさと燃費のよさを両立するとみられたSKYACTIV-Xだが、簡易型ハイブリッドの2Lエンジンと比較してもその差はわずか……
ふたつのモデルを合計して年間3万台程度。SKYACTIV-Xは10%なら年間3000台。月あたり300台以下ということになる。
今さら説明するまでもなく、SKYACTIV-Xが実用化した圧縮着火はエンジン屋さんからすれば夢のような技術。よくぞ市販できたと世界中のエンジン技術者から評価された。そういった意味じゃ開発責任者の人見光夫さんは凄いと言える。ただ、巨額の開発予算を使った。
そしてここからが大切なのだけれど、理想を追求するあまり驚くほどコストのかかったエンジンになり、一方その性能差はわずか。
圧縮着火のメリットであり、開発目標だった燃費は簡易型ハイブリッド搭載のCX-30がWLT/Lで大差なし。いや、後者はハイオク使用時の燃費であり、レギュラーだと差は縮まる。
それでいてエンジンを見ると、圧縮着火のほうが圧倒的にコストがかかっている。スーパーチャージャーも付いているし、リーンバーンなので触媒だって高価だ。
20万円差は開発コストを上乗せせず、部品代の差だけの価格設定だと思う(SKYACTIV-Xの発売当初は70万円ほど高い価格設定だったけれど売れゆきが伸びなかったため、途中で大幅値下げした)。開発予算、どうするんだろう。
■コストが高すぎたSKYACTIV-X
ガソリンとディーゼルのいいとこ取りをした、理想のエンジンというのが当初の狙いだったが、フタを開けるとどっちつかずという状態に……
意外だったのはCX-60にSKYACTIV-Xを搭載してこなかったこと。
ガソリンの6気筒についちゃ当然ながら圧縮着火だと思っていたら、日本市場ではラインナップされなかった。欧州仕様として販売されるという話を聞くが、開発コストを回収できるような台数かといえば難しいんじゃなかろうか。欧州の場合、エンジン搭載車の販売禁止まで秒読みに入っている。
圧縮着火エンジンは今後どうなるだろう? マツダ関係者に聞いてみたら「社内でも最初から商品としては厳しいという声が出ていた」と言う。
冷静になって評価すると、
1.燃費は5%いいけれど、リッターあたり11円高いハイオク仕様のため大差なし
2.プレミアム感やスポーティさを出すことも禁止されていたため、商品としての魅力が薄い
SKYACTIV-Xが絶版になるというウワサは当然だと思う。
■まだ伸びしろはあるはず!!
CX-30のSKYACTIV-Xエンジン搭載車。マツダ車のなかでスポーティエンジンという位置づけなら商品力は高くなると筆者は指摘する
では、本当に絶版になるかと聞かれれば「そんなことない」と考えます。
圧縮着火エンジンはまだ性能向上の余地を持つ。最高出力が200psを超えてくるようになると、高回転域での伸び感だって出てくることだろう。そうなったらスポーティエンジンという位置づけにすればいい。
今や企業間平均燃費(CAFE規制)のため、高性能エンジン搭載が難しくなってきた。圧縮着火なら両立できる可能性を持つ。
例えば提案として、圧縮着火エンジンを搭載するマツダ3やCX-30のエクステリアを派手にしたり、車高アップなどして存在感を出したりすることで商品力の大幅アップができるのではないか。
20万円高くらいなら売れるだろう。地味なマツダ3ながら、アメリカでは直4、2.5Lのターボエンジンを搭載してヒットさせた。巨費を投じて開発したエンジンなので、簡単に諦めてしまうのはもったいないと思う。(TEXT/国沢光宏)
■SKYACTIV-Xが抱える課題
新世代FRラージモデルの第1弾、CX-60。しかし、そのエンジンラインナップにSKYACTIV-Xの名はない
エンジニアと言われる人種は、許されれば誰もが目標を高く掲げて夢に挑みたいDNAを持っている。とは言うものの、世間はそんなに甘くないから、例えばコストの制約や商品性の課題など、現実の仕事では夢ばっかり語れない。
で、自動車メーカーでいえば、どのメーカーでも同じようなデザイン、同じようなメカニズムのクルマが造られることになる。
そんななか、どうもマツダにはちょっとほかの会社とはひと味違う、ある意味ヘソ曲がりな企業文化があるように見える。
そもそも、マツダが飛躍するきっかけとなったロータリーエンジンからしてそう。他社がすべて実用化を諦めるなか、粘り強く開発を続けて世界で唯一量産をモノにした。この強烈な体験がマツダの技術者に与えた影響は小さくない。
現代に至るまで「困難なテーマほど燃える」みたいなカルチャーが息づいているし、会社にもまたそれを許す風土があるように思えてならないのだ。
そんなマツダだからこそ生まれたのが、SKYACTIV-Xというエンジンだ。
ガソリンエンジン技術者の夢といわれたHCCI(予混合圧縮着火)という燃焼方式。同じ圧縮着火でもディーゼルは噴射ノズルから燃焼が始まるが、HCCIは燃焼室全体が同時に着火する。
理想的な状態でそれが実現できれば超希薄燃焼が可能だしノッキングも燃え残りも出ない。この「夢の燃焼方式」の実用化を目指したのが、SKYACTIV-Xだ。
■今後の展開は!?
2012年登場のCX-5から投入した尿素SCRを使用せず規制をクリアしたクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」をはじめ、チャレンジできる企業風土があることは大切ではある
ところが、これまた現実はそんなに甘くはなく、負荷変動の激しい自動車用エンジンで圧縮着火だけで全領域の燃焼をコントロールするのは無理。
スパークプラグの助けを借り、火花点火の火炎を「タネ火」として圧縮着火させるSPCCI(スパークプラグ制御圧縮着火)という技術を開発して、マツダはSKYACTIV-Xの実用化に漕ぎ着けた。
2017年の秋に、ぼくはこのSKYACTIV-Xのプロトタイプに試乗する機会を得たが、その魅力が一般のユーザーに伝わりにくいことに懸念を抱いた。
例えば、VTECが高速カムに切り替わった瞬間の高揚感とか、ターボエンジン特有のトルクの盛り上がりとか、そういう特別なエンジンだけの体験が用意されていない。
ディスプレイ上でSPCCIに切り替わってることを表わしているが、イマイチわかりにくく、オーナーに特別なエンジンであることを感じさせるプラスアルファが足りていない
ユーザーは小さなLEDが点灯して圧縮着火モードに入ったことを知るわけだが、ぼくみたいなヲタクでないとその技術的凄みをわかってもらえないのだ。
もちろん、SKYACTIV-Xの本質は熱効率の向上だから、ユーザーが納得する燃費性能が実現すれば問題はないのだが、SPCCIは負荷変動に応じて圧縮着火と火花着火を行ったり来たりするため、燃費はドライバーの走り方に大きく依存する。
結果、ハイブリッドほど誰でも好燃費がマークできるわけではなく、燃費面でもアピール度が弱いという物足りなさが残る。
ただ、商品性という点では苦戦しているが、夢にチャレンジし究極の燃焼精度を達成したことは、マツダにとって大きな資産。最新の直6ディーゼルの素晴らしい燃費性能など、地味なところに貢献していると思いたいなぁ。(TEXT/鈴木直也)
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みんなのコメント
蓋を開けてみると大したことなかったってのが1番だろうね。
思ったよりパワー出ないぞ・・・せや!スーチャー付けたれ!
それで出来上がったのが中途半端な性能で値段だけが高いエンジン
本末転倒ですな