ほぼ完全に新しいアップデート後のe-トロン GT
滑らかなアウトバーンを、185km/hで疾走する。アップデートを受けたアウディe-トロン GTは、無敵感がすごい。2021年の発売時から、落ち着いた雰囲気が気に入っていたが、これほどではなかった。
【画像】ほぼ「完全に新しい」 アウディ S e-トロン GT 競合クラスの電動サルーンと比較 全168枚
とはいえ、バンパーを除いて、ボディパネルは基本的に変更されていない。アウディの電動フラッグシップらしい、広々とした車内空間も変わらない。ダッシュボードの化粧トリムなど、オプションの選択肢が大幅に増えた程度だ。
しかし、そんな見た目に騙されてはいけない。同社の研究開発部門を率いるステファン・ライル氏が「ほぼ完全に新しい」と主張するほどの、改良を受けている。こうして高速移動していると、その言葉に疑う余地はない。不気味なくらい先進的に思える。
3年前の英国価格は、約8万5千ポンドだったが、現在は約11万ポンド(約2112万円)へ上昇した。これを正当化するものの1つが、新しい駆動用バッテリーだ。
ユニット全体で625kgあるものの、従来より9kg軽く、容量は93kWhから12%増しの105kWh。航続距離は601kmが主張される。アップデート前の現実的な距離は390km前後だった。晴れて、「GT」を名乗るモデルとして不足ない持久力を得たといえる。
急速充電も、最大270kWから320kWへ強化され、300kW前後での充電へ長時間対応している。従来のユニットは、理想的に充電できる内部温度が5℃だったらしいが、新ユニットではその範囲が広げられたという。
最短で、10分当たり約280kmぶんの電気を蓄えられる計算になる。理論上では。
30kg軽い新モーター インテリアはほぼ不変
もちろん、高速にもなっている。今回試乗したベーシックなS e-トロン GTでも、ツインモーターで680ps。現行のアウディRS6 アバントより、速いと感じるほど。RS e-トロン GTは857psで、RSパフォーマンス e-トロン GTでは925psへ上昇する。
凄まじい馬力だが、バッテリーEVの場合、パワーアップはさほど難しくないようだ。リアアクスルの2速ATに変更はなし。239psのフロントモーターも、基本的にはキャリーオーバーとのこと。
リアモーターは新ユニット。長さが192mm、直径は230mmの円柱形で、従来品より30kg軽いという。
ドアを開くと、アップデート前と殆ど変わらないインテリアが現れる。緩やかにカーブしたダッシュボードや、高めのウインドウラインはそのまま。スーパーサルーンとスポーツクーペを足して割ったような雰囲気がある。
頭上には、パノラミック・ガラスルーフ。液晶ポリマーガラスで、透明度をボタン1つで変えられる。サイドサポートのしっかりしたシートは調整域が大きく、座り心地が良い。前方視界も広い。
アウディらしいデザインのステアリングホイールは、リムの上下がフラットに。技術的に兄弟関係にある、ポルシェ・タイカンより直径は僅かに小さい。
スポーク部分には、新しいタッチパネル。複数の機能へ対応するが、従来の、実際に押せるボタンの方が扱いやすいと思う。
モニター式のメーターパネル、バーチャルコックピットと、ダッシュボード中央のタッチモニターのグラフィックは更新。表示内容の変更範囲も広げられた。
めっぽう速い680ps 新サスペンション獲得
さて、ドイツの公道へ出てみると、先述の通り680psだからめっぽう速い。バッテリーEVらしく、太いトルクが即座に立ち上がる。
トップモデルのRSパフォーマンス e-トロン GTには、より緻密にパワーを分配し、鋭い加速を生むモードも備わるが、その必要性を感じないほど。欲した時に求めれば、不満ない速度上昇を召喚できる。
ダイナミック・モードを選択すると、リアアクスルの2速ATがシフトダウンするのがわかる。あえて、メカニカルな感触を与えているのだろう。
ブレーキペダルの印象は、大幅に良くなった。それでいて、回生ブレーキの強さも290kWから約400kWへ強化されている。
こんな動力性能もさることながら、アップデート後のe-トロン GTで最大のトピックが、ポルシェと共同開発されたアクティブ・サスペンション。電動アクチュエータで、ダンパー内のフルードの流れと圧力を変化させるシステムだ。
ドアを開くとボディが70mm持ち上がり、乗降性を良くしてくれる。もし不要なら、オフにもできる。
カーブへ侵入すれば、ボディを僅かに傾けることで、ボディロールを最大2度まで相殺。加減速時は最大25mm、前後方向のピッチを抑えてくれる。全体の上下動、スクワットも同様だという。
運転していると、その仕事ぶりを明確に実感できるわけではない。とはいえ、乗り心地が素晴らしいことは間違いない。波長の長い揺れはしっかり抑え込まれ、不思議なほどフラット。メルセデス・ベンツSクラスより上質かも。
アウディらしい高速バッテリーEV
21インチ・ホイールを履いていても、低速域での制御は見事。歩道の段差を超えても、
揺れを殆ど車内へ伝えない。高速道路では、陥没部分や隆起部分を平然といなす。魔法のような技術だ。
僅かにクイックになったステアリングは、最新サスペンションと相乗し、一層レスポンシブ。同時に安定性も高く、トラクションは濡れたアスファルトでも揺るぎない。
ドライバーが意図すれば、テールを外に流すことも可能だが、きっかけを与えない限りタイヤは路面を掴み続ける。トラクション・コントロールを弱めなければ、どんなにアクセルペダルを蹴飛ばしても、グリップを保ち一心不乱に突進し続けるようだ。
ちなみに英国仕様の場合、アクティブ・サスペンションはフォルシュプルング・グレードのみ実装可能。それ以外では、従来のアダプティブ・エアサスペンションの改良版が組まれる。
S e-トロン GTでフォルシュプルングを指定すると、英国価格は13万ポンド(約2496万円)に達する。後輪操舵システムなど、多くの機能も盛り込まれるが。
アップデートを受けた、e-トロン GTの第一印象はかなりイイ。新しいハードウエアが、アウディらしい高速バッテリーEVを完成させたように感じた。
◯:大きなサイズでありながら驚異的な公道での速さ 洗練されたアクティブ・サスペンション 従来以上の航続距離と急速充電能力
△:ロータス・エメヤより狭めのリアシート ベース仕様でも11万ポンド(約2112万円)に迫る英国価格
アウディ S e-トロン GT(欧州仕様)のスペック
英国価格:10万7730ポンド(約2068万円)
全長:4997mm
全幅:1964mm
全高:1389mm
最高速度:244km/h
0-100km/h加速:3.4秒
航続距離:601km
電費:5.4km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2310kg
パワートレイン:ツイン永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:105kWh
急速充電能力:320kW
最高出力:680ps
最大トルク:75.3kg-m
ギアボックス:1速リダクション(前)+2速オートマティック(後/四輪駆動)
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