■軽商用車を製造するのは2社でも8社が販売している
クルマにはさまざまなカテゴリーがありますが、いまは軽自動車が売れ筋となっており、国内で新車として売られるクルマの40%近くを占めます。
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そして軽自動車のなかでも販売比率がとくに高いのは「軽商用車」です。
2021年に軽商用車は1か月平均で3万台以上が販売され、商用車全体の約半数を占めました。軽商用車は軽乗用車よりも普及率が高く、日本の物流を支える大切な存在といえます。
そんななか、2021年12月に軽商用バンのダイハツ「ハイゼットカーゴ」と「アトレー」(以前はワゴン)が、フルモデルチェンジをおこないました。同時に「ハイゼットトラック」も、マイナーチェンジを実施しています。
そしてハイゼットとアトレーがモデルチェンジすると、トヨタ「ピクシスバン/ピクシストラック」、スバル「サンバーバン/サンバートラック」もモデルチェンジをおこないます。
その理由は、ピクシスやサンバーは、ダイハツが供給するハイゼットのOEM車だからです。
軽商用車の分野ではOEMが普及しており、スズキ「エブリイ」や「キャリイ」も、日産、マツダ、三菱に供給されており、製造メーカーのスズキを含めると、国内8社の乗用車メーカーのうち4社が実質的に同じ商品を扱っています。
そしてハイゼットカーゴ、アトレー、ハイゼットトラックの届け出台数を合計すると、2021年の1か月平均は約1万3000台に達します。そこにOEM車を加えると1万5000台を上まわり、軽自動車でもっとも販売されているホンダ「N-BOX」の1万6000台に迫るという状況なのです。
スズキも同様です。エブリイとキャリイの届け出台数を合計すると、2021年の1か月平均は1万台少々でしたが、そこに日産、マツダ、三菱に供給するOEM車を加えると約1万5000台です。
このように、ダイハツとスズキの軽商用車の売れ行きは軽乗用車の人気車並みに高く、OEM車も加えると販売1位に匹敵するのです。
それにしても、なぜ軽商用車ではここまでOEMが発達したのでしょうか。
スズキ・日産・マツダ・三菱に対して、ダイハツ・トヨタ・スバルがそれぞれ軽自動車OEMの2大グループを形勢しており、残りはOEMに消極的なホンダだけです。
軽商用車でOEMが発達した背景には複数の理由がありますが、筆頭は軽商用車が薄利多売の商品であることです。
ハイゼットトラックは、耐久性の優れた積載機能と横滑り防止装置などの安全装備を標準装着して、もっとも安いグレードの価格を90万2000円に抑えています。
キャリイKCは、パワーステアリングやエアコンを非装着にして、価格を75万2400円まで下げました。
このような低価格車では、大量に生産して1台当たりのコストを下げる必要が生じます。ダイハツとスズキが製造する軽商用車は、前述の通りOEMを含めると1か月に1万5000台に達します。ここまで大量に生産しないと薄利多売の軽商用車は成立しないのです。
日産と三菱は、軽乗用車の「デイズ」「ルークス」、「eKシリーズ」を両社の提携で手掛けていますが、軽商用車はスズキ製のOEM車を導入しています。
軽乗用車は価格が相応に高いために成り立ちますが、軽商用車では無理です。表現を変えると、低価格の軽商用車が生き抜くためには、生産台数を増やせるOEMが不可欠ということなのです。
そうなると「基本的に同じ軽商用車なのに、OEM車の需要があるのか」という疑問も生じるでしょう。
例えば、現在のスバルは、水平対向エンジンを搭載した3ナンバー車が主力で、ブランドイメージとして「走りの良さ」をアピールしています。マツダもカッコ良くて運転の楽しいクルマをそろえています。
その一方で、ブランドイメージが大きく異なる、儲けの少ないOEM軽商用車を導入する必要があるのでしょうか。
その理由は、スバルとマツダの過去を振り返るとわかります。
両社ともかつては乗用車を含めて軽自動車を手掛けていました。その後、経営効率を高める目的で薄利多売となる軽自動車の開発・生産から撤退しましたが、販売まで終了するとユーザーを逃してしまいます。
クルマは購入後の車検や修理、保険の取り扱いなどでも利益を得られるため、販売会社はユーザーを繋ぎ止めておくことからOEM車を導入しました。
とくに最近の売れ筋は軽自動車やコンパクトカーとなっており、クルマを1台販売して得られる粗利は以前に比べて減りました。
そうなると自社製品を購入した顧客に、さまざまなサービスを提供して利益に結び付けることが重要になります。顧客の流出を防ぐOEM車は従来以上に大切になりました。
■ユーザーがOEM車を購入するメリットとは?
さらに、OEMを利用しないで軽自動車の取り扱いを完全に終了すると、ユーザーは他社から購入します。
例えばマツダ車を使っていた法人がスズキの販売店から軽商用車を購入すると、その後のスズキの販売活動次第では社用車として使っていた「マツダ2」が「スイフト」に替わることもあるでしょう。
販売会社は自社の顧客を他社とは接触させたくないので、OEM車の導入によりユーザーを囲い込みたいのです。
軽自動車の話ではありませんが、マツダがミニバンの「プレマシー」や「ビアンテ」を廃止したとき、販売店からは「トヨタと業務提携を結んだのだから『ヴォクシー』のOEM車を導入して欲しい」という意見が聞かれました。
とくにプレマシーは堅調に売られ、保有台数も多かったので、販売店は顧客の流出を防ぎたかったのです。
しかしマツダは手を打たず、プレマシーやビアンテ、背の高いコンパクトカーの「ベリーサ」などの顧客が少なからず流出しました。それがマツダの国内販売を低迷させた一因にもなっています。
さてOEM車は、ユーザーにどのような利益をもたらすでしょうか。
スバルが自社で開発と生産をおこなっていた以前のサンバーは、4輪独立懸架の採用で乗り心地が優れ、荷物にも優しい軽商用車でした。
デリケートな果物を積み、デコボコの激しい農道を走るのに最適でした。エンジンは4気筒で後部に搭載され、運転感覚が滑らかで静粛性も優れています。乗員にも快適な軽商用車でした。
このスバル製サンバーがダイハツのOEM車に切り替わったときには、ユーザーから惜しむ声が多く聞かれました。
スバルは「軽自動車の開発と生産から撤退して、水平対向エンジン搭載車に集中させたことは、経営上のメリットが大きかった」と述べましたが、異なる見方をするユーザーも多かったです。
OEM車への切り替えは実質的にユーザーの選択肢を減らすので、好ましい変化ではありません。
しかしそのOEM車まで導入されないとユーザーは別の販売会社を見つけて、不慣れな相手と商談する必要が生じます。
販売店が遠方にある場合は、一層不便です。完全に廃止されるのに比べると、OEM車を用意することはメリットになります。
日産はもともと軽自動車を扱っていませんでしたが、「日産車ユーザーの20%以上が軽自動車のセカンドカーを保有する」というデータに基づき、2002年にスズキ「MRワゴン」のOEM車を日産「モコ」として導入しました。
その後、三菱と合弁会社を立ち上げて軽乗用車の開発と生産をおこなっていますが、軽商用車は前述の通りスズキ製のOEM車を導入して、日産では1か月平均約3000台を販売しています。
都市部にはダイハツとスズキの販売店が少ないので、日産がスズキのOEM車を扱うことにより、軽商用車を購入しやすくなりました。
このようにOEMには欠点もありますが、日本の軽商用車を支える上で大切な流通システムになっています。
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