600eは1台で多用途に使えるチャーミングなBEV
フィアット・ブランドとして約1年半ぶりのニューモデル、600e(セイチェント・イー)がデビューした。位置づけは従来の500Xの後継車というイメージだ。内容的には並行して開発されたジープ・アベンジャーとの共通性が高く、現在のラインアップはBEVの最上位グレードのみ。価格は585万円とアベンジャー比で5万円高い。
新型電気自動車のフィアット600eが発売。車両価格は585万円に設定
日本でも知名度の高い500に対し、600はあまり馴染みがない気がする。だが海外ではメジャーな存在である。初代500(1936年登場/通称トポリーノ)の後継として1955年にデビューし、RRレイアウトと小排気量4気筒の組み合わせで高い人気を博した。
最新の600eは500eと同様に先進のBEVである。往年の初代600と現500eのテイストを盛り込んだデザインをまとって登場した。造形は丸みのあるフォルムに半目のライトなど愛らしく個性的。各部に配されたブラックのアクセントや凝ったデザインのダイヤモンドカットのアルミホイールも印象的だ。
3色から選べるボディカラーの中で、新色のサンセットオレンジはとくによく似合う。カジュアルなイメージを一段と引き立てる純正アクセサリーパーツが豊富に設定されているのもうれしい。
アイボリーを基調とするインテリアは居心地がいい。丸形のメータークラスターや2スポークステアリングホイールなど初代600に由来する要素が散りばめられており、大きなロゴと鮮やかなステッチが入ったエコレザーを用いたシートもおしゃれだ。運転席はブランド初のアクティブランバーサポート機能(マッサージ機能)付き6WAYパワーシートを標準で装備する。
また、車両の周囲3m以内に接近すると自動解錠し、1m遠ざかると自動施錠する、プロキシミティセンサー付きキーレスエントリーと、リアバンパー付近に足を入れると開くハンズフリーパワーリフトゲートの採用もともにフィアット初である。
ラゲッジルーム容量は後席使用時で360リッターと、けっこう広い。リアシートを倒すと最大で1231リッターにもなる。広い後席に迎えるゲストのために、エアコン送風口がないのは少し残念に感じた。
取り回し性の良さとしなやかな乗り心地が魅力。走りもいい
パワートレーンは、156psのモーターに54kWhのリチウムイオンバッテリーを組み合わせており、一充電航続距離はアベンジャーよりも7km長い493kmを実現した。
ドライブフィールは動きが素直で乗りやすい。ステアリングは軽く、ボディサイズが4200×1780×1595mmと適度なので取り回しがよく、狭い道でも臆することなく走れる。足回りはしなやかな設定。乗り心地の硬さを感じさせないところは好印象だ。
動力性能はいまどきのBEVとしては控えめだが、実力としては十分以上。日常的に使う低速域はなかなか力強い。トルクステアが顔を出す場面もあるほどだ。
車速が出ている状態からの再加速でのレスポンスは俊敏なのだが、アクセル開度が小さい状態から素早く踏み込むとタイムラグを感じるときがある点は少し気になった。おそらく急激な入力による機構的なダメージをできるだけ与えないようにという配慮と思われる。
10.25インチの大型タッチパネルは、スマホとの連携が強化され、アプリを介して車両の遠隔操作ができる。運転支援機能も充実していて、任意の車線を設定すると、その位置を維持するフィアット初のレーンポジションアシスト機能が搭載された。
600eは「かわいい顔して、しっかりモノ」というキャッチコピーどおり実用性や装備類も申し分ない。BEVに興味があり、おしゃれでカジュアルなクルマが好き、実用性もそれなりにほしいという人にはぴったりのクルマだ。
500eに興味があったもののドアの枚数や車内の狭さでこれまで手を出せなかったという人も、600eなら本気で検討できる。5ドアで後席の居住性もまずまず。ラゲッジも十分に広い。充電できる環境があるならファーストカーとして通用しそうだ。大柄な輸入SUVを愛用している富裕層で、何か個性的なセカンドカーを探しているようなユーザーにも、お勧めしたくなる1台である。
600eに対するCEV補助金は65万円。一方、デザインとパッケージングで大いに惹かれるがBEVに抵抗があるという人は、そう遠くないうちに導入されるHEV版を待つ価値がある。
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