もくじ
ー 両極の非日常
ー 古典的なFRスポーツカー
ー 価格差の正当性
ー ただならぬ雰囲気
ー 髪の毛が逆立つほどの加速
ー 普通のコルベットとは似て非なるZR1
ー 激烈だが制御できるパワー
ー SVを十分に追い回せる
両極の非日常
今回のような組み合わせでは、スペックの数字比べはネタとしてあまりおもしろくはない。それよりも後頭部の毛が逆立つようなスピードで荒涼とした風景のなかを走り抜けたときに、いかに高純度な興奮と緊張が得られたかによって雌雄を決するべきだろう。
とはいえ、そこには押さえておくべき重要な数値もある。メインイベントが始まる前に、この対決の意味について考えていただくための予備知識としては、けっこう役に立つはずだ。なにしろ2台で馬力が1317ps、最高速度が672km/hに達する対決など、そうそうあるものではない。
互いの数値を並べて見比べると、分かってはいても壮観だ。一見、とてつもなく巨大に映る外観からすると驚くほど絞り込まれている車重(ムルシエラゴは1565kg、コルベットは1508kg)を別にして、そのほかの数値はすべて、思わず笑いがこみ上げてくるほど無駄に大きい。
たとえばパワーはムルシエラゴが670psでコルベットが647ps、トルクは同じく67.3kgmと83.5kgm、排気量は6496ccと6199cc、リアタイヤのサイズは335/30R18と325/25R20だ。その代償である混合サイクル燃費の4.85km/ℓと6.66km/ℓだとか、CO2排出量の480g/kmと355g/kmといった数値も目を引く。
しかし、今回の対決において真に重要なのは、ムルシエラゴの428ps/tに対して429ps/tを叩きつけたコルベットの馬力荷重比である。コルベットZR1の速さがどれほど暴力的で、その対戦相手としていかにムルシエラゴSVがふさわしいかが、この数値で理解できたのではないだろうか。
古典的なFRスポーツカー
ゼネラルモーターズがハーリー・アールの手によってデザインされた初代コルベットを発表したのは1953年のことだ。それ以降、現在にいたるまで、コルベットは小細工なしで真っ向勝負のシンプルなスポーツカーという立ち位置を貫き続けてきた。6代目になってなお、その基本的な文法は何も変わっていない。大排気量のパワフルなV8OHVエンジンをノーズに積み、シートは2座で、それなりに実用的なラゲッジスペースを備えた後輪駆動車のままである。
しかしこのZR1では、そうしたレシピを忠実に守りながらも、スパイスはノーマルより多めに効かせてある。もともと塩コショウで味付けしてある料理に、上からさらに粗挽きコショウを振りかけたようなメニューと言えるかもしれない。この場合の粗挽きコショウとは、6.2ℓV8にアドオンされた機械式過給器である。
小さな町の街灯すべてを照らすための発電量を得られそうなほど膨大なパワーをその長く低いボンネットの中に得たにもかかわらず、依然としてそれを路面に伝達するのは後ろの2輪のみだ。そのボンネットはカーボンファイバー製で、ZR1の外見上でいちばん目立つ識別点として機能している。
もっとも、そのボンネットにポリカーボネート製のパワーバルジが設けられていて、エンジンベイが見えるようになっているのはいささかやり過ぎの感がしないでもない。しかし、ZR1が変にくどい味付けでデザインされているのは、おそらく現在もっともお買い得のスーパーカーだからだと考えれば、これも許せる範囲だろう。
価格差の正当性
Z06から相対的に計算すると約1400万円に達するZR1の価格は、コルベットとしてはかなり欲張った値付けに思えるかもしれない。だが、今回その隣に並ぶのは、4700万円のムルシエラゴSVなのだ。純然たる動力性能で僅差の接近戦になるであろうポテンシャルを考慮すると、実は史上希に見るバーゲンプライスだとわかる。
一方のムルシエラゴSVは、この種のスーパーカーのなかでも数少ない、すべての常識的価値観を完全に超越してしまった一台である。究極のクルマのそのまた究極のバージョンともなれば、コルベットの軽く3倍以上の価格もほとんど(まったくではない)問題にはならないだろう。
ムルシエラゴSVがランボルギーニの持てる技術力をすべて注ぎ込んだマシンであることに、疑問の余地はない。サンタアガタのエンジニアたちは自らのテクニックのすべてをこのクルマに、しかも可能な限り徹底的に投入した。ルーフとドアを除いたボディパネルはカーボンファイバーに置き換えられ、今なお偉大なエンジンとして賞賛の声が絶えない同社伝統のV12も、さらなる高みへと押し上げられているのである。
ただし、元の出力との比較では、向上幅自体は5%に満たない。だが、そのエンジンが載せられるのが予想をはるかに超える軽量化を達成したボディとなれば話は別だ。通常モデルのLP640から100kgも削り取られた車両重量によってSVの実質的な動力性能はすべての面で大幅に強化され、もはや別次元にあると言っていい。
ただならぬ雰囲気
ZR1も含め、およそ思い出せる限りのどんなスーパーカーにも増して、乗り手に自らの意志を確認にせずにはいられなくしてしまう迫力が、ムルシエラゴSVには備わっている。
このクルマをひと目見た瞬間、「自分は本当にこのモンスターに乗る覚悟ができているのか? シザースドアを開け、正気の範囲外にあるマシンを乗りこなす準備はできているのか? それに失敗したらどうなるのか本当にわかっているのか?」──などと自問せずにはいられない。
威嚇的なのは、その巨大さがもたらしているというよりも、むしろ細部に仕掛けられた視覚効果によるものだ。新デザインの大振りなリアウィング、クルマの脊梁部を覆っている恐竜の背びれのようなダイヤ形をしたグラスエンジンカバー、クルマの前に立つのを躊躇させるほど鋭く突き出した新設計のフロントスプリッターなどが、いずれもただならぬ雰囲気を漂わせている。
しかし、実際のSVは、決して外見から想像されるほどのモンスターなどではない。eギアの操作は初心者にとっても簡単だし、クラッチ操作が自動化されているのでエンストの心配はまったくない。少々うるさいが乗り心地はスムーズだし、スロットルペダルには適度な重みがあるので不用意に踏み込んでエンジンの意図せぬ爆発的反応に驚かされる心配もない。
髪の毛が逆立つほどの加速
ステアリングは少々軽めで、非常にダイレクト感が強く、素晴らしく正確で、そしてなにより荒れた路面でもキックバックに悩まされたりするような場面がまったくない。舗装状態の良好な1級国道を軽く流してみれば、むしろとても洗練されたクルマだという印象を抱くだろう。
ところが、ストレートで右足に力を込めた瞬間に、世界は一変する。ウインドウ越しの風景すべてが一気に流れ始めるのだ。
SVがその本性を露わにするのは5500rpmを超えてからである。本来の凶暴性がむき出しになり、そこからレッドゾーンに達するまでにはほとんど心臓の1拍か2拍分くらいの時間しか要しない。
そして、あまりの集中力に襟足あたりの髪の毛が逆立ち始め、「ギアを1段上げてこの狂気の走りをキープし、地平線に向かって未知の領域に到達するまで加速を続けるか? それともすでにスピードメーターの針がとんでもない数字を示しているし、そろそろスロットルを戻してひと息つくべきか?」という決断を迫られるのだ。
もっともそれも、これから起こるさらにショッキングな体験からしてみれば、単なる前座でしかない。タイトコーナーから2速で可能な限りハードに立ち上がり、吹けきると同時に3速にシフトアップして、圧倒的に強烈なエグゾーストサウンドと腎臓が加速Gでシートにじんわり押しつけられていく感触を楽しんでいるその刹那、ふとルームミラーに目をやると、そこにはブルーのコルベットがいっぱいに映っているのだ──。
普通のコルベットとは似て非なるZR1
繰り返しになるが、ZR1は普通のコルベットとはまったくの別物だ。確かに、自慢のバケットシートも身を収めてしまえばドライビングポジション自体はノーマルとほぼ同じであり、ウィンドスクリーン越しに見える長いボンネットにリアアクスルの真上に座っているかのような感覚を覚えるのも変わらない。
しかし、エンジンを始動して走り出した瞬間、ZR1はわれわれの知るコルベットではなくなる。はるかにシリアスで圧倒的なフィールは、あのZ06すら比較対象にならないほど決定的にかけ離れているのである。
大幅に改善された乗り心地、剛性感の高まったステアリング、そしてタイトなボディコントロール──ZR1のフィールは、これまでのすべてのコルベットが届かなかった水準に到達している。それはスロットルペダルを踏み込んでわずか数秒で感知できる事実だ。だが、ZR1とそれ以外のコルベットを隔てる真の違いを知るには、もう少し右足を踏み込み続ける必要がある。
スーパーチャージャーを搭載したにもかかわらず(あるいは反対にそのおかげなのかもしれないが)、スロットルの反応はきわめて俊敏だ。フルスロットルにしようものなら弾かれたように軽々と前方に飛び出していく。
激烈だが制御できるパワー
だが、1速以外のギアを選び、路面がドライである限り、トラクションは決して破綻しない。そして4000rpmあたりに達するとZR1は、ムルシエラゴSVと同様、凄まじいまでに圧倒的な、あるいは常軌を逸した反応を示す。
それまで普通のコルベットと基本的には変わらないゴロゴロとした音を発していたバルブの挙動が突如として様相を変え、エッジの効いたトランペットのごとくエグゾーストを奏で始めたらそれが合図だ。
それまでも十分に激烈だったはずの加速がもう1段強烈さを増し、ようやくZR1が本当の速さを披露してくれるのである。あとはムルシエラゴに勝る馬力荷重比を信じ、ストレートでならたとえわずかでも前に出られるはずだと祈りながら、とにかく走り抜くだけだ。
しかし、ZR1を走らせるなかでもっとも驚かされたのは、ボンネットの中にある重量とパワーをしっかりと制御できているということだ。シャシーの設計は昔ながらで、しかも駆動するのは後輪だけなのに、少なくとも路面がドライであればきわめて安定しているだけでなく、気が向けば思い切り振り回して楽しんだりもできる、優れたプラットフォームに仕上げられている。
SVを十分に追い回せる
このクルマの美点は、シャシーとステアリングのしっかりとしたバックアップのもとで、途方もない動力性能をとことんまで味わいつくせるところにある。今までさまざまなエボリューションモデルに乗ってきたが、そのなかでも最高の「成り上がり」だと、敬意を込めて評価したい。
確かにクルマそれ自体を比べたら、ムルシエラゴSVの圧勝だ。これだけ複雑にして精緻なスーパーマシンを前にしたら、あまりにも単純明快なコルベットが比較の対象にすらならないのは仕方のないことだろう。ZR1が総合的な運動能力でムルシエラゴSVに勝てるはずもない。
だが、これほど複雑にして精緻なスーパーカーを相手に、ストレートさえ長ければという条件付きだとしても、これほどシンプルな古典的スポーツカーが追い回せるのだから、十分にその価値があると言ってもいいのではないか。それに、ある意味でZR1はSVを超えている。それは予期せぬ驚きに満ちた刺激的な楽しさである。
どちらをガレージに入れておくほうがより幸福になれるかは、なによりも皆さんがお持ちの根性と銀行口座次第である。確実に言えるのは、どちらも究極の非日常を体験させてくれる素晴らしいマシンであるということだ。
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