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なぜ「SLS AMG」は比類なきスポーツカーだったのか? メルセデス・ベンツとAMGが注いだコスト度外視の革新的技術とは

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なぜ「SLS AMG」は比類なきスポーツカーだったのか? メルセデス・ベンツとAMGが注いだコスト度外視の革新的技術とは

安全性にも一切妥協しない

1950年代に一世を風靡した、メルセデス・ベンツ「300SL」ガルウイングクーペの再来とうたわれたのが、2009年9月にフランクフルトモーターで発表された「SLS AMG」です。このSLS AMGの特徴は、メルセデス・ベンツとAMGの両ブランドの強みを活かしたスーパースポーツカー。つまり、いまやメルセデス・ベンツの伝説となった300SLガルウイングのスタイルにAMGの技術を注ぎ込み、理想的な形で融合させて現代に蘇ったのです。スーパースポーツカーでありながら、安全性にもこだわっているSLS AMGのパッシブセーフティをあらためて解説します。さらに、どれだけこだわっているのか注目ポイントも紹介。スーパースポーツは速さだけではダメなのです!

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事故が起こった後の被害を最小限に止める安全性も徹底追求

メルセデス・ベンツ「SLS AMG」の専用に開発されたボディシェルは、96%がアルミニウムで構成されており、軽量であるばかりか高剛性も実現しており、利点としては、スーパースポーツとしての走行性能を追求しながらも最高水準の受動的安全性能(事故が起こった後の被害を最小限に止める安全性)を誇っていること。Aピラーにはスチール(熱間圧延の極超高張力鋼板)を使用することで、横転時や衝突時の安全性を高めている。アルミニウムを主体とした軽量かつ低重心なボディシェル構造を基本としながらも、各素材を適材適所で使い分けることにより衝撃吸収・拡散をより効果的に行っているのだ。

どの部分にアルミニウムが使用されているか示した図面を見ると、アルミニウム押し出し材(削り出し材)で45%、アルミニウム板材パネルで31%、鋳造アルミニウムで20%という構成。スチールはわずか4%となっているが、先述のごとく、横転時や衝突時の安全性を高めるためにAピラーに熱間圧延の極超高張力鋼板が使用されている。

フロント衝突時の衝撃吸収・拡散は次の通りである。長いボンネットからより後方にエンジンを配置したレイアウトによって、フロントに大きなクラッシャブルゾーンを確保。またフロントの衝撃をボディのセンター、ボディの下部、ボディの両サイド、さらに、Aピラーを通してルーフおよびサイドドアへと拡散する構造になっている。

サイド衝突時の衝撃吸収・拡散は冷間圧延の高張力鋼板を使用したサイドインパクトビーム(補強材)が衝撃を受け止め、サイドボディ上部から下部へと衝撃を拡散させる。

最高水準の安全装備としては3点式シートベルト、シートベルトテンショナー、ベルトフォースリミッター、合計8個のSRSエアバックを採用。衝撃の大きさに応じて膨張具合を変化させる2段階式エアバッグは運転席と助手席に採用している。さらに運転席と助手席の両方へニーエアバッグを採用し、衝撃時にドライバーや助手席側の乗員の身体が前方へ移動することを防ぎ、シートベルトとSRSエアバックの効果を最大限に活かすことが可能に。シート内蔵サイドエアバッグ×2個とドア内蔵エアバッグ×2個は、側面衝突時に乗員がドアやルーフライニングに衝突するのを防いでくれる。

ガルウイングドアの安全性

SLS AMGの特徴であるガルウイングドア独自の安全性としては、クラッシュアクティブ・エグジット・エイドが装備されている。ガルウイングドアのヒンジ部に少量の火薬を内蔵し、万一の事故の際に車体が横転した場合、SRSエアバッグのコントロールユニットからの信号でガルウイングドアのヒンジ部の火薬が点火する。

そうすると車体とヒンジの結合が解除され、救助隊がドアを取り外せるようになっており、迅速な救助活動をサポートする。さらに、ガルウイングドアは安全のため50km/h以上で走行中にはオートロックされる。つまり、ガルウイングドアは構造上走行中でも容易に開くため、安全機構を備えて安全性を確保している(通常のドアは風圧がかかるために開かない)。

また、ガルウイングドア内側にサイドピンが備わり、側面衝突時にはサイドピンとサイドインパクトビーム(補強材)がボディへの衝撃を効果的に分散する。これだけの安全性が投入されたSLS AMGは、そのポテンシャルとともに最先端の安全性能が認められ、2010年からSL 63 AMGに代わってF1世界選手権シリーズのセーフティカーに抜擢されている。

SLS AMGのためにニューカラーを設定

SLS AMGのボディカラーは、専用の9色が設定された。標準カラーは「197 オブシディアンブラック」と「775 イリジウムシルバー」の2色のみ。ほかの7色はすべて有償オプション(30万円から150万円)となっている。その中で最もユニークなカラーは、「AMGアルビームシルバー」だ。

新しい加工プロセスにより液体金属のような光沢を放ち、ボディを金属の皮膚のように包み込むことで、ガルウイングの魅力的なデザインラインをほかのペイントより強調するとともに、光の反射の加減によりデザインラインを一段と生き生きと見せる効果を生み出している。なお、この効果は直径30~50ナノメ-トルの微小な色素によってもたらされている。

このアルビーム塗装は大変に手間(追加で)がかかる塗装である。多層ペイント塗装(アルビーム部分で3層に及ぶ)となり、3度に分けて塗装されている。一層塗るごとに手作業による磨き工程を繰り返すことで、液体金属的な外観に仕上がる。そのため、このアルビーム塗装の工程には、SLSの標準色ペイントや通常の特注色塗装に比べると、2.5倍もの時間が必要となる。

この手作業を含む通常塗装の2~3倍もかかる手間が価格に反映されて、このAMGアルビームシルバーは有償オプションの最高価格となった150万円もするわけだ。一方、「044 designoマグノアラナイトグレー」と「054 AMGマグノモンツァグレー」の2色のマットペイントも魅力的である。シルクマットの塗装により、エッジの輪郭をシャープに見せることで、2シーターSLS AMGのスポーティな性格を強調している。

SLS AMGはエンスー向きのメルセデス・ベンツ!

当時の「SLクラス」には、高級スポーツタイプとして「AMG」があった。それらのオーナーの中から、よりスポーツ能力の高いモデルを求める選りすぐりの腕自慢のために、SLS AMGが加わった。

メルセデス・ベンツは以前から着々とこのために準備を重ねてきたが、じつはすでに「AMGドライビングアカデミー」構想を立ち上げていた。SLS AMGが登場したことで、それが早速、本格実施されたのである。

その講習内容は、一流インストラクターによる車両紹介、レーシングタクシー(デモ運転)でSLS AMGの究極の性能を知り、さらにサーキットで自らハンドルを握って直接有益なアドバイスを取得できる、極めて魅力的なものとなっている。そう、心にマニアックな火を燃やしてくれるモデルなのだ。

徹底的にこだわるべくコストを惜しみなく投入

SLS AMGにおける走行性能へのこだわりを雄弁に物語る要素のひとつが、完全なドライサンプ方式による潤滑システムを採用したSLS専用の6.3Lエンジン「M156」をSLS用に設計しなおした「M159」により、車体にどのような方向からのGがかかってもエンジンオイルの潤滑ができることである。

つまり、極端に言えば前後/左右/上下のGに対して航空機のようにエンジンを上下逆さまの状態で回転させてもオイル切れを起こすことがない。非常に強い前後&橫Gのかかるレーシングカーやサーキット走行をも想定したスーパースポーツカーには非常に有効な方式である。

今まで記述してきた通り、このSLS AMGは、スーパースポーツカーであるがゆえに、能動的安全性の走行安全である「走る性能・曲がる性能・止まる性能」や受動的安全性に最新の安全技術とコストが惜しみなく導入され、トータルバランスのとれた高性能車に仕上がっている。

AMGが3年の歳月をかけて開発したエンジンは言うまでもない。このエンジン以外では、アルミニウム・スペースフレーム、リアにトランスミッションを置くトランスアクスル・レイアウト、カ-ボン製のドライブシャフト、SLS専用のブレーキなどにも惜しみなく最新の安全技術とコストが投入されている。

さらに、ボディ骨格がフルアルミニウムで構成されていることにより、骨格部分の重量が241kgと極めて軽量なこと。また、軽量にもかかわらず、メルセデス・ベンツならではの高い安全性・強度・耐久性を誇っている。受動的安全性を考慮し、Aピラー骨格には超高強度スチール・極超高張力鋼を採用。万一の事故や横転時にも高い強度のルーフやキャビンで乗員を守ってくれる。

* * *

伝説のメルセデス・ベンツ300SLを彷彿させるこのSLS AMGは、当時の競合車と比較しても比類のないパフォーマンスを備え新たな伝説を生み出した、メルセデス・ベンツとAMGが贈るガルウイングスポーツカーだ。当時のバリエーションもロードスター、SLS AMG GT3、SLS AMG E-Cell、SLS AMG GT、限定生産のブラックシリーズやファイナルエディションと拡張しながらも、SLS AMGは2014年に生産を終了し、後継は同年秋に発表された「メルセデスAMG GT」に受け継がれたのだ。

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みんなのコメント

3件
  • わんこ
    凄いとは思うけどかっこいいとは思えないのがここ最近のメルセデス。ベンツのフラッグシップスポーツカーで良いと思えたのはSLR マクラーレンくらいかな
  • natuob
    へー
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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