2017年上半期の売れ筋車トップ30は、1位プリウス、2位ノート……30位シャトル。全て前輪駆動車だ。でも、ちょうど30年前まで“日本一売れていた”カローラさえも後輪駆動車だった。今でもスポーツモデルや大型セダンに採用される『後輪駆動』は、フツーの車(=前輪駆動車)より、雪道で扱いにくいのか? その違いのヒントは“ノコギリ”にあり!?
文:松田秀士/写真:編集部、SUZUKI
スカイラインにV6ターボも!! 日本車なのに日本で乗れない車たち
『走り出す、止まる』は前輪駆動が有利
スイフトの透視図。ボンネットに収まるフロントエンジンは横置きで、トランスミッションはエンジンの横に付けられている
ノコギリで木を切ったことありますか?
日本のノコギリは引くときに切れるようになっていて、海外のは押したときに切れるんです。これ知ってます? 日本人と外国人は腕の使い方が違うんですよ。
これにはレーサーとしても面白い話があって、今はレースカーもほとんどパワーステアリングを装備しているから日本人ドライバーも押しハンドルで対応できるのですが、それこそ1990年前半以前はレースカーも“重ステ”ばかり。
ボクはF3000に乗ってる頃は基本的に引きハンドルでした。押しハンドルだと体力がもたない。でも、外国人ドライバーはその時代もほとんどが押しハンドル。日本人は二頭筋が強くて、外国人は三頭筋が強いんです。だから、外国人はボクシングが強い。と、ボクは勝手に考えています。ただ、最近は日本人もボクシングに強いので、ボクのこの方程式は変わってきているのかもしれませんが。と、まぁ、そんなことはさておいて本題。そうです、雪道です。雪道ではFF(フロントエンジン・フロント駆動)とFR(フロントエンジン・リア駆動)、どっちが運転しやすいのか?
はっきり言って、答えはFFです。今の車、ほとんどエンジンが前に搭載されています。しかも、FFの場合エンジンは横置きです。横置きということは、トランスミッションがエンジンの横隣りに接続されています。つまり、FFはエンジンの軽量化が困難で重いトランスミッションも、エンジンルームの前の方に固めて置かれています。フロントタイヤにたくさん荷重が載る構造なのです。
雪道は滑りやすいです。よく路面のμ(ミュー)が低いとか、摩擦係数が低いとか、我々専門家は偉そうにのたまいます。そんな専門用語使わなくても、雪道を歩いたり走ったりした人は知ってます。普段の路面とは違って滑るんですよね。
で、滑りにくくするのにいちばん効果的な方法が「重しを載せる」なのです。つまり文鎮。だから、FFは走り出す、止まる。FRに比べてめっちゃ得意です。じゃ、何故FRは雪道不得意なのでしょう? 冒頭のノコギリ思い出してください。
FFとFRの違いはノコギリの“押し引き”に似ている!!
ロードスターも『FR』。エンジンパワーを荷重が少ない後輪を介して路面に伝えるため、雪道では不安定になりやすい
ノコギリで木を切っているとき、押したときに刃が引っかかって、ノコギリ本体が行き場を失い、歪んだ経験ありませんか? それがFRなんです。ノコギリを引くときはFFと同じように引っ張られ、押すときはFRのように後ろから押されているのです。
FRの場合、引っかからず押した力が伝わったときはスムーズに走り出しますが、少しでも前の方で抵抗があると滑りやすい雪道やアイスバーンでは後輪が空転し、ノコギリのようにお尻が左右に振れてしまうのです。もともと後輪荷重が前輪に比べて少ないので、簡単に力が逃げてこのように不安定になりやすいのです。
そこで、現在の車には『トラクションコントロール』が装備されていて、空転を最小限に電子制御してくれるので何事もなかったかのように走り出します。でも同じ条件だと、FFなら電子制御の力を借りなくてもスムーズに走り出せる確率は高くなります。つまり、燃費も良くなるのです。
「雪道の登り坂」でもFFのほうが有利?
雪道でも登り坂なら荷重がかかるのは後輪。前輪を駆動するFFは不利に思えるが……
では、登り坂の雪道ではどうでしょう? その昔「ベタ踏み坂」というCMキャッチがありましたが、雪道では当然禁物です。しかし、勢いをつけなくては登れないような路面の坂もあるわけです。そういう場所では後輪に荷重がよく載るFRが有利、という人がいますがボクの経験ではやはり前輪荷重のFFが有利と思います。
どうしても前輪がスリップして登れない坂なら、方向を反対にしてバックで登ればいいのです。よりフロントに荷重が載ります。勢いをつけたベタ踏み運転は絶対にしてはいけません。登りきれたとしても止まれない危険性が高いからです。
どうでしょう? FRに乗っているあなた。雪道に行く気力を失いましたか? いや、FRを買う人は逆に雪道に行きたいはず。ボクもそうでした。F3に出場している頃、AE86を買って雪道によく出かけました。アクセルで車の向きを変える練習のためにね。
FRで雪道を走るのはとても楽しいです。後ろから押す力を上手にコーナリングに生かすことで、ドリフトしなくても気持ちよく曲がります。FFの切って引っ張って曲がる、とは根本的に異なる楽しさがFRにはあります。特に、現在の車はトラクションコントロールやABSが優れているので、車の性能が運転をサポートしてくれます。
後輪駆動車の雪道運転における注意点は?
後輪にチェーンを巻いたロードスターと、かつてインディ500で8位入賞を果たした実績を持つ松田秀士氏
ただし、覚えておいてほしいことは、5年以上古いスタッドレスタイヤは履かない。チェーンをつけたときは後輪のグリップが上がるので、コーナーでグリップの低いフロントを押し出して膨らむ危険性があること。これが雪道でのFRの注意点。
FFではフロントにチェーンを装着するのですが、ここで注意したいのは下り坂。特に凍結していたりすると、前後のグリップ力差が極端に異なるので、簡単にスピンモードに陥ります。急のつくハンドル、アクセル、ブレーキ操作をしないことです。
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