アルファタウリのルーキー、ニック・デ・フリーズは、序盤5レースを終了した2023年シーズンのF1でドライバーズランキングの最下位につけている。チームとしての競争力不足も一因にあるものの、チームメイトの角田裕毅に差をつけられている状況から、早くも彼が放出されるのではないかという噂まであがっている。
だが考えてもみてほしい。彼は長年F1のシートを得られなかった中でようやくチャンスを掴んだにもかかわらず、難しいマシンでシーズンをスタートさせることになり、5戦目にして早くも放出の噂が出ているというのだ。これはニック・デ・フリーズというドライバーのF1キャリアのほんの序章に過ぎない。
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デ・フリーズは昨年のイタリアGPで、アレクサンダー・アルボンの代役としてウイリアムズからデビュー。いきなり9位入賞を果たして周囲を驚かせたのは記憶に新しい。しかし、彼は今季5戦を終えて未だ無得点。特にここ2戦は、アゼルバイジャンで複数回ウォールにヒット、マイアミでもスタート直後にランド・ノリスと接触して苦言を呈されるなど、ミスが目立っている。
彼にはそんな現状を打開するための何かが必要だ。もっと慎重にブレーキを踏むのか、幸運の女神を味方につけるか……。さもなくば、岩佐歩夢やリアム・ローソンといったレッドブルジュニアの昇格に期待する人々や、ダニエル・リカルドの復帰を待望する人々から、デ・フリーズの解雇を求めるような声がさかんに出てくるだろう。しかし、ここまで早くにデ・フリーズを切り捨てるのは現時点では正しい判断ではないように思う。
デ・フリーズは本当に「期待外れ」なのか?
デ・フリーズは現在のリザルト以上のパフォーマンスを発揮する力があり、本人もそれを自覚している。ヘルムート・マルコのドライバー人事は大胆で予測不能な部分もあるが、彼としてもデ・フリーズが実力を発揮するためのツールとチャンスを与えないといけないのはよく分かっているはずだ。
結局のところ、デ・フリーズはここ数年様々なタイプのマシンを走らせている。昨年はメルセデスパワーユニット(PU)を積むチームからF1のフリー走行に参加したが、確かにF1マシン自体に慣れるのには役立ったかもしれないが、システムの異なるホンダRBPT製PUのマシンへの準備が万全にできたとは言えない。
しかも彼がこれまで3シーズンにわたって主戦場としてきたフォーミュラEは、レースフォーマットもマシンの走らせ方もF1と全く異なる。その適応の難しさは、F1からフォーミュラEに転向したアントニオ・ジョビナッツィの苦戦を見てもよく分かる。ジョビナッツィは昨年、フォーミュラEに順応するのがいかに難しいかを報道陣に繰り返し語っていた。それは逆もまた然り、ということだろう。
デ・フリーズはフォーミュラE参戦2年目の2020-2021シーズンにタイトルを獲得。翌2021-2022シーズンはチームメイトのストフェル・バンドーンの影に隠れる形となったが、それでも2勝をあげた。この頃彼はF1でのフリー走行のチャンスを得ていたが、今後に向けてはトヨタのリザーブとしてWEC(世界耐久選手権)に関わったり、インディカーのテストに参加したりと、様々な選択肢を模索していた。
そんな中でモンツァでのF1代役デビューレースが評価され、F1参戦の話が持ち上がるようになった。これは彼にとっても驚きだった。F1の夢は捨てていなかったものの、徐々に現実的ではなくなっていることに気付いていたのだ。彼はこの時点では、フォーミュラEのマセラティ(それまでのベンチュリ)に移籍してエドアルド・モルタラと組むことを考えていたが、結果的にその席にはデ・フリーズに代わってマキシミリアン・ギュンターが収まることになった。
そんなフォーミュラEでの成績だけでは、デ・フリーズがF1にふさわしいと判断するには十分でないと言う者もいるかもしれないが、彼はF1直下のシリーズであるF2でも2019年にチャンピオンという実績をあげている。ただそれに関しても『2019年は“不作”のシーズンだったから……』と主張する者が出てくるだろうが、その指摘が正しいかどうかは疑問だ。
確かにデ・フリーズがタイトルを獲得した2019年はややタレント不足だったかもしれないが、彼の活躍はその1年目、2018年シーズンから際立っていた。
彼にとってF2参戦2年目となった2018年は、今やF1で活躍するジョージ・ラッセル、ランド・ノリス、アルボンらが参戦しており、いわゆる“豊作”のシーズン。デ・フリーズはシーズン前半こそタイヤマネジメントに苦戦し、新車のトラブルにも泣かされていたが、後半はフィーチャーレースで連勝するなど力を発揮した。特にノリスを全く寄せ付けなかったハンガロリンクでの走りは秀逸で、デ・フリーズは終わってみれば上記の3人に次ぐランキング4位を獲得していた。
デ・フリーズの武器は、ハードなバトルを繰り広げる力と、巧みなペース配分でレースをコントロールする力だ。しかしフォーミュラEからF1への転向、そしてアルファタウリの戦闘力不足もあって、F1ではその力を見せられていない。むしろ、オーバーテイクのタイミングを見誤ったり、競争力不足をなんとかするために張り切りすぎてしまうといった、彼の課題とする部分ばかりが浮き彫りとなってしまった。
それらが解消できれば、デ・フリーズもマルコやチーム代表のフランツ・トストの期待に応えられるようになるはずだ。もっとも、彼は既にチーム内で自らの価値を示しているのだが、それはあまり表には出ていない部分だったりする。
確かなフィードバック能力には定評あり
デ・フリーズは昨年末のアブダビポストシーズンテストでアルファタウリのマシンをドライブした後、エンジニアに改善点のリストを提出したことが今季のプレシーズンテストの際に明かされていた。昨年のアルファタウリAT03は当初こそ期待されていたが徐々に調子を落とし、アップデートも効果が得られないような状態だった。デ・フリーズの行動はチームを驚かせたが、トスト代表は彼のフィードバックや方向性を支持したという。2023年のマシン開発に大きな影響を与えるには遅すぎたが、これが今度のアップデートで活きる可能性はある。
アルファタウリの技術責任者であるジョディ・エギントンは、デ・フリーズを次のように評する。
「ニックは多くの経験を積んでいる。彼はうちに加入するまでF1で1レースしか走ったことがなかったが、他のフォーミュラでの経験は豊富だし、F1のテストドライブの経験もある」
「そしてフィードバックも良い。彼は自分がマシンについて学習する中で、マシンに何を求めるのかの明確なイメージを形成している。だから彼はユウキと共に、我々の開発の手助けをしてくれている」
フォーミュラEのメルセデスでデ・フリーズを見てきたイアン・ジェームス代表も、彼のフィードバックを次のように絶賛している。
「彼は(F1昇格に)本当にふさわしいと思う」
「彼が(フォーミュラEの)シーズン6でチームに加入する際、彼はドライバーだけでなくチームプレイヤーとしての資質も認められていた。彼が加入するチームは、そのアプローチから利益を得られるだろう」
「彼は言うべきことを言い、改善すべき点を指摘するが、それを誰かを怒らせない形でやることができる。これはドライバーにとって非常に重要な資質だ。特に成長の余地があるチームに行くドライバーにとってはなおさらだ」
「F1が(フォーミュラEと)異なるシリーズであるのはそうだとしても、彼の性格ならきっとうまくいく」
では、関係者からこれほどまでに高く評価されているデ・フリーズが、なぜうまくいっていないのか? その答えを出すにはまだ早すぎるし、他のルーキーたちも同様に順調とは言い難い。これはテスト日数の少なさも無関係ではないだろう。
しかもデ・フリーズはルーキーでありながら、これまでの経験が豊富ということから期待をされすぎていた感もある。過去2年の角田のパフォーマンスに歯がゆさを感じていた者は、デ・フリーズが1年目から角田を打ち負かすのではないかと予想していたのだ。
しかし、角田は今季目覚ましい成長を見せている。ピエール・ガスリーの離脱も、彼を一層強くしたのかもしれない。アルファタウリAT04はグリッド上で最も遅いマシンとの評判だが、それにもかかわらず角田は開幕5戦で11位、11位、10位、10位、11位と安定した結果を残し続けている。
角田のレベルアップにより、デ・フリーズは一層平凡なドライバーのように見えてしまっている。ただデ・フリーズもマイアミGPの予選で角田を上回るなど、その速さを見せつつある。
レッドブル系列のチームは決断が早いことが往々にしてあるが、デ・フリーズは速さを見せていくことでチームから忍耐力を引き出す必要がある。少なくとも彼のフィードバック能力は証明されているし、アルファタウリもマシンの戦闘力を上げるために彼を必要としているはずだ。
今のデ・フリーズに求められているのは、その経験や知識を引き続き活かしながら、パフォーマンスが悪い意味で目に留まらないようにすることだ。
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みんなのコメント
角田が今年安定した速さを示している理由は、今年の車が角田が得意としているオーバーステアよりに変更してきたからだ。
入れ替わりかな
まあ角田が放出される可能性も高いが