70年以上のロングセラーとしてイタリア人に愛される「アペ」
昭和(元号ではなく、とくに第二次大戦後に相当する時代)がアツくエモいのは、海外でも一緒。とくにイタリアのモータリング史上、ねっとり濃厚な「昭和愛」を受ける存在が、4輪なら「フィアット500(チンクエチェント)」、3輪なら「ピアッジオ・アペ(Piaggio Ape)」だ。
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スクーター「ベスパ」の3輪バージョンとして誕生
「アぺ(Ape=ミツバチ)」は、いわゆる2輪のスクーター「ベスパ(Vespa=スズメバチ)」を積載用の後車軸で強化して荷台を加え、3輪の商用車としたミニマムなユーティリティ・ヴィークルだ。
誕生は1948年。ピアッジオ・グループの社史によれば、その年はイタリア共和国憲法がルイージ・エイナウディ大統領の下で発効し、フットボールの「セリエA」ではイタリアのモータウンであるトリノがスクデットを得た。オリンピック開催は戦勝国である英国のロンドンだったが、映画のアカデミー賞はヴィットーリア・デ・シーカ監督が獲得したとか。受賞作品が「自転車泥棒」だったことはビミョーな洒落かもしれないが、アぺはこれらと同級生。
2年前に市販されたスクーターのベスパの生産台数は2464台に達していたが、商店や職人レベルの復興ともどもイタリア産業の復興はまだ重い足どりにあり、日々の仕事で求められる必要を満たすために市販されたのがアぺだった。
何せスクーターと多くのコンポーネントを共有するがゆえ燃費は良く、イタリアの旧市街の狭隘な道に荷物を運びこむのに最適だった。初めて大衆が目にしたものの定石で、当初は新ジャンルとして「モト・バン」とあだ名されたアぺは、17万リラという安価さで零細企業でも導入しやすかった。それでいて初期モデルは98ccだった2輪スクーターとは対照的に、最初から2ストローク125ccのより力強いエンジンを搭載。アぺは瞬く間に受け入れられ、イタリアの商活動のリズムを加速させた。
イタリア経済の発展とともにバリエーションを拡大
1952年夏からは125ccから150ccに排気量が拡大され、200kgを積載可能となった。安易な重量増を良しとしなかったピアッジオだが、2年後には荷台を耐久性の高いスチール製に変更。これらの特徴を踏まえた最初のモデルチェンジで生まれた「アぺC」は、最大積載量を350kgにまで拡大した。このころになるとイタリア経済も高度経済成長期に入り、アぺCは輸出にも供されて5つの言語で広告キャンペーンを展開。当時のアドが今もいい味を醸し出している。
1958年には外寸サイズも排気量も拡大して170cc化した「アぺD」がデビュー。そのスローガンは時代を反映していた。英語的には「アぺ、あなたがメイク・マネーするのを助けるクルマです」だが、イタリア語はストレートに「アぺは(ペイバックする意味での)与える」。ようは乗って働けば、的な言外の留保はあるものの、「アぺは儲かる」といっているようなものだ。
そのキャッチフレーズ通り、1961年には荷台側を5輪化つまり耐荷重接地量を増やすことで積載重量を700kgとした「ペンターロ」が登場。さらには1966年、乗り手を雨風から守るキャビンを備えた快適仕様である「アぺMP」もリリースされた。
小型軽量な50ccモデルにパワフルな220ccモデルもラインアップ
だがイタリアでもいわゆる原付とそれ以上とを、高速道路での乗り入れ可否やナンバープレート登録の義務で分ける道交法改正が行われ、「ベスパ50」が1964年以来、大ヒットしていた。
時代の声に応えるため、アぺも1969年には初めて50cc、スクータークラス扱いとなる「アぺ50」こと「アピーノ」を投入。逆に1971年には本格的なキャビンと2スト・220ccエンジンによって小型の商用トラックと競合する「アペ・カー」を追加したのだった。
ジウジアーロのデザインした「アペTM」
つねにイタリアと時代を反映し続けて進化するアぺは、1982年にはジョルジェット・ジウジアーロによるデザインの「アぺTM」に進化。独立懸架サスに自動車ライクなステアリングすら備え、ホイールは12インチにまで拡大された。
その一方で、1984年には経済的なディーゼルモデルもラインアップ。このころになると、バカンスの季節にヤングが仲間内で短い移動に、気軽なアシとしてアピーノを使っている現象が注目され、盗難防止システムやステレオ・オーディオを備えた「アペ・クロス」も発売された。
2013年にはレトロブームに乗った新モデルも登場
実際、2000年代を通じてカプリ島やポルトフィーノなどでハリウッド・スターらがパパラッチされる度、移動のアシとしてバカンスの小道具として、アぺも登場した。現場仕事からビーチリゾートまで、長きにわたるイタリアン・ライフの象徴として、そのイメージがインターネット時代に拡散されたアぺは、2013年、生まれ変わる。今度は観光地での簡素な人員輸送車として、東南アジア発のトゥクトゥクのライバルとなる「ヌオーヴォ・アペ・カレッシーノ」となったのだ。
車両と一緒にイタリアン美女が彫刻のようなポーズをとる公告ビジュアルは、イタリア風の「昭和ノスタルジー」の発露というかお約束でもある。ギリシャ・ローマ以来、ヌードが裸なのと似たような感覚で、セクシーポーズ無しなだけでも21世紀ぽいので、鬼首とったかのようなスマート・ロジックの方が場違いであることは覚えておこう。
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