■クルマにとってはパリダカよりも厳しい? AXCRに参戦する三菱の目論見とは
突然ですが「アジアクロスカントリーラリーラリー(AXCR)」をご存じでしょうか。
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同ラリーは、アセアン(東南アジア諸国連合)で最大規模となるFIA公認のクロスカントリーラリー。山岳部やジャングルをはじめとするアジア特有の険しい環境の道を2000キロほど、約1週間をかけて走破する競技です。
コースは毎年変わり、今年(2024年)はタイ国内を約2400キロ走るルートを予定。そこへ参戦するのが「チーム三菱ラリーアート」です。
2024年7月4日に、同チームの体制が発表されました。運営は、現地タイの「TANT Sport Thailand(タント・スポーツ・タイランド)」、かつてダカールラリー(パリ・ダカ)で2連覇した増岡浩氏が総監督を務めるほか、日本の三菱自動車が車両を開発し、またチーム帯同のテクニカルサポートを実施。しばらくモータースポーツ活動から離れていた三菱自動車が大きくかかわる、久々のチャレンジとなっています。
車種はピックアップトラックの新型トライトン。現地のドライバー&コドライバーが2台、日本のドライバー&コドライバーが2台の計4台を走らせるというから楽しみです。
実は、三菱自動車が同ラリーに参戦するのは今回が初めてではありません。今年で3回目となります。
初参戦となる2022年は旧型トライトンで出走し、なんといきなりの優勝(速さではライバルに劣っていたが運が味方をした)。車両を新型トライトンへ切り替えた2023年(昨年)は総合3位で終えました。
参戦の発表に合わせ、メディア向けに取材会の機会がありました。今回の取材で筆者が感じたのは、三菱自動車としてかなり気合が入っているということ。
もちろん気合の入っていないモータースポーツなどないわけですが、今年は気合の入り方が違うことがひしひしと伝わってきました。
その理由は、クルマの作り込み。安全装備を加えただけのノーマルに近い状態だった昨年の車両に比べると、今年のマシンは明らかに改造の手が入っています。
たとえばエンジン。ライバルに対して排気量が小さいゆえにパワーでリードされていますが、燃焼圧を上げたりハイブースト化でパワーアップをはかりライバルとの差を縮めました。
トランスミッションは昨年の6速MT(タイ向けの市販車に積む純正品)に対してモータースポーツ用の6速シーケンシャルとなっており、これは大トルクの入力にも対応できる(エンジンをパワーアップできる)というメリットももたらします。
またサスペンションもダンパーやバネの変更だけにとどまらず、アーム類やナックルなども大幅に強化した専用品を装着。リヤサスは板バネからコイルスプリングを組み合わせた4リンクリジッド化へと大きく構造を変えました。もちろんベースは市販トライトンですが、昨年に比べると大きく戦闘力が高まっていることが見て取れるのです。
「競技にかける意気込みは、クルマを見ればわかる」といったところでしょうか。
ところで、三菱はなぜラリーに参戦するのでしょうか。これについて「過酷なモータースポーツ現場でのクルマづくりに活かすため」と三菱自動車は説明します。
また、「クルマにとってはパリダカよりも厳しいかも」と言うのは総監督を務める増岡氏。
増岡氏は、「雨が降った後の泥が乾いてカチカチになる路面をはじめガタガタした道がたくさんあって、砂漠を走るパリダカよりもクルマにかかるストレスは大きい。耐久性や信頼性が求められる過酷な環境で鍛えれば、その知見が市販車にも反映されてもっといいクルマが作れるようになる」と続けます。
また、今回は4 台のうち1台を増岡さん以来となる社員ドライバー「小出一登氏」がハンドルを握って参戦することも大きな意味があります。
それはテストドライバーとしての能力向上。小出氏は車両実験として新型車の開発をしている三菱自動車の社員であり、速くクルマを走らせるというよりは、競技を通じて評価ドライバーとしての能力向上が期待されての登用というわけです。
「テストドライバーの能力と実際に走る路面の険しさ以上のクルマは作れない」と増岡さんは語ります。車両だけでなく、ドライバーの知見も培って今後のより良い市販車作りに役立てるという意図があるのです。
ちなみに小出選手は2024年スペックの車両ではなく、より市販車に近い2023年スペックの車両で出場。これは「実績のあるクルマでバックアップにまわる」ほかに「より市販車に近い仕様で参加することで量産車作りにフィードバックする」という意味もあります。
さて、三菱のクロスカントリーラリーといえばイメージするのはやはり「パリダカ」。実は、トライトンを改造した今年の参戦車両はパリダカ時代のパジェロと共通する部分があります。
それはリアサスペンション。その設計はパリダカ(ダカールラリー)時代の終わりの頃のパジェロを参考にしたもので、ジオメトリーなどはほぼ同じなのだとか。パリダカ用のパジェロの設計を参考にして作り上げたそうです。
いっぽうで、パリダカ時代と大きく異なるのはドライバーの環境。パリダカの頃は車両にエアコンがついていませんでした。
エンジンだけでなく各部から発生する熱を逃がすために多くの冷却装置を備え、増岡さんによると「冷却系のファンだけで相当電気を消費するので、ドライバーとコドライバーを冷やすまで(エアコンを装着するところまで)は手が回らなかった」そうです。
砂漠なので窓を開けると砂が入ってくるから窓を開けて外の空気を取り込むこともできず、車内は灼熱地獄だったのだとか。
いっぽうでアジアクロスカントリーラリー参戦車両はエアコンを備え、ドライバーの環境はパリダカ時代とは比較にならないほど向上。また2023年仕様のトライトンはシーケンシャルシフトですが、昨今のクロスカントリーラリーではATが主流となっているのもかつてとの大きな違いと言えるでしょう。
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