自動車の電動化が進む今、かつてあった内燃機関を搭載した旧車に注目が集まっている。なぜなら最新モデルでは得難いエンジン・サウンドやエンジン・フィール、ハンドリングなどを有するからだ。そこでGQ JAPANではちょっと懐かしいクルマを振り返り、旧車ならではの魅力を深めていく。第1回目は1985年に登場した初代Eクラス(ミディアムクラス・W124)。今なお高い人気を誇る理由はいかに? 当時を知る小川フミオが考えた。
はじめになぜ今、旧車に注目すべきか?
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近年、各自動車メーカーは、環境保護の観点などから電動化を推し進めている。結果、内燃機関のみを搭載した──つまり、ガソリンで動くクルマは減りつつある。
BEV(バッテリー式電気自動車)は内燃機関と異なり“爆発”がないため、挙動がウルトラスムーズだ。かのロールス・ロイスもBEVこそ我がブランドにふさわしいということで新型「スペクター」を投入する。
とはいえ、内燃機関ならではの振動・サウンドが味わえなくなるのを寂しく思う人も多いはずだ。それもあってか今、中古車市場では1970~1990年代の一部のモデルが高騰。たとえばR32型の日産「スカイラインGT-R」は、状態の良い個体だと1000万円を超すプライスになるからすごい。
では、旧車の魅力とはなにか。たとえば車重。安全基準が今ほど厳しくない時代につくられたからこそ軽く、取り回しも独特のフィーリングだ。ターボラグ(アクセルペダルを踏んでからターボチャージャーの過給効果が発生するまでのタイムラグ)さえも、今のクルマでは味わえないから魅力と感じる人もいるかもしれない。本企画では当時を知る自動車ライターたちが、思い出を織り交ぜながら旧車の魅力を探る。
“バリューエンジニアリング”
いま、セダンが新鮮らしい。それなら、いちどメルセデス・ベンツの初代Eクラスなんて、どうだろう。
“W124”とマニアが呼ぶ1980年代から1990年代にかけてのモデルは、本当によく出来たモデルなのだ。
セダンって、オールド世代には、もっともオーソドクスな車型だけれど、ハッチバック、ミニバン、SUVで育った世代には、斬新らしい。しかも世界的にセダンは減少傾向とはいえ、日本とドイツにはいいセダンがまだまだある。
もうすこし中古車の世界に踏み入って、愛せるセダンが欲しいなんて人には、メルセデス・ベンツが1985年から1993年にかけて作っていた初代Eクラスは良き選択になるはずだ。
1993年夏まではミディアムクラスと呼ばれたW124シリーズ。まずセダンが登場し、続いて1985年にTモデルというステーションワゴン、そして1987年にクーペが、1992年に4人乗りカブリオレが発表された。
1980年代、私の周囲で儲かっているカメラマンは、アウディ「100アヴァント」から、230TEや300TEに乗り替えていたものだ。
ここではあえて、セダンに話をしぼろうと思う。セダンは乗り心地や静粛性やトランク容量において、たいへん機能的な車型だから、未体験の人はいちど体験してみてはどうだろう?
思い返すと、1982年のW201というコンパクトクラス(190E)と、初代Eクラスから、メルセデス・ベンツは新しい時代に入った。
ひとつは、車体やドライブトレインのバリエーションを増やして市場を拡大する点。もうひとつは、“バリューエンジニアリング”とも呼ばれたが、うまく製品のコストダウンをおこなった点だ。
最良の部分はいかに?初代Eクラスと並び、1979年から1991年まで生産されたSクラス(W126)には根強い人気がある。おそらく理由は、上記のように、企業姿勢が変わるちょうど端境期にあたるプロダクトだから、といってもいいかもしれない。それでいて、以前からのメルセデス・ベンツの製品づくりの理念も残っている。それがわかりやすく感じられるのがW124シリーズの魅力だ。
基本的には重いし、エンジンはそれほど力がない。とくに、現代の小排気量ながら大トルクを有するエンジンに慣れていると、おどろくほど遅い。
W124において最良の部分をどこにみつけるか? 評者によって変わってくるとは思うけれど、質感の高い造りが魅力的に思える人には、1990年までの前期型がよい。
というのも以降は、先述したようなバリューエンジニアリングが採り入れられ、ドア下には合成樹脂パネルが張られたり、シートの作りが単純化されたり……。見た目はよくても品質感でちょっと劣るようになったからだ。
欧州車と日本車が決定的に違うのは、前者は過去にさかのぼればのぼるほど、作りの質感が高いモデルが見つかる点だ。
厚い鉄板、ぜいたくなウッドパネル、高級家具のようなシート……。これらは、新車ではみつからないものばかり。古いメルセデス・ベンツが、いいモノ好きの心をとらえるゆえんである。
W124シリーズは、ただし、初期のモデルはエンジンが非力という、ネガを併せ持っている。
初期のSOHCエンジン搭載モデルは、排気量が2.0リッターを超えても、たとえば中央高速道路の談合坂あたりの上りでは、どんどん加速が悪くなって、ドライバーは冷や汗、なんて場面もあった。
パワーがあるのは、1992年以降の、4バルブヘッドの3.0リッター6気筒搭載の300E-24とか、320E(1993年からE320)だ。
“最善か無か”いっぽう、ハンドリングのよさは、モデルライフのあいだずっと魅力であり続けた。
「いってみれば1枚の板を4本のスプリングで吊るようにして動かすのが、メルセデス・ベンツのシャシーの考えかた」
これは当時、私が聞いた、メルセデス・ベンツ本社の技術広報担当者の言。BMWとは違う味を大事にしているのだ、という話のなかで説明された。
実際、W124のボディコントロール性の高さに振幅する人は多い。自動車ジャーナリストのあいだでも、いまあえてW124を選ぶというひとがいるぐらいだ。
中古車価格は、200万円台から300万円台が中心で、後期型が多いようだ。個人的に魅力的なのは初期型だけれど、実際に乗るなら、1990年代に入ってからの320Eあたりだろうか。
内装はというと、当時のメルセデス・ベンツ車のレザーシートは硬すぎたし、合成皮革のMBテックスは夏に暑い。快適性と、上質性でいえばベロアにとどめをさす。せめてモケット(布)張りがよい。
そういえば、トップグレードというか、特別なモデルとして500E(のちにE500)という5リッターV8搭載車が1991年に追加された。
大きく張り出したフェンダーと低い車高。大排気量で高出力のエンジンを使った特別モデルは、300SEL6.3や450SEL6.9などを手がけていたメルセデス・ベンツが得意とするところだった。
とはいえ、日本市場では敬遠されるブレーキ鳴きの問題が解決しないなど、売るほうにとっては頭の痛いモデルであったようだ。本国で生産終了する前に、日本への正規輸入は中止された。
話を戻すが、近年は、電装関係パーツの在庫がなくなってきているそうで、程度より価格を優先して買うと、痛い目に遭うかもしれない。
魅力的ではあるが、多少の覚悟がいるクルマであるのは、”最善か無か”を追求したメルセデス・ベンツとて、例外ではないのだ。
文・小川フミオ
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みんなのコメント
w124AMG6L500e等所有してますが。巷で言われる程トラブル起こして交差点で動かなくなるなど皆無です。新型に乗り換える気持ちなど更に無いですね。60等宝物です。