ボルボのフラグシップSUV「XC90」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸した。PHV(プラグ・イン・ハイブリッド)モデルを田中誠司が試乗。電動モデルの魅力とは?
ロールス・ロイスを思い出した乗り味
ボルボのトップ オブ ザ レンジである「XC90」は、ガソリンエンジンの「T5」「T6」、ディーゼルエンジンの「D5」、そしてガソリンエンジンをベースとするプラグイン ハイブリッドである「T8ツインエンジン」からなる4種のAWD(全輪駆動)パワートレインを用意する。これに「モメンタム」(T5、D5)「インスクリプション」(T5、T6、T8)「エクセレンス」(T8のみ)という3種類のトリムレベルを設定。合計6種類のチョイスが可能なほか、「D5 AWD Rデザイン」という特別仕様車もオーダーできる。日本のボルボに占めるXC90の販売比率は約5.5%と、車両価格を考えればなかなかのレベルであるが、グローバルでの数字は14.3%に及ぶというから、まだまだ開拓できるセグメントだと販売サイドは考えているはずだ。
2020年3月に試乗したのは「T8ツインエンジン AWD インスクリプション」で、税込み車両本体価格は1129万円。4人乗りで特別に豪華な「エクセレンス」を除いたなかでは、つまり、7人乗りのなかでは、最上級モデルである。
Sho Tamuraずしりと重いドアの向こうには、明るいグレーのアッシュウッド・パネルと柔らかく目の詰んだナッパレザーに包まれたインテリアがひろがり、中央にはそのワイングラスがノーベル賞の晩餐会で使用されるという、オレフォス社によるクリスタル ガラスのシフトノブが配される。
スウィッチの類は極力排除して、ダッシュボード中央の縦型ディスプレイに集約した。贅沢であり、ミニマルでもあるインテリアは、“スウェーデンが作る最高級車”に相応しい出来栄えだ。
Sho TamuraSho Tamuraそんなスカンジナビアン・デザインから想像されるとおり、ステアリングホイールの操舵感は軽く繊細だ。人差し指と親指でつまんでまわすのが適切なようにすら思える。最高出力87ps/最大トルク240Nmのピークパワーを持つモーターに後ろからそっと押されて走り出すと、その静けさ、2370kgという車重、高いシートポジションとエアサスペンションの組み合わせはかなり異質なものに思われた。私がこれまで乗ったクルマで一番印象が近いものを挙げるなら、ロールズ・ロイス「ファンタム」だ。
Sho TamuraSho TamuraSho TamuraSho Tamuraエンジン+モーターによる力強さ
しかしここは勾配の多い箱根山中、アクセルペダルの開度が高まれば途端に4気筒ユニットが起動し、浮世離れした感覚から目を覚ますことになる。スーパーチャージャーとターボチャージャーの双方を装着して2.0リッターの排気量から最高出力318ps/最大トルク400Nmを絞り出すガソリンエンジンは、高級車向けというよりもスポーツカー向けの活発さで、電気だけで走っているときとはまったく異なる印象に変わる。その豹変ぶりに、ちょっと苦笑いしてしまう。
Sho TamuraSho Tamuraけれどもこのエンジンとモーターのタイアップはなかなか強力で、ハイブリッドではないXC90より300kg近く重いボディを上り坂も苦にせずグイグイ加速させていく。前後のタイヤが鮮烈なトルクで路面を蹴る様から、このパワートレインをベースにラリーカーを作ったら、さぞ面白いだろうと夢想した。
電子制御ダンパーを組み合わせたエアサスペンションは、低く構えたダイナミック・モードを選ぶことも可能で、山道で足取りを速めてもなかなかバランスのよい走りを見せる。リアにモーターを配し、センタートンネル部に34Ahの駆動用バッテリーを搭載した結果、前後重量配分は51:49という理想的な配分なのだ。
Sho TamuraSho TamuraSho TamuraSho Tamuraタイトコーナーでは、ロック・トゥ・ロック2.8回転のステアリング・ギア・レシオがちょっとスローなことを意識する。またコーナー出口でアクセルを大きく踏み込むシーンにおいて、モーターで加速する後軸が即座に最大トルクで蹴り出されるのに対し、エンジンで加速する前軸はシフトダウン後のトルクの立ち上がりが僅かながら遅れるため、一瞬コーナリングの軌跡が乱される傾向があった。ブレーキは少なくとも絶対的な制動力は十分で(フェードの有無は確認する時間がなかった)、ペダルストロークと踏力が比例しない傾向はあるものの、登場当初に指摘された回生ブレーキとの協調に不満は感じなかった。
Sho Tamura贅沢とはなにか?
そんなふうに山道を振りまわしていてふと心に甦ったのは、若いころの私が7万kmにわたり愛用していたボルボ「240セダン」のことだ。
最高出力がたった115psしかない2.3リッターの直列4気筒エンジンは、燃費も良くなくて、平均で8km/L、高速道路で頑張っても10km/Lがせいぜい。サステイナビリティなんて言葉は日本語にない時代、それでも私は、ボルボに乗り続けることが省資源で環境によいことであると信じていた。ボルボはタフで、部品もいっぱいあるからいつまででも乗り続けることができる。1980年代の半ばに鉄板の防錆処理が改善され、雨漏りで床が水浸しになっても錆びなかった。このクルマが土に還ることはおそらくない、それを大事に走らせることが大人への階段を登ることだ、と感じていた。
いまボルボのハイブリッドカーを買うような人々は、アクセルペダルを床まで踏み込むことよりも、いかに粛々と走り燃料を使わず地球を汚さないかに心を砕いているに違いない。私は箱根ターンパイクの頂上から、アクセルペダルを完全に閉じたまま麓まで下り、極力ガソリンエンジンを起動しないピュア モードで、箱根湯本を経由し強羅を目指した。
Sho TamuraSho TamuraSho TamuraSho TamuraSho Tamura私の240セダンよりちょうど1トン重いXC90 T8は、さすが徹底的に遮音に配慮してあり、モーターに備わるインバーターの音や各種リレーの音、外部騒音やロードノイズなど電動パワートレイン車で気になりやすい騒音を、とても高いレベルで排除している。半分ほど貯まったバッテリーは上り坂を走ったので10km少々で力尽きたが、静寂とエア サスペンションならではの浮揚感に包まれながら、いつまでも走っていられればと思った。こまめにプラグインでの充電を利用したり(スペックシート上の最大電動巡航距離は40.4km)、身長172cmの筆者でも窮屈に感じない3列目シートを日常で使いこなしたりするようなライフスタイルなら、ますます贅沢だ。
Sho Tamuraバッテリー容量の大きいプラグイン ハイブリッド車を長く愛用するにあたって、気がかりなのはバッテリーの交換費用や保証内容だろう。ボルボ カー ジャパン広報部に問い合わせたところ、「MY20モデルでは『8年もしくは16万km』内での不具合や規定以上の劣化に関しては無償交換とさせていただいております。上記範囲外での有償交換は可能ですが、PHEV導入後8年に満たないこともありまだ実費交換での費用は設定しておりません」とのこと。慌てる必要はないけれども、消費者の意識も高いに違いないボルボには、ハイブリッド車のサステイナビリティをぜひ主導してほしいと願う。
文・田中誠司 写真・田村翔
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みんなのコメント
担当セールスが表現したXC90の乗り心地だが、試乗して決して大袈裟ではないと思わされた。
ロールスロイスは運転した経験は無いが、きっと近いものがあると思う。
限りなくフラットな乗り心地、柔らかな暖かみがあり癒されるインテリア、装甲車のような堅牢なボディ、事故を起こすのが難しいとまで感じる電子デバイスによる安全性など、ジャーマン3のSUVに勝るとも劣らない優雅な車両と言える。
私はT6インスクリプションを選んだが、決して買って後悔する事がないSUVだと断言したい。