1966年創立のトルコの老舗メーカー『カルサン』
電気バスというと、アジア製をイメージする人が多いかもしれない。たしかに日本を走る電気バスの多くはBYD製だし、日本メーカーと謳っているが生産は中国という車両もある。今年は韓国ヒョンデも電気バスを日本に導入すると発表があった。
【画像】トルコの自動車メーカー『カルサン』の電気バス『e-JEST』 画像はこちら 全6枚
もちろんこうなった理由のひとつは、日本の大手メーカーが電気バスに対して消極的だったことにある。しかし日本人の中には、中国や韓国メーカーに対して好意的でない人もおり、国内の道路にこうした国々のバスが走ることに対して冷ややかな層もいるようだ。
それならこのバスはどうだろうか、と思ったのが、トルコの『カルサン』というメーカーが生産販売する『e-JEST』だ。
カルサンは1966年創立という長い歴史を持ち、バスを主力としてきたが、欧州の乗用車メーカーの生産も担当しており、最近はルノー・メガーヌの3ボックス4ドアセダンを手がけている。
でも僕がカルサンを知ったのは、それが理由ではない。2009年に行われたニューヨークの次期タクシーキャブの入札で、3台のファイナリストのうちの1台にカルサンが入っていたからだ。
選ばれたのは日産e-NV 200だったが、僕はカルサンのV1コンセプトの斬新なデザインに感心し、トルコのクルマづくりのレベルが高いことを実感した。
e-JESTに出会ったのは、今年6月に新宿で行われた『BICYCLE-E-MOBILITY CITY EXPO 2024』だった。その後話を聞くと、複数の都市で走りはじめているとのことで、取材を申し込むに至った。
今回取材したe-JESTは、カルサン初の電気バスとして2018年発表。輸入を行うアルテックは、産業機械・機器がメインの商社であるが、2020年にモビリティ分野への進出を考え、欧州のモーターショーでe-JESTを見て決断したという。
バスでは珍しい、4輪独立懸架
現在国内でこれに近いサイズのバスというと、ディーゼルバスでは日野『ポンチョ』、電気バスではBYDの『J6』が主力だ。
e-JESTは、上で挙げた2台よりやや小柄であるうえに、フロントモーター前輪駆動となっていることが特徴となる。欧州の小型商用車の多くがこのレイアウトであり、日本ではプジョーの小型商用車のプラットフォームやパワートレインを使って作られた初代ポンチョがこの方式だった。
モーターはBMW iシリーズ用を使用。カルサンはそのためにBMWと提携した。サスペンションはバスでは珍しい4輪独立懸架。前輪駆動というと、路線バスで大切な小回り性能が気になるところだが、実際は写真のとおり大きく切れる。
導入にあたっては、まず右ハンドルのプロトタイプを作ってもらい、白ナンバーで登録してテストを重ね、それをもとに日本仕様の内容を煮詰めて生産を開始。これまで長野県伊那市や栃木県那須塩原市に導入されている。メンテナンスについてはJRバス関東が協力している。
日本仕様は右ハンドルとなったほか、車内のパイプはバリアフリー対応となり、車椅子固定装置も装着。シートはモケット張り、サイドウインドー上端の開閉部はスライド式になり、観音開きだったドアは張りの少ない片開きとなった。
欧州車の流れを汲むデザインも魅力
市販型は10月に東京の海の森競技場で開催された『第10回バステクin首都圏』でも展示されたが、僕はその前にプロトタイプに乗る機会に恵まれた。取材対応してくれたアルテックのスタッフは、三菱ふそうトラック・バスにいた人が多く、運転をはじめバスの扱いに慣れていたことが心強かった。
そのときの印象をひとことで表せば、これまで乗車したあらゆるバスの中で、もっとも乗用車に近かった。
バスのインプレでこういうことを書くのは変かもしれないが、とにかくサスペンションがよく動いていると言う印象で、乗り心地は不快ではないし、交差点を曲がるときも安定している。さすが4輪独立懸架を採用しただけあると感じた。そしてもちろん電気バスなので静か。カルサンに対する信頼性はある程度持ち合わせていたが、今回の乗車で、さらにその印象が高まった。
この日は平坦路のみだったが、前輪駆動ということで気になる登板性能も、25%を保証している。満充電での航続距離は210km。路線バスとして使うなら十分だ。
そしてやはり、デザインについて触れないわけにはいかないだろう。面の取り方や窓まわりのグラフィックなど、日本を含めたアジアのバスとは明らかに違う造形で、トルコのクルマづくりが欧州流であることを教えられる。
バステクin首都圏には他にも日本の会社が関わった小型電気バスがいくつかあったが、いずれもベンチャーを含めた中小の会社が手がけたもので、大手メーカーが販売する電気バスは、今年発売されたいすゞエルガEVのみであり、小型はない。
大都市はともかく、地方では人口減少によりバスの需要は減っており、乗客は数人ということもある。利用者にとっては、需要に見合った小型の車両を数多く走らせるほうがありがたいし、ディーゼルエンジンより電気のほうが静かで良いと思うはずだ。
そういう意味で小型の電気バスは今の日本に求められているバスと言えるし、中国製が幅を効かせるこのジャンルに、欧州に近いトルコからの参入車両があるというのは、欧州車を数多く乗り継いできたひとりとして好ましいと思った。
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